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46 ニューデリーの悲喜劇(旅リハ) ④最終回 生きてるかぎり旅しとく 

  それにしても。
 どちらかというとトラブル頻発なのに、どうして挫けなかったのか、なぜ「これはホントのインドじゃないから」などと思えたのか、今となっては謎である。
【6日目】
 
メインバザールへ出向き、周辺を散策する。衣料品店、雑貨屋、旅行会社、食堂、ゲストハウス・・・。次回はこういうところに泊まるんだ。
 市場に積まれた野菜、果物、香辛料などなども見物する。たのしい。
 うろうろしていたら、チベット製品を売る一画に出たので、アクセサリーをいくつか買う。充実した半日だった。
 フリーツアー8日間と謳われているものの、深夜着、深夜発なので実質行動できるのは6日間で明日はチェックアウト。ホテルで寝るのは今夜が最後である。
 エレベーター落下事件とかスタッフ訪問未遂とかあったけど、まあまあ良い宿だったよな。なんて思いながら、バラの咲く中庭を散歩していたら、突然、背中をアタックされた。驚いて振り返ると、犬である。猟犬みたいな怖そうなのが、ウーと唸っている。
 凍りついていたら、庭師が慌ててやってきて追い払ってくれた。
 もう・・・なんでこんな目に遭うん・・・・

【7日目】
 
まったくもっていろんなことが起こるが、とうとう今夜は帰国である。名残惜しいような今回は充分なような。
 お昼前、チェックアウトする。空港には迎えに来てくれたが帰りは自力で、って「送迎」ちゃうやん「迎」だけやん。と思いながらコンノートプレイスにあるエアポートバス乗り場へ向かう。
 オフィスで夕方の便を予約し、ボストンバッグを預けて、さて。
 まず、ハンバーガー・チェーン Wimpy で若者ウォッチング。デリーにマクドナルド1号店ができるのはもう少し後のことで、当時はWimpy がイケてるナンバルワンだった。入店はドアマンが扉を開けてくれる。
 カウンターがベジとノンベジに分かれているのが興味深く、普段ファストフードは食べないのに、思わずベジ側に並んで注文してしまった。ちゃんと「ポテトもいかがですか?」が付いてきた。ポテトももらう。それがほくほくの大きな揚げじゃがいもですごく美味しかったのだけど、ベジ・バーガー本体も悪くなかった。

 満腹になり店を出る。
 ホーリーに休館だった国立博物館まで散歩がてら歩いて行った。
 展示物はざっくり置かれてあり、えっ こんな貴重なもの、こんなとこに放っといていいの?みたいな感じだったが、おしなべて素晴らしく見応えがあった。
 カンティーンもあり、コーヒーで休憩できる。
 日が傾く時刻、早めにエアポートバス乗り場に戻っておいたほうが良かろうと博物館をあとにした。
 今日はまだ何もトラブルに遭ってない。ありがたいが不気味でもあった。最後に大変なことが起こるのでは・・・どきどきする。が、バス乗り場への道のりもな〜んにもなかった。いいの?帰るで。このあと飛行機乗って帰るねんで。

 そうして、予約していたエアポートバスは、外国人数人を乗せて定刻に発車した。ノートラブル。信じがたい。
 バスは黄昏時のニューデリーをがたごと進んでいった。窓の外を流れる街が愛おしい。なんでだろうねえ、次から次へ大変な目に遭ったのに。
 そして、空一面にオレンジ色の光るものを貼ったみたいな夕焼け。ああもうこんな夕焼け見せられたら、また来るしかない。

 インターナショナル・ターミナルで降りた日本人数人は同じ便で、わいわい一緒に搭乗を待った。
 みんないい感じにくたびれたバックパッカーで、今回はどこどこ行ってどうだった、次はどこどこ行こうかななんて話をしている。いいなあいいなあ。わたしも近いうちにまた来たい、と言うと、青年がひとり、「俺、もう来ないからこれあげるわ」と煙草の当たり券をくれた。キャッシュバックがあるらしい。
 ありがとう。再訪のお守りにするよ。

 そんなこんなで帰国を遂げた。エアインディアが定刻発着というのはけっこう奇跡、と後々わかってゆくのだが、ビギナーズラックだったようで。

 この半年後、バックパックを買い、香港と中国雲南省1か月の旅をした。一応、西双版納の民話本を集めるという目的があったのだけど、香港から昆明に飛んだらもう、それはもう、そんなことはもうどうでもよくなっていた。旅すること自体がおもしろくてたまらなかった。
 児童文学作家になんかならなくていいわ。わたしは旅するために生まれてきたのやわ。行きたいところはぜんぶ行く。生きてるかぎり旅しとく。
 そんなふうに果てしなく思い込み、人生を棒に振ることになるのだった。
 まあ、今現在まだ振ってる途中というかなんというか、振ったかどうかは死ぬまでわからないけどね・・・
  

 



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