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あんな、真実って200種類あんねん

まずは何より、亡くなられた彼女に深い哀悼の意を表し、
ご遺族にはお悔やみ申し上げます。
四十九日を過ぎ、彼女の魂が安らぎに満ちた場所に辿り着いているよう願います。

この1週間近く、ずっと情緒が安定しませんでした。
正確に言えば、9月の終わりから。
毎朝、夢だったらいいのにと思って目覚めてSNSを見て落胆、
という日々を繰り返し、一縷の望みをかけては落ち込み、
色んなものに怒り、自分の在り方に悩み、
全てに嫌気がさして茫漠と過ぎ去っていった10月。

11月に入りようやく、他組のDVDから慣らしていって、宙組のDVDを観て以前と変わらずに(時折映る彼女の笑顔に胸は痛みましたが)見られる自分に安堵して、これからも贔屓を応援しようと心を新たにしたタイミングで、遺族側弁護士の会見があり、再度劇団に失望し。
翌週に行われた劇団側の会見の下手さに「もうちょっとどうにかならんかったんか」と辟易し、報告書を読み込んで「なんでこの報告書であの会見になるのか」「事前レクやったのか」「まともなスポークスパーソンを親会社から借りてこい」など色々不手際を指摘したくなりつつ、遺族側弁護士の会見もみて(勝ち負けではないけど)「あぁ、これは(印象操作という点で)負けだわ」と痛感し。

ですがその後に吹き荒れたメディア、SNSでの誹謗中傷の嵐は、
想像を絶するものがありました。

私は、現在日本を離れているので日本のテレビをすぐには見られない状況にあります。それでもSNSから漏れ聞く偏向報道やネットニュースのミスリードを誘発する切り取り方、したり顔のコメンテーターのサムネイルを見るだけで吐き気がしました。
今起きていることの悲惨さを、どう伝えればいいのか何度も文章をしたためては言葉に詰まり、諦めかけていましたが、今回、とある週刊誌に贔屓の名前が載ったことから、「諦めてはいけない」と思って心を奮いたたせて書き上げた次第です。

私は、弁護士でも警察官でもありませんが、仕事で訴訟の準備をすることや法令を目にすることがしばしばあり、「事実」と「真実」の違いを考える機会が一般の人より多かったと思います。
また、「何かがあった/なかった」とするときに、どういう証拠の積み上げ方が必要なのかもほんの少しだけノウハウがあります。
勿論、本職の方々には負けますし法解釈はてんで素人です。

・故人の業務量、勤務時間は厚労省の定める基準に照らして多かったか、
少なかったか。
・故人への業務上/業務外の指導があったのか、なかったのか。
・それは社会通念上の程度を超えるものであったのか、なかったのか。
厚労省の定めるパワハラ6類型に照らし合わせて条件に合致するか。
・自死に至った主たる要因は極度の過労なのか、厳しい指導(パワハラ)なのか、あるいはその両方なのか、他に要因はないのか。
・故人の負担をサポートする存在はあったのか、なかったのか。
・故人の既往歴
・他に故人の心理的負担となる要因はあったのか、なかったのか。
・故人の死を予見できたものはいたのか、いなかったのか。

本来、彼女の死の責任の所在を明らかにするのであればこれらが検討されるべきです。
劇団側は明らかに勤務時間、業務量は多かったとしてその部分は認めて謝罪しました。
遺族側弁護士も、勤務時間の認定に異議があるとしつつもこの部分は認めました。
残るパワハラ認定については、今回の報告書では明確な証拠がないが、
指導、叱責について故人に対して一定の心理的負荷があったことは認めています。
ですが、報告書では厚労省の定めるパワハラ6類型と照らし合わせた際の「パワハラ」には該当しないとされ、「パワハラと認定される行為はなかった」と劇団側は発表しました。
(パワハラの認定基準については末尾に厚生労働省のHPのリンクをつけておきます)
この「パワハラはなかった」と言う言葉が一人歩きして、劇団側が非を認めなかった、開き直ったという印象が先行しているように思われます。

