【連載小説】退屈しのぎのバスジャック02
02.カフェで警察と
「単刀直入に言います。
あなたが乗る予定の東京行き22:30発のバスは、バスジャックされます。」
男は大きめのリュックを下ろし、
僕の正面に座り、こう言った。
僕はどう反応していいかわからなかった。
「びっくりさせて申し訳ないです。
しかしながらあなたは物事の察しがいいと判断させていただき、まず本題を申し上げました。
正確には、
『バスジャックされる可能性がある』
ということなのですが。」
男は同じくらいの年代で、爽やかな雰囲気。
特にヤバいやつという雰囲気は感じられないが。
「申し遅れました。
私は大阪府警の立花と申します。
実はサイバー犯罪課の情報からで、本日東京行きの深夜バス便で、バスジャックが行われる可能性があるんです。
そこで私達警察が現在調査しているというわけです。
ちなみに観光調査であなたに話しかけた人間も私の仲間、つまり警察の人間です。」
「お待たせしました。」
コーヒーが届き、立花氏の話は一時中断する。
立花氏もコーヒーを頼んだ。
その間に僕は少しでも頭を整理する。
店員が去ってから、話は再開された。
「誠に失礼ながら今回調査するにあたり、
そのバスに乗る予定のお客様を選別させていただきました。」
彼の話によるとまず、
①犯人かどうか‥犯人ならまず調査に応じない可能性が高い(余計な人との接触は避けるはず)のと、応じた場合でも、質問の反応を見て犯人の可能性を判断する。
②いざという時に特別な警護が必要な人か‥乗客の安全を第一に考える必要があるために知っておく。ただ高速バスに乗るくらいなので重度な疾患を持っている等の可能性は低く、高齢者や妊婦等はそもそも見た目で判断できるので、精神疾患等があるかを簡易的に判断する程度。
③危険性がなく、自分で判断して動けるか。
とし、質問をしながら、回答や所作で次すべき質問を分けて、どのパターンになるか判断するとのこと。
僕は③に選ばれたわけだが。
「③とさせていただいた中でも、ある特定の方には洞察力のテストをさせていただきました。
そしてその結果であなたがここに来られたというわけです。
それでは、なぜこんな手の込んだことをしているかということについて説明させていただきます。」
「お待たせしました。」
立花氏の方にもコーヒーが届き、間があいた。
店員が下がった後に少し口を挟んでみる。
「あの、少し確認させてください。」
彼の表情は落ち着いており、『はい』の代わりにこくりとうなずく。
「疑うわけではないのですが、ちょっと信じられない部分があって、見たところは警察の方には見えないのですが、何か証明できるものってありますか?」
彼はパーカーに綿のボトムス、リュック。
見た目はどこにでもいる普通の若者だ。
「失礼しました。
当然の疑念です。
ただ残念ながら警察手帳等は念の為持たないようにしているので、今の手持ちのモノでは証明できないです。
ですが、今から起こることで信じてもらえると思います。」
シナリオ通りといったような口ぶりで彼は続けた。
「東京行き22:30発のバスは、1時間出発を遅らせます。
理由は車両点検とします。
事前にバス会社と打合せはしていましたが、合図を送ることで指示が確定し、すぐアナウンスを流してもらうようになっています。」
そう言うと彼はスマホを触った。
程なくして、館内アナウンスでその旨の内容が流れた。
「こういったことは警察くらいでないとできないかと思います。」
確かにそうかもしれない。
例えば事前に遅延の情報を得てたとしても、アナウンスのタイミングを合わせるのは難しい。
彼は本当に警察の人間なのか‥。
すっかり時間を忘れていたが、もう22:15。
そろそろ行く準備をしないといけない時間だったが、猶予ができた。
彼が本当に警察官だとしたら、
バスジャックの話も本当ということ?
そして確認しないといけないことが山ほどある。
「色々と疑問に思われていることがあるかと思います。
なぜここまで手の込んだことをしているか。
なぜ調査員の格好で乗客を探り、あなたを選定しここに導いたか。
そしてなぜ私は一般人のふりをしているか。
そしてなぜ一般人のあなたにこのような話をしているか。
全ての答えは、
『犯人はとてつもなく手ごわいから』
ということです。」
僕は息を呑んだ。
「全て犯人に気づかれないための行動です。
犯人はおそらくこのターミナルにいます。
とても頭が良い人物と思われるため、こちらも細心の注意を払っています。
そして皆様の安全が最優先ではあるのですが、出来れば犯人逮捕をしたいと思っています。
そして出来ることならあなたに協力をお願いしたいのです。」
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