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眠るために

 どうやったら眠れるのか、両親と談議を交わした。母が毎晩なかなか眠れず、昨日も夜中に起きて本を読み、その後は寝よう寝ようと努力したが、眠れなかったと話し始めたからだ。
 父と私は、母は寝ている時に眉間に皺を寄せている、それが良くないのではないかと、全くの同意見だ。しかしその上で、父は、母は本当にぐっすり寝ている時も、眉間に皺が寄っている、と言った。

 私は、顔の力をこれでもかっ、というほど脱力することは、眠りの一つの条件だと思っている。

 以前、ヨガを習っていた時だ。1時間ほどのレッスンの一番最後に、必ず、“しかばねのポーズ”というのを行った。数多のヨガポーズの中の基本中の基本だそうで、その名が示すように、死人の如く全身脱力するものだ。マットに体全体が沈んでいくように、ダラ〜っとする。

 その時、インストラクターの先生は、「顔の力も抜いて〜。」と、いつも言う。時には数秒で眠りに落ちることもあった。それは、上手く力が抜けている証拠だ。

 そうなのだ。実体験として、顔の筋肉の脱力は、眠るために実に大事だと、私は確信している。

 母とは対照的に、毎晩爆睡の父の持論は、寝る前にとにかくつまらない本を読むこと。これに尽きるらしい。あっという間に睡魔に襲われ、おやすみ三秒だそうだ。

 私はつまらないと思った本を、自分のそばに置いておかない主義なので、その手を使ったことはなかった。確かに、面白い本など読もうものなら、東の空が白んでも、読破するまで読み続けてしまう。それも、体験済みだ。

 母は、言う。
「お父さんは、寝る前には、いつも同じ本を読んでいる。」と。
「そうだよ。つまらないとわかっている本を枕元に置いておくんだ。」と父。
 なるほど、つまらない本には、そんな有益な利用方法があったのかと、感心した。さすが人生90年の先輩、経験値が違う。脱帽だ。私も一冊用意しておこう。

 しかし、真面目で、心配性で、誰のことでも、まるで自分事のように考えてしまう母には、つまらない本も眠りを誘ってくれないらしい。様々な事で頭の中は満タンなのだろう。

 母の不眠は今に始まった事ではないので、私はあちこちで入手した眠るための方法を、すでにいくつも母に伝授したが、未だ、不眠からの脱却までは至っていない。
 何も考えないように、と言っても、勝手に頭の中に次々と考え事が湧いてきて、それを考え続けてしまうらしい。
 どうしたものか。

 こうなったら、不眠研究の分厚い本でも読んでみようか?そんな本を読めば、ひょっとしたら眠れる日が来るかも知れない。
 つまらなくて三秒か?
 はたまた、東の空が白むまでか?
 いや、しかし、東の空が白んだ日には、不眠症研究の大家になってしまうよ、私たち。でも、それもありかな。ひとつ、やってみますか?お母さん。

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