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さすがに悔しくて、がっかりした話

 一昨日は予約してあった皮膚科の受診日だった。

 最近の私は、どうしてしまったのか、歯医者と病院を行ったり来たりだ。歯医者通いはエンドレスだし、皮膚科は、数ヶ月前から3院目、やっと辿り着いた女医さんの元に2週に1度通うことになった。

 酷暑の中、気が重い。

 しかし、放置できないので、今日も待合室で待つ。

 待ち時間に何か読むものをと、家を出る前に考えた。大好きな原田マハさんにするか、それともスペイン語の教科書にするか。 

 実は、もう6、7年スペイン語を学習している。大学の社会人向け講座に通い始め、コロナ禍でオンライン授業に変わり、随分経つ。
 スペイン語は巻き舌やjの音など、特別な発音があるが、それ以外は日本人には比較的発音しやすい。ローマ字読みで通じるものが多いからだ。ただ、動詞の活用などはもうやめて〜!と泣きたくなるほど種類が多くて、苦戦続きだ。
 だが、やめられない面白さがあって、今に至る。

 結局、原田マハさんを1冊を持って、長丁場に備えることにした。しかし、掲示板に並ぶ番号はもう少しで私の番。初診で3時間待ったことを思えば、早いとさえ感じる。

 その時、“アスタマニャーナ”と、確かに私の耳がキャッチした。
hasta mañana アスタ マニャーナは “また明日ね”  という意味のスペイン語。ハッとして読みかけの本から顔を上げると、通訳の人が患者さんである外国人の男性と別れる瞬間だった。

 男性は受付に行ったが「番号をお呼びするまで座ってお待ちください」と早口で言われ、何やら口篭ったが、黙って私の隣の席に座ったのだ、隣に!

 絶対にスペイン語話者だとわかっているのだ、私はこんな時、彼に何か言えるんじゃないのか?彼にとって、言葉のわからないここ日本で、しかも病院で、心細い思いをしているのではないのか。

 何年も勉強してきたのだ、スペイン語で話しかけるべきだ。

 例えば、何かお手伝いしましょうかとか、いや、もっとカジュアルに、番号は何番?とか。私はスペイン語を少し話せます、なんてどうだろう。
 とにかく、助け舟を。
 さぁ、みみこ、勇気を出して、何か話しかけてごらん。

 ‥‥。

 あれ、何にも出てこない。どうしよう、何て言えばいいの?だんだん緊張してきてしまって、あわあわしている自分がいる。
 そうこうしているうちに彼の番号がコールされてしまった。私はただ、あなたの番号よ、と指し示しただけ。彼はニッコリ微笑んだ。

 私はいったい何をしてきたのだろうか。何も出てこない、私のスペイン語。さっぱりだ。

 思えば、スペイン語を話すことはほとんどない。もちろん、授業で発話することはある。しかし、例えば外出中に、外国の方と話す場面があったとしても、英語だ。スペイン語を話す機会は皆無。
 当然のことながら、改めてアウトプットの重要性を痛感せざるを得なかった。

 それにしても‥

 一言も発せなかったのは、さすがに悔しくて、とんでもなくがっかりした。

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