追憶の日々〜今宵の呟き〜



憧れている人は誰ですか。



 私は、このような質問をされた時、必ず、会った事のある人物を、あげるようにしている。


 何故なら、動画越しで観る方たちの姿は、その人の、ほんの一面に過ぎず、

 実際は、そこから、遠く離れた、人物かもしれないからだ。






 また、過去の映像である場合、どの時間軸かにより、その人の性格は異なる。


 そう、人間という存在は、連続しているようで、実は、断片的なものだ。


しかし、


 会った事のある人物である場合、その時間軸上では、
 正確に、その人を映し出していた。つまり、本物であったということ。


 私は、自分で経験し、明証できたもの、のみを信じる、


そして、

 私が、憧れていた人とは、とある精神科医だ。


 昔、研修をしていた頃、その先生の下につく、こととなったが、

 私は、何も教わることができなかった。


 そう、まともに干渉することができなかったのだ。


 ただ、その先生なりの、精神科医のあるべき姿だけは、教えてくれた。

 その先生は、ほとんど、医局に、姿を表すことはなく、会食にも参加しない。


 そして、誰かに話しかけられても、そこら辺の、石ころのように、平気で、無視をする。



だが、


 ひとたび、壇上に立てば、自信に満ち溢れた表情で、理路整然と語る。

 誰もが、一目を置く存在。



 そうだ、幾つか、会話をした、それを紹介しよう。

「先生の趣味は何ですか」
「サーフィン」


「今度、食事は如何でしょうか」
「結構です」


「何か教えてください」
「嫌です」


「精神科医として、最も重要なことは何ですか」
「知られない事」


 これが、教わった全て。

 しかし、最後の、一言に深い意味を感じた。

 その先生は、自身の精神が乱されないよう、他者との干渉を防いでいたのだ。


 そして、独特の雰囲気で、精神の結界を張り、何ものも、受け付けなかった。


 そう、全てが謎に包まれていた。

 その先生も、過去に色々経験し、その境地にたどり着いたのかもしれない。


 私は、その姿を、今でも憧れている、まるで付け入る隙のない、狂気の魔像。


 綺麗ごとしか言えない、そこら辺の医師とは、一線を画している。


 皆は、このような精神科医をどう思う。

精神科医ましろ




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