見出し画像

【連載小説】退屈しのぎのバスジャック04

04.犯人はどんな人物か

「色々と言いましたが、
 我々はまずバスに乗る前までの解決を目指しています。
 ただ、それが叶わなくて『犯人と共にバスに乗る状況』も想定して、協力を要請していると言ったところなのです。」
カフェで警察の立花氏は僕にこう話す。
彼の喋り方は無駄がなく聞き取りやすい。
これで鼻に付かなかったら完璧かもしれない。
彼は続ける。

「ここで犯人について少し話しておきます。
 あまり詳しいことは言えないのですが、ネット書き込みの検知システムで、今回のバスジャックの可能性を検知したことがことの始まりです。
 AIを使って様々なサイトから可能性を導き出すのですが、正直わかっていないことが多いです。」
コーヒーをすする。
「分かっていることは、
 犯人はおそらく過去何件かの未解決事件に関わっている知能犯であること
 単独犯ではないこと
 そして、今日のこのバスで何かをしようとしていること。
 ただ、年齢、性別、目的と具体的なことはわかっていない状況です。」

彼は淡々と話した。
「調査員が行ったアバダ、トゥクトゥク、リヨン、エスカルゴ、辺野古基地問題の質問なのですが。
 実はここへの誘導以外にも犯人を揺さぶるという意図もありました。
 いずれも過去の犯罪に多少関連するワード、もしくはそれに似たワードになります。
 ストレートに聞くと気づかれる可能性もあるので、少し遠く、でも犯人なら気付いて何か反応が出てしまうという絶妙なラインを狙いました。
 でも成果は得られませんでした。」

「あの、素人意見で申し訳ないのですが‥。」
口を挟んでみた。
「特定には至らなくても多少でも犯人は絞れているということですよね?
 であれば後は、候補となる何人かに尋問や身体検査をすればいいのではないでしょうか?
 もう警察の立場を明かしても、何人かの内に犯人がいるということがわかっているなら、もう問題はないように思うのですが。
 あと、例え犯人がわからないままバスを出発したとしても、そのバスがジャックされることがわかっているなら、追跡するなりで対処出来そうに思えました。
 バスを特定できているということだけで、既に警察にとって有利なように思えるのですが。」

立花氏はうなずいた後に答える。
「さすがです。
 それではもう少し説明しましょう。
 あっ失礼。」
そういうと、彼はイヤホンに手を当てて頭の角度を少し変える。
どうやら連絡が入ったようだ。

「少し出ましょうか?」
通話で何かを確認し彼は立ち上がった。
「すぐに戻ってきます。
 荷物は置いておきましょう。」
彼は会計伝票を店の入口へと向かったので、
ぼくはついていった。

「私が先輩という設定にさせてください。
 店の外に出てから話すときはある程度フランクに喋らせていただきます。
 鈴木さんは特に喋り方を変えなくても大丈夫なので。」
歩きながら彼は言う。
確かにそのほうが助かる。
僕が初対面の人間にタメ口で話そうとすると固くなってしまう。
芝居なんかしたことないし、素人の僕が友達同士の演技なんかしたら違和感アリアリだ。
なので僕が出来るだけ自然でいられるようにそう設定したんだろう。
こういう所もさすがだと感心する。

「すぐに戻って来るので、荷物を置いておいても大丈夫ですか?」
彼はレジでコーヒー代を払いながら店員に言う。
話し方からすると、cafeアトリエの店員さんは、事情は知らないのだろう。
警察が忍び込んでいることはおそらくバスターミナル内でも一部の人にしか明かしていない。
そう想像する。

階段を降り、待合室を通る。
既に出発したバスが多いのか人は減っている。
僕の表情彼は、受付カウンターに向かうので、ついて行く。
カウンターでは何やら少し騒がしくなっていた。
東京行きの出発が遅れるせいかと思ったが、どうやら違うようで、乗客何人かが係員と揉めているように見える。

近づいていくと、
盗難、事件、警察と何やら不穏な単語が聞こえて来る。
これから大きな事件が起こる予定だが、まだバスには乗ってもいない。
何か関係しているのか。
犯人が動き出しているのか。
変な汗が‥。
既に事件は始まっているのか‥。
僕の中で緊張が走る。
もう退屈な日常からは脱却している。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?