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35 中高年が行く南インド57泊59日(11) (チェンナイ→エルナクラム→フォートコーチン)

 奇跡が起きてわたしたちはマハバリプラムから脱出できた。大きな出費の伴う奇跡だったが、そこは忘れよう。
 しかし疲れ果てたよ。
 チェンナイ観光は中止。駅の LUGGAGE OFFICE に荷物を預け、駅裏マーケットの屋台食堂でゴハンを食べ、チャイを啜り、人物観察をしながらひたすら夜を待つ。

 疲弊のせいか運賃とか発着時刻とか、日記に全然残していない。たぶん、19時か20時台に発車して翌朝7時過ぎの到着だったと思う。
 待合フロアの電光掲示板にようやく自分達の列車と発車ホーム番号が表示され、いそいそと向かう。そして、予約車両に名前を探す。インドの鉄道では、寝台車両に乗客の名前、年齢、性別、座席番号をプリントした紙が張り出されることになっていて、最終的にそれを確認するまでどきどきなのである。で、印字してあった。ふたりの名前が。よかった。

 乗り込むとさっそく係員に枕と毛布とタオルを配布され、やれやれと横になるやいなや発車した。いやあ、いろいろあったけど9:1ぐらいで楽しいことのほうが断然多かったよな、タミルナドゥ州。さよなら。おやすみ。明日起きたらもうケララ州・・・・えええっ 朝! もうエルナクラムやん! 降りるで!

 エルナクラム・タウン駅は終点ではないので、隣のお兄さんが起きなかったら乗り過ごしていたところだった。
 それにしても、チェンナイのメガステーションと違って、なんとこじんまり落ち着いた駅であることよ。阪急京都線の柴島駅かと(全然違うんだけど)見紛うような。
 改札を出ると、朝早いせいもあってか街は整然と静かで、目の前にはプリペイド・オートリキシャの受付オフィスなんていうのがあった。さすがケララ。インドの他の州と比べて何かにつけてシュッとしている。

 窓口で、舟着場メイン・ジェッティーまでの47ルピー(これは日記に書いてあった)を前払いして、オートリキシャにことこと運ばれ、ジェッティーでは列に並んで4ルピー(これも書いてあった)のチケットを買い、そして、小型のフェリーでエルナクラムの少し沖、フォートコーチンに着いた。

 フォートコーチン。
 降り立ってすぐ好きになる。
 なんでこれまでノーマークだったんだろう。
 とりあえず『地球の歩き方』を繰って宿を探す。宿情報をこれだけに頼ったのを悔やむことになるのだが。
 初めて訪れたフォートコーチンは、なんというか、大らかで、美しかった。木が大きかった。背の高い木。大木がたくさんあって、だから木陰もたくさんあって、涼しい風が見えるような町だった。

 アラビア海から吹く風。昨日の朝は蒸し暑いベンガル湾沿いで半泣きだったな。でも今はどうだ、このすがすがしさ。ああ旅って風そのものだな。などと思ったような思わなかったような。

 ツーリストエリアの外れの小道沿いに、サンタクルス・ツーリストホームを探し当てた。古いけどまあまあ清潔。庭のある1階のT 500ルピーにチェックイン。3階(屋根付き屋上)に洗濯物干し可。用があったらこれで呼んで、とカウンターの固定電話を指し、雇われオーナーのような青年は出て行った。セキュリティ面が若干不安だが、まあ悪い人はいなさそうな島だし、いいか。

 バスルームで昨日からの汗と涙を埃を流し、着ていたもの一式を洗って干し、しっかり戸締りをして外に出る。
 ああ本当に何もかもきらきらきれいだ。ヨーロッパの匂いの古い建物。雑木林。教会。海岸。波。砂浜。水平線。ぼんやり眺めていたら、イルカ!イルカが跳ねた! 

 無数の屋台がどたばた並ぶ観光スポットを抜け、感じいいムスリムのマスターがいる食堂(店名は AL HALA と日記に記述あり)でミールスを食べ、またミニフェリーに乗ってエルナクラム本土に渡る。舟の横をイルカがぴょんぴょんついてくる。

 本土をぶらぶらして、さすがに午後は暑いな・・・と疲れてきたところでゴージャスなショッピングモールにて涼をとる。コーヒーラウンジでパーフェクトなカプチーノを一杯(120ルピー。ちょい反省)。しかも最上階がスーパーマーケット BIG BAZAR(これはトリヴァンドラムでよく通っていた大好きなスーパー)だったので有頂天で買い物する。歯ブラシ、ボディソープ、Tシャツ、日傘。
 たのしすぎる。しあわせすぎる。

 夕暮れの海をフォートコーチンへ戻り、カタカリ・センターで明日の舞踊・音楽鑑賞を予約し、チベタン・レストランでトゥクパとベジ・モモを食べて満ち足りる。
 ああ・・・カミサマありがとう。日本に帰ったらいい人になります・・・

 あとは宿に帰って水シャワーを浴びてさっぱりして寝る、それで幸福な今日が終わるはずだった。
 ところが。
 部屋に帰り、洗面台の蛇口をひねったら、水が出ない。
 汗だくの上にさらなる嫌な汗が滲む。
 シャワーの水も出なかった。
 みず出ない。 
 みずーーー
 水でーへん・・・

(12) につづく
 


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