見出し画像

31 中高年が行く南インド57泊59日⑦ (マドゥライ→チェンナイ)

 ひとりで部屋を出て、とりあえず向かったのはホテルから程近いファッション・ストリート(と勝手に命名)。アクセサリーやレディス小物を扱う店が並んでいるエリアで、いずれにせよマリーさんは用がない。
 地元の女性たちに混じってショップをのぞきながら歩くうち、気遣いストレスは物欲へと姿を変えた。ピアス、リング、おしゃれなビンディ(額に貼るやつね。買ってどうする)など、軽くて小さなものを購う。
 荷物を増やしたくないのでなるべくモノを買わないようにしているのだけど、でも、ああ、ショッピングってしあわせ〜。

 昔はなかった大型衣料品店(エアコンも効いている)では、パンジャビ・ドレスが欲しくてたまらなくなった。どれもこれも素敵。迷って迷って、帰国後もワンピースやチュニックとして着られそうなトップスを2着選んだ。
 というか、またやってしまった。 " 日本でも着られそう " の判断基準がそもそもおかしくなっているから、帰ったら着ないのだ。過去のインドで、パキスタンで、バングラデシュでも買ったパンジャビ・ドレスが、実家の箪笥にひっそり在る。

 でもその時は欲しいねん。
 レギンスも2枚追加。お店のロゴが入った可愛いバッグに入れてくれて、いやもう大満足。

 買い物の快楽によってマリーさんへの怒りは治まっていた。
 しゃーないな、初バックパッカーで初インドやし、62歳やし。
 リゾート・コヴァーラムや、リスとか山羊とか走り回るラーメーシュワラムに比べたらマドゥライは都会やから、疲れてるんよね、きっと。
 で、部屋に帰る。
 すると、マリーさんはタミルナドゥ州の地図と『地球の歩き方』を広げていて、悪びれるふうもなく言った。
「次、マハバリプラムに行ってみたい」
 えええっ めんどくさっ

 もうここからトリヴァンドラムに戻ってコヴァーラム・ビーチでのんびりしたらええんちゃう、と提案するつもりだった。が、
「バスばっかりやったから、鉄道乗ってみたい」
とも言う。
「ここからチェンナイまで列車で、チェンナイからマハバリプラムはバスやんな」
 うーーーん・・・。
 しかし、せっかくマリーさんが能動的に企画したのだからここは採用か。
「駅って、遠いん?」いや、ホテルから歩いてすぐやで。

 さっそく駅へリサーチに出た。
 前回のひとり旅、チェンナイまではバスで少しずつ北上したので、マドゥライ駅を利用するのは初めてだ。予約オフィスで尋ねてみると、午前中に出てその日の夜チェンナイに着く便がある。「もう買っとこか」
 結局、リサーチのつもりがブッキングも済ませ、2日後にチェンナイへ向かうことになったのだった。

 無事にチケットを手に入れ、ほっとして外に出ると、駅前ロータリーでクリケットの女子チームに囲まれた。写真に入ってほしいと頼まれ、一緒に記念写真に収まる。今回の旅で何度目かの一方的記念写真である。

 そんなわけで、あっけなくマドゥライを離れることになったのだが、それもまあケセラセラ。
 最終日には気に入りのスーパーでシャンプーや石鹸、蚊取り線香などを買い、マリーさんは理髪店でスキンヘッドにし(渡印してすぐトリヴァンドラムで刈ったのが、だいぶ伸びた)、もう一度ミーナークシ寺院に詣った。つつがなくチェンナイに着きますように。

 そうして翌日。
 11時15分の定刻に発車した列車(エアコン付きシート車両に乗車)は、まったくもってつつがなく、予定通り21時15分にチェンナイ・エグモア駅に到着した。
 巨大駅。改札を出ると、床というか、地面というか、あちこちにシートを広げて朝を待とうとする人で一杯だった。
 座り込んだり横になって寝ている人々を踏まないように気をつけながら、リタイアリング・ルームを探す。遅くに到着した乗客用の宿泊室があるはずで、果たしてそれは、駅舎の端の階上に見つかった。
 受け付けデスクで乗ってきた列車のチケットを見せ、申込み用紙に記入したら鍵を渡された。ルームナンバー7、W 690ルピー。

 その部屋は窓がなく清潔度もいまいちだったけれど、これまで泊まったどこよりも広くどこよりもルームライトが明るかった。そして、シャワーヘッドからお湯が出た。お湯!!

 荷物を置き、夜食を求めて外に出る。うぉおおおおお と唸るほど道路が広く都会である。夜遅いのに屋台、屋台、屋台、人、人、人。
 ムスリムの食品店で水と軽食などを抱えて列に並んでいたら、外国人に気づいた店員がわたしたちの会計を先にしてくれた。イスラム教徒ってこういう時いつも親切だ。
 部屋に戻ってお腹を満たし、お湯シャワーを浴びる。うう〜 お湯ってこんなに疲れがほぐれるものなのね。
 来てよかったなあチェンナイ。明日はマハバリプラムやね。

 上機嫌のわたしたちは想像だにしなかった。マハバリプラムがどれほど遠いかを。そしてチェンナイに戻るのがどれほど難しいかを。
 蟻地獄のごとく出られなかったのだ。祭りのマハバリプラムから。
 マハバリ地獄。

⑧につづく


 


 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?