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ジンギスカン遠野市

 岩手県遠野市といえば、妖怪とかカッパが有名である。なんときゅうりを川に垂らしてかっぱ釣り(釣れるかは謎。でもカッパはもっとかしこいので、まず釣れない)もできてしまうという徹底ぷり。一度行ってみたいなぁと思っている。

 が、今回は残念ながら妖怪の話ではない。
 遠野市といえば妖怪とカッパが有名だが、勿論ほかにも特色がある。それは何か? もう聡明な皆様ならピンときているであろう。そう! 遠野市といばラム肉(仔羊の肉)……すなわちジンギスカンなのである。

 実はこの遠野市、ジンギスカンの消費量が”市区町村単位”だと日本で一位なのである。(都道府県別だと流石に北海道だ)遠野市で「焼肉いくべ?」となると、それは「ジンギスカンくうべ?」という意味と同義なのであった。そんなレベルで、遠野市という土地にジンギスカンが根付いているのである。

 そもそも”ジンギスカン(成吉思汗)”とは、ラム(仔羊肉)やマトン(生後一年以上の羊肉)を使った、焼肉料理である。中央部分が凸型になっているジンギスカン鍋なるもの熱して羊肉を焼く。羊肉から出てきた肉汁を使ってさらに野菜を焼き、うまうま祭りウマートンというわけなのであった。
 この料理、「かつてモンゴル帝国を率いたチンギス・カンが遠征の陣中で兵士のために作らせたのが起源なのである」とか「中国料理の烤羊肉(こうようにく)が起源である」とか様々な言説があるわけなのだが、どうやらそのどちらもまぁ違うらしく、札幌農学校出身の駒井徳三氏が中国全土を踏査している最中に食べた羊肉と野菜の料理を食べ感銘を受け、「あーなんかこの味。この野趣あふれるがエネルギッシュなこの味よ。これってさーなんかあのー、そう! チンギス・カンっぽいよな」と言い始めたのが起源らしい。本当かどうかは歴史の深層に埋もれたわけだが、なんかそれが起源だと面白いのでそういうことにしておこうかなと思う。兎にも角にもそうして命名されたジンギスカンは、すっかり北海道の郷土料理になったのである。
 ……そう、北海道の郷土料理なのである。別に岩手県の郷土料理でもなければ、遠野市はそんなに関係ないはずなのだ。しかし遠野市は日本で最も羊肉を消費している市区町村であり、今ではジンギスカンが妖怪やカッパに続いて遠野市を代表するイメージまで上り詰めている。これはすごいことだ。

 どうやら調べてみると、遠野市では昭和30年くらいからジンギスカンが食されるようになったらしい。市内スーパーでも普通に羊肉が売られていて、遠野市民にとってかなり身近な存在となっているようだ。
 そもそもかつてジンギスカン(羊肉)を食す習慣は日本人にはほとんどなく、なんなら「羊肉なんて食ってんの?わら」と馬鹿にされるほどだったとか。更に、かつては冷蔵技術も未発達だったため、そもそも羊を畜産していない県では鮮度が著しく落ちたものしか食せなかったという事情もあり、羊食が流行ることはなかったのだった。
 しかし、ここ遠野市は違った。
 遠野では昔から、織物のために羊を畜産していたのだった。食べることこそしていなかったが、自産自消ができる状況は整っていた。そこに、旧満州へ従軍していた人々が帰還を果たし、「羊肉ってうまかったよ」と伝えたことで、ジンギスカンが遠野市の中で爆流行りしたのだ。そしてその裏には、遠野市の老舗ジンギスカン店である、”じんぎすかんあんべ”(昭和22年創業である)が味の開発を必死に行ったという努力も忘れてはならない。

 以上の理由から、遠野市にはジンギスカンが深く根付き、市区町村別では最も羊肉を消費している市になったのであった。素晴らしい。歴史というものを調べると、その土地の特色、そこにかけた人々の想い、それらが感じ取れて、私の知識欲求は満たされていくのだ。



 ということを言いたかったわけではなかったのであった。



 なんか遠野市とジンギスカンの歴史を調べてだらだらと書いてしまったのだが、本記事はそもそも「ラム肉ってちょっと臭みがあるけどおいしいなぁ。でも豚とか牛に比べて臭みがあるのってなんでなんだろう? というか豚と牛の臭みがマジでないのってなんでなんだろう? 畜産に関わる人々のおかげやなぁ~~~感謝感謝」みたいな話を書こうと思っていた。全く関係ない方向に展開してしまった。なんで。

 なんで?

 
 


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