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【連載小説】退屈しのぎのバスジャック09

09.それぞれのミッション

東京行き深夜高速バスがバスジャックされている。
犯人は姿を現さず、声のみでバスジャックをしようとしている。
居合わせた僕は、パーカーこと立花刑事に協力することになっている。

実は犯人以外に、このバスジャックのことを事前に知っていた人間がバス内に4人いる。

僕とパーカーに加え、まずは運転手さん。
運転手さんには警察から事前に知らされていた。

彼は元々警察に知り合いがいて安定感のあるベテラン運転手だ。
物静かで真面目なタイプだが、冷静さがあり、警察を信用しているらしい。
彼にはただただ事件が起こる可能性があるということだけを伝えている。
何か起こったとしても警察の方で全て解決するので、犯人から指示があれば落ち着いてそれに従い、それ以外は業務に全うしてほしいと。
なので、目立った行動はせず、犯人の指示に従い(というか高速なので今のところふつうに)本来の速度で走り続けてくれるだろう。

そしてもう1人‥。

『おもしろくなってきた』
彼女は僕と同じように警察に協力依頼されている一般人だ。
僕とは違い事前に警察からの接触があったらしい。
顔は合わせていないが、変わり者でキレ者だと聞いている。
『バスジャックならぬアナウンスジャック』
ご丁寧に、彼女の打ったメッセージは女性の声で流れる。
そして誰が打っても僕たち3人みんなのイヤホンに声が聞こえるという仕組みだ。
それにしても‥。
『パーカーの指示待たれし』
大丈夫なのかこの子は?

『まずは犯人ですが、
 音声はもちろんリモートで発信されていますが、やはりこのバス内にも犯人の1人が潜んでいるのは間違いないですね。』
パーカーメッセージだ。

『いわゆる監視役です。
 もちろんカメラや、席から腰を浮かせばわかると言ってたように、センサー等も使っていますが、状況を細かく把握したり、不測の事態に対処するには監視役が必要です。
 監視役は我々の捜査も潜り抜けました。
 つまり手強いです。
 ただ何かしらの方法で外部との連絡を取っているのは確実です。
 今から監視役を見つけるのが我々のミッションです。』

『バクダンはどーする』
不思議ちゃんが入ってきた。
パーカーはすかさず応える。
『そうですね。
 爆発物の真偽は正直まだわかりません。
 私の見立てとしては、
 監視役が乗っている以上バスを壊滅させるような爆破はしない、同じ理由で運転手にダメージを与えることも考えにくい。
 ただの脅しだと思いたいですが、抑止するためだけにただのハッタリを言うというのも今回の犯人らしくはないのです。
 何かしら爆発物がある可能性は否定できません。』
そもそも監視役が必ずいる前提になっているけど、そこは大丈夫なのか‥?

『爆破とかそんな大それたことをしてくるとは想像できていませんでしたが‥。
 とりあえず、仮にバス内に爆発物が仕掛けられているとして、頑張ってそれを見つけ出したり、特定したとしても、私は専門ではないのでどうすることもできません。
 なので一旦忘れましょう。
 応援部隊に任せます。
 今の所、仲間とはこちらからは連絡は取れないですが、向こうからは何かしらコンタクトしてくるはずです。
 犯人にはわからないように。』
犯人にわからないように、携帯が繋がらないバス内にどうやってコンタクトを取るのだろう。
超指向性スピーカー?
いやいや、高速で走っているバスの中の1人を目掛けてなんて無理だろう。
僕が考えてもわからないし。
とりあえず黙って聞いておこう‥。

『アナウンスが始まるまで私は10分空けずして仲間と連絡を取っていました。
 それが途切れたので、警察としては事件が始まったと判断してくれるはずです。
 なので我々はまず監視役の犯人探しです。』

『ハンニンサガシいい感じ』
やはり不思議ちゃんだ。

パーカーいわく、犯人は外部と連絡を取っているから、どんなに普通の乗客のふりをしても、何かしらの違和感が出るとのこと。
僕らも今まさに連絡を取り合っている。
気を付けなければ僕らも周りの人から違和感を感じ取られかねない。
もちろんそれが犯人であってはならない。

僕らは細心の注意を払いつつ、周りを観察する必要がある。
犯人も同じだ。
乗客のふりをしつつ、計画の邪魔をするような(犯人にとっての)不穏分子がいないかをチェックする。
僕らと犯人との対決だ。

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