この件について、私なりに思うところはあって、一言で言えば「マイクパフォーマンス下手くそすぎちゃう?」なのですが、今回の報告書内で明確な証拠(録音、故人宛の罵倒ラインなど)の記載がなかったのも事実。
(もしかしたら遺族側は出していて、報告書が握り潰しているのかもしれないし、遺族側が隠し球でまだ持っているのかもしれません)
遺族側弁護士は「証拠の採択の仕方に疑義がある」「こちらの提示した証拠が加味されていない」「そもそも第三者委員会の設置基準を満たしていない(劇団側は最初から第三者委員会とは言っていない)」と報告書の正当性そのものを切り捨てていましたが、であれば遺族側が提供した証拠を提示して反論する必要があると思いますし、本来そこまで拗れたなら訴訟になると思うのですが、「現時点で訴訟は考えていない」と2度ほど言われました。
これはできるだけ穏便に済ませたいご意向なのか、実は有効な証拠がないのかはわかりませんが、ひとまずは11月中に劇団側と遺族側で話し合う機会をもうけるつもりで、そこでの進展を「悲観も楽観もしていない」といって会見は終了しました。

会見を見て、報告書を読んだ私としては11月中に行われるその話し合いが実りあるものであるよう、また劇団側がもう少しご遺族に寄り添う姿勢を見せてくれたらと祈るばかりでした。

しかし、その後も続く報道がひどすぎる。
加害者側とされた劇団員の写真をSNSに載せて「逃亡犯」「犯罪者」扱い、歌劇団があたかも非人道的な行為が横行する軍隊のようだとする報道、
劇団員は幼少期から芸の道を教え込まれ世間知に疎く人間性の成熟に欠けるという根拠のない侮辱、少しでも反論すれば「加害者擁護」「ご遺族にそれが言えますか」と意見が封殺される。
OGや関係者が耐えかねて苦言を呈しても「自己保身」と言われる。
あまりに一方に偏り過ぎていることを誰も指摘しない。石をぶつけ放題。
人権意識の欠片もないこの状況が痛ましいです。

わかります、1人の若い女性が自死した。
遺族は悲しんでいる。遺族側弁護士はやり手の社会派。
劇団側の対応は不審があり、会見の印象は最悪。
どちらにつくべきかは明らかで、「謝罪しろ」と叫ぶのは被害者擁護に繋がり社会正義の実現に寄与している感覚をくれるでしょう。

「自分の娘がこんな非業の死を遂げたらと思うと」と言う憤りもあるでしょう。ですが、一方で
「自分が(あるいは自分の娘が)、本人の身に覚えのないことで、身の潔白を主張したにも関わらず日本全国から吊し上げられたら」
現時点では、この視点も必要なのではないでしょうか。

繰り返しますが、故人の死の主たる要因が何であるかの検討は為されていません。明らかだったのは極度の過労状態であったことのみ。
その状態で、ここまで個人を中傷してよいのでしょうか?
宝塚の劇団員は、在団中はSNS等で自分の意見を発信できません。
彼女たちにできることは舞台に立つこと、舞台上で自分たちが磨いてきた芸を披露することだけ。
その機会もないまま、延々と中傷に晒され続ける彼女たちを思うと胸が痛むと同時に、心配がよぎります。
はっきり言って今、誰が死んでもおかしくないです。
センセーショナルな見出しで強い言葉を使えばインプレッションが稼げるかもしれませんが、
あなた方がメスをいれているのは宝塚の暗部ではなく、そこに所属する劇団員の心臓かもしれないことを自覚してほしいです。

良識ある人は口をつぐみ、熱心なファンが何か言っても「カルト」「お花畑」と切り捨てられ、反論が封殺される状況。
彼女たちは孤立無縁です。あまりに酷い。

今回、某週刊誌に宙組の話題がでました。
別の劇団員が内部の問題を是正するために動いたと言う、
一見美談のような話でしたが、組内の分断をあおり、加害者側とされた人たちを、突き詰めて言えば現トップを追い込むために書かれたような印象を受けました。
きっと彼女達の心が折れて、泣きながら謝罪して退団を選べばこの騒動は終息するのでしょう。
けれどそれは、真実が明らかになったと言うことではないのです。
世の中の多くの人がスッキリしたいがために、彼女達の心をすりつぶしただけです。
さらに言えば、仮に、パワハラが事実であったとしても、
日本は法治国家のはずで、こんな私的制裁が横行してはならないと思っています。
個人の意見は自由、許せないものは許せない、そうかもしれませんが、
どうか立ち止まってほしい。
熱狂が過ぎ去った後に、あなたが加害者にならないために。

