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【連載小説】退屈しのぎのバスジャック10

10.非常事態下における乗客達

僕らのミッションは、バスジャック犯の1人である監視役をこのバス内で見つけることだ。

バスは高速を走っており、
犯人いわくスピードを落とすとバスは爆発するらしい。
犯人は姿を見せることなく、バス内のアナウンスでその旨を僕らに伝えた。

監視役はどうやって外部の犯人と連絡を取っているのか。
そしてそもそも犯人達の目的は何なのか‥。

パーカーこと立花刑事いわく、より全体を見渡せる後ろの方の席に監視役がいる可能性が高いとのこと。
まあそりゃあそうだ。
後ろに座れば監視されにくく、前に行けば行くほど監視される側に回る。
ただそんな単純なわけでもなく、裏をかいてる可能性だって十分ある。

そして犯人はそう簡単にボロは出さないだろう。
ある程度目星をつけた上で観察しないと意味がない。
闇雲によくばって何人も見ようとしても効果はないだろう。
僕らも当然怪しい動きはできない。
幸いにも僕とパーカーは離れ、パーカーはさらに後ろの方の席に移動している。
『犯人探しタノシイ!』
不思議ちゃんもいる。
僕らはそれぞれあらかじめ目星をつけたそれぞれの席からの視界が確保できる人物を1人ずつ観察することにした。

僕のターゲットは僕の斜め前に座っている男性だ。
20代後半から30くらいかなといったところ。
身体はややがっちりしていて、日焼けしている。
白のポロシャツにスラックス。
警察調査では特に怪しいところはないが。
ただシロだとは断定出来ないくらいのところ。

騒ぎが始まってからはまあ普通の反応のいうか、
立ち上がったり声を上げたりはせず、
ただキョロキョロしたり天を仰いだりという感じ。
今も姿勢良く大人しく座っている。
まあこの状況で落ち着いてリラックスできる人などいないだろう。

『ピアス穴の跡あり。
 膝がたまに小刻みに揺れてる、ただの貧乏ゆすりかも。』
少しでも気になったことがあったら何でも打ち込むルール。
こうやってターゲットの情報を共有する。
今見ている人達の中に犯人はいないかもしれない。
現に位置的に怪しいとされる一番後ろの席の人は監視対象外だ。
まあ捜査なんてそんなものだろう。
そう簡単にいかないことはわかっている。
できることをするだけだ。

パーカーや不思議ちゃんからも情報は共有される。
ただ、まだ注目すべきような情報はなかった。

アナウンスが始まって30分程が経っていた。
バスはただただ高速を走り続けている。
その時。
突然ある席から奇声が上がった。
「あ〝あ゛あ゛あ゛あ゛」

犯人からのアナウンスも一旦休憩に入り、静まり返っている時だった。
その大きな声に周りはビクッとなり、
バス中の人々は奇声元に注目した。
「誰だ変なイタズラをしてる奴は〜!
 俺は死にたくな〜い!
 あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜」

パニックを起こしている。
まあこんな人も出てくるだろう。
彼は位置的に僕らの監視対象外だった。
小太りで30代といったところか。

「誰だ出てこ〜い!
 運転手!
 何とかしろー。
 俺は客だぞ〜!
 あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜」

『私語は控えるようにしてください。』
犯人の超冷静なアナウンス。

奇声男は大人しくならない。
これは少しまずいかもしれない。
こういう人が現れるのは仕方がないことだが、
騒ぎ続けると周りも不安になる。
現に今は何も起こっていないから、乗客はみんな半信半疑といった感じでとりあえず大人しくしていたが、奇声男が不安をあおることになる。

少しザワザワしだす。
これはあまりよろしくない状況だ。

ドドン

突然。
まさかの爆発音がとどろいた。
バスの前の方の席だ。

一斉にみんなが音の方に注目する。
幸いか、狙ってか、
誰も座っていない席。
席は少し焦げ付いたが周りを巻き込むような大きいものではなかった。

そして悲鳴が上がる。
バスは少しよろけたが、すぐに立て直す。

『今のはデモンストレーションです。
 次にルールを破ったら大規模な爆発が起こります。
 どうか、ルールを守るようにお願いします。』
犯人は本気だ。

おいおい。
本当に爆発してるよ‥。
パーカーさん、
そんなことする犯人ではないのでは‥?

バス内は少し静まり返ったが、
今直面しているよろしくない状況をみんなが理解しだす。
爆発が本当だったなら‥。
バスは減速すれば爆発すると犯人は言っているのだ。
つまり逃げようがない。
天を仰ぐ人。
うつむいて震えている人。

奇声男は。
しばらく静かだったが。
また奇声をあげ出した。
典型的なパニック状態だ。

奇声男だけでなく、
他の乗客も妙な行動をしかねない。
どうするパーカー?
その時、犯人からのアナウンスがあった。

『まずい状況ですね。
 どうするつもりですか?
 乗客に紛れている刑事さん?』

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