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39 中高年が行く南インド57泊59日 番外編(いつかまたあの店で)

 というわけでおよそ2ヶ月、中高年のわたしたちがまあまあ良いコンディションで旅できたのは南インドの美味しいもののおかげ。ありがとう美味しいもの、ありがとう優しい店のひと。

 いちばんはラーメーシュワラムのベジ・レストラン、
 Sri Muruga Bhavan
で、この店があればラーメーシュワラムに住める・・・と思ったほどなのだけど、過去の記事【インドカリーランキング】にも書いたのでここでは省略して、ほかに印象に残ったお店のことをいくつか。(写真は撮ってません。)

チェンナイ・セントラル駅裏の市場の、とある食堂
 マハバリプラムからチェンナイに出て、セントラル駅でエルナクラム行き列車の予約をした後、駅裏のマーケットをぶらぶらして昼食をとった屋台食堂。

 頑固そうなシェフ(おっちゃん)がひとりで切り盛りしていて、外国人は嫌がられそうだが、店の外に並んだ鍋の中身がすごく美味しそう。内心びくびくしながら空いた席に荷物を置き、鍋を指差して、これとこれください、と伝える。
 わたし野菜のプラオ(炊き込みご飯)とオクラカレー、マリーさんチキンカレー(っぽいやつ)。シェフは黙ってうなずき、座って待っとけ、と顎で指示した。はい、すみません。

 しばし待つ。客の回転がいい。きっとすごく旨いんだ。で、プラオとカレーとチャパティが来て、果たしてめっちゃ旨かった。うまいうまいめっちゃおいしいと食べていたら、シェフが無表情で「おむれっ?」と卵を見せる。おお、オムレッツ。「イエス」
 シェフはインド式オムレツをちゃちゃっとふたつ焼き、なぜか茄子カレーも一緒に持って来た。そんなに食べられへん。と言いながら、一生懸命食べた。やっぱり旨かった。お腹ぱんぱん。そんなに食べて一人60ルピーだった。聞き間違えたかと思った。リゾートエリアで1杯100ルピーのカプチーノとか飲んじゃうことを反省した。

 翌週、エルナクラム行きの列車に乗る前に、もう一度店を訪ねた。シェフはわたしたちを見ると無表情でうなずき、座れ、とテーブルを顎で指した。ミールスを注文すると黙ったままオムレツをオマケしてくれた。
 いつまでも渋く店を仕切っていてほしい。

マハバリプラムのムスリム食堂
 マハバリプラムのオールドバススタンドの向かい、リゾートエリアの端っこにムスリム一家の食堂があった。店の前の大鍋にビリヤーニを混ぜていた若い息子と目が合って、「食べる?」みたいににっこりされたので入ってみた。わたしベジタブルヌードル、マリーさんチキンビリヤーニ。

 焼きそばもビリヤーニも山盛りだった。でもビリヤーニに肉が見えない。が、マリーさんがスプーンでご飯の山を崩すと、うおぉぉぉ ひよこ1羽ぐらいの大きさの肉塊と茹で卵まるまる1個が現れた。わたしは肉を食べないので、本物のチキンビリヤーニを見たのは初めてである。

 食べても食べても減らないご飯と焼きそば。ムスリム帽のお父さんがテレビを(何か、視聴者参加番組だった)見ていて、くくっくくっと静かに笑っている。なんだろう、この平和な空間。

 とりあえず肉と卵は食べ切り、残ったヌードルとご飯を持って帰りたいと息子に伝えると、快くプラスチックのパックに詰めてくれた。で、翌日の朝ごはんにした。
 ニッポンだと食中毒の恐れ云々で食べ残しの持ち帰りはできないが、インドは融通がきく。そして、翌朝食べてもお腹を壊したりしない。乾燥しているとはいえ、あんなに暑いのに。食べ物も根性座ってて簡単には腐らないのかも。

 マリーさんはこのチキンビリヤーニをものすごく気に入って、何度か食べに行き、そのたびに翌朝の朝ごはんにもなった。

マハバリプラムの German Bakery
 
German Bakeryは、何だろう、チェーン店なのかな。知らない。でも、コヴァーラムにもゴアにもあるし、ネパールのポカラにもあった。90年代から。
 アジア臭のまったくないパンやケーキや軽食のあるカフェで、欧米人バックパッカーでいつも賑わっている。
 が、マハバリプラム店は、なんかちょっと違った。
 まず、客があんまりいない。そして店員のやる気がまったくない。店主は愛想のいい中年男性で、自分もスタッフもネパール人だと言うが、数人いる若いスタッフは全員働くのが嫌でたまらんという顔で突っ立っており時々のろのろ動く。
 それから、メニューにトゥクパやモモなどチベット・ネパール系の料理がある。が、マリーさんが注文したトゥクパは出てくるのに1時間かかった。麺打ちからやってるとしか考えられへん・・・。
 しかしその謎の厨房で焼きあがるアップルパイは絶品なのだった。
 パイ生地もアップル部分もなんというか、ガツンと、マッサージで言うたらタイマッサージ、ってなんでマッサージに喩えるんか今なんとなく思いついただけやけど、他のを食べて「ああやっぱり German Bakery には遠く及ばんなあ」と思うのが嫌で、ここ数年アップルパイというものを食べていない。

 チーズケーキとかココナッツケーキなんかもあるけれど、アップルパイほどの感動は生まない。
 出来立てのホールを、店主が真剣な眼差しで丁寧に、慎重に、均等に、ゆっくりカットしていく姿も見どころである。かなり。

フォートコーチンの AL HALA
 3日しかいなかったフォートコーチンで3日ともお世話になったムスリム食堂。
 地元食堂のようだがイングリッシュメニューがあり、でも値段はインドプライスという、バックパッカーに優しい店だった。そして、ミールスもグリーンピースカレーもチャパティもすごく美味しい。

 店主がまた親切な若者で、飲み物に氷はどう?とかチャパティのお代わりは?とか、行くたびに何かと気遣ってくれる。マリーさんの食べきれなかったチキンビリヤーニは、もちろんここでもテイクアウトに。

 出発前夜の夕食をとり、お釣りの10ルピーを「3日間のお礼にとっといて」と言ったのだけど、「いや、そんなことはできない」と返そうとする。「いやいや、毎日美味しかったから。親切にしてくれたから」と粘って(というのもヘンだけど)、ようやく「じゃあ、本当に、ありがとう」と受け取ってもらった。

 翌朝、舟着場へ向かう道すがらAL HALAの前を通ると、なんと若店主が開店前なのに待っていて、マリーさんとわたしと順番に握手してくれた。
 その日の日記に、以下の走り書き。
    イスラム教徒は良い人と普通の人しかいない
    ヒンドゥー教徒その他は、良い人と普通の人と悪い人がいるけど
  

 以上、番外編「いつかあの店で(また食べたい、また会いたい)」でした。

 その他の思い出につづく

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