これだけくどくど書いてうまくまとまらないことに我ながら絶望していますが、とりあえず言いたいことは「SNSの誹謗中傷ダメ、絶対!」と「マスコミは自重しろ、お前らこそ自浄作用ないだろうが」「あとは遺族側と劇団側の話し合いの結果を待ちましょう」です。

私は、今も変わらず彼女達の舞台の幕が上がることを望んでいます。
裏側に辛いこと、身を削る努力があったのはわかっています。
けれどそれを経て立つ舞台で彼女達が得ていたもの、
私たちが得ていたものもあるのです。
それをある人は「共同幻想」と呼びました。
彼女達が自らの意思で舞台に立つ限り、心からの拍手を贈りたい。
ずっとその日を待ち望んでいます。

これはあくまで私の意見です。
私が正しいとは思っていません。
違う考えの方もいらっしゃるでしょう。それは構わない。
ただ、私の文章を読んでなにか引っ掛かるものがあれば、
それがなぜ引っかかったのかを少し自問してみてください。

※なお、この文章の中でうまく入らなかったので「ヘアアイロン云々」「ヒアリング拒否」「外部弁護士といってたのにエイチツーオーリテーリングの社外取締役おったやんけ」の3点についての私の見解を補足でつけておきます。

・ヘアアイロン事件
これも「故意なのか過失なのか」の検討が十分にされていない。
本来なら怪我の位置、アイロンの種類、髪型指導時の2人の立ち位置、怪我の程度、処方された薬の量、看護師の証言の正当性(やけどの頻度が劇団全体でどうなのかなど)、怪我の予後などを含めて検討されるべき事案。
「未必の故意」が成立すると相手側弁護士が述べていたけれどそれは本来そちらが立証しないといけない案件で現時点で断定してはいけない。
謝罪がないについてはOGからの「謝ってたけど軽かった」と言う証言もあるのであったのかなかったのか、「(納得できるだけるだけの十分な)謝罪がなかった」なのかは不明ですし、そもそも会見の時点では劇団側の弔問を遺族側が断っているという話だったので、謝罪ができない状況だったのかもしれない。なので「謝罪しろ!!」と憤るのはちょっと落ち着きはったらと思います。当然した方がいいとは思っています。

・ヒアリング拒否
任意の調査であり(というか強制する根拠がない。
さらに言えば事件直後は劇団員の心身が安定しないという報道もあり、メンタルに配慮する必要もあった)、ヒアリングを拒否する権利は当然ある。
氏名も理由も非公開で当然。
この件が炎上しているのには驚いた。
加害者がヒアリング拒否した!と結びつけているのは本当に浅慮だと思います。報告書見る限り加害者側とされる方はかなり詳細に証拠を提出している、証言をしていると読み取れる箇所があります。
これも会見の返答が下手くそすぎたのが‥‥。

・外部弁護士なのに云々
大手弁護士事務所内で利益相反する案件を受注することは度々起こりうる。
ホームページ見ましたがあれだけ大所帯の事務所ならどこかにいてもやむを得ない気はしている。そもそも親会社の関係者であり、宝塚歌劇団・阪急電鉄の関係者ではないわけだし(というのがまた詭弁臭いのは重々承知)
当然、チーム内で情報遮断して案件調査するので業界的には問題ないっちゃないけど、こういう件なので避けた方が良かったよね、ほんと劇団の見通しが甘いわとは思ってますが、だからと言って報告書が紙くずなのかといえばそんなことはないし、ヒアリングが無効とも思えないです。
音校生まで含めた全体ヒアリングによる再調査を実施予定とのこと。
現状の問題を洗い出し、今後につなげられる調査となることを望みます。

<参考までに>
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000189292.pdf

https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/definition/about

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