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44 ニューデリーの悲喜劇(旅リハ) ② ホーリー

 一日のあいだに背景が、地獄と極楽、めまぐるしく変わるインド、ニューデリーである。さて翌日は・・・
【3日目】
 ホーリーだった。3月半ばの、北インドの代表的な祭りのひとつで、色水を掛け合うことで有名だ。
 っていうか、今気づいたけど、祭りだったのか、やっぱり。
 こののち何度かインドを旅し、ことごとく何らかの祭りに遭遇してその盛り上がりに辟易するのだが、予行演習で既にそうだったとは。

 しかし、この日は祭り以外のことで悲惨だった。
 まず朝イチ、コーヒーを飲みにカフェに向かうべくエレベーターに乗った。一人だった。グランドフロアのボタンを押す。と、9階ぐらいまで降りて止まり、でも扉は開かず、上昇を始めた。な、なに? 焦る。最上階まで昇るとふたたび降下し始めたが、な、なに? ガタンと止まり、また上がる、止まり、下る。なになになに、なんかスピード出てるんですけど。落ちてる?
 死ぬ。と思った。インドのホテルで事故死だ。死はあっけなく来る。
 と、するんと止まって扉が開き、インド人ファミリーが乗ってきた。「モーニン(にっこり)」感じのいい家族。エレベーターはおとなしくグランドフロアに到着した。

 スタッフに訴えたいが、今の恐怖を英語で伝えられない。あわあわしていたらフロントで「今日はダウンタウンに行かないほうがいいよ、ホーリーは危ないから」と注意された。とりあえずエレベーターの件は保留だ。

 カフェでコーヒーを飲み、ダウンタウンとは逆方向の国立博物館へ徒歩で向かった。ホーリーで忙しいのか、しつこいリキシャも物売りもいない。前方から全身色水に染まった欧米人家族が歩いてきたので、博物館はこの道でいいのか尋ねると、「そうだけど、今行ってみたらホリデーで休館だった」とのこと。で、途中、いろんな色の水をかけられたそうで、ひとりで歩くのは危険だから一緒に帰りましょうと言われ、結局ホテルに引き返すことになった。

 でも部屋にはテレビが備わってあり、外出しなくても楽しめる。歌番組、料理番組、視聴者参加型クイズ番組(イントロ当てもある)、昼メロ風ドラマ、サスペンス・・・おもしろすぎた。いちにち観ていても飽きない。
 朝は色々あったけど、無事に一日終わってよかったな。
 
 ところが、だ。
 夕刻、カフェに降りて(半分階段、残り半分をエレベーターで無事に)軽食をとった。給仕係が「日本人?ひとり旅?」などと話しかけてくるのが面倒で適当にあしらっていたのだが、ビルにサインと部屋番号を書いたのが甘かった。
 夜遅く、まだテレビ視聴に興じていたところ、ドアがノックされた。えっ?
誰? 
 そっとドアスコープから窺うと、なんと給仕係がバラの花(カフェのテーブルに飾ってあったやつ)を手にして立っていた。なにかんがえとるんや。可笑しかったけど、いやちょっと怖い。テレビも電気も消してベッドに入り、寝たふりをした。
ノックは最初の1回きりだったから、すぐ諦めたのだろう。
 寝たふりをしてるうちに本当に眠りこみ、やっと終わったホーリーの一日なのであった。ホーリーぜんぜん関係ないやん。

③につづく



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