見出し画像

彼は天才かもしれない

年下の友人がいる。
彼はどう思っているか知らない。
仮にW君としよう。
W君は息子の中学の時の同級生で、私の塾での生徒の一人だった。

W君はなかなか面白い人で、三者面談から脱走したというエピソードは、私のお気に入りである。自分の息子だったら、怒髪天を突く自信があるから、いい気なものだというのは承知の上で。

そんなW君とは塾でお互いの家族(私はもちろん息子)の、愚痴を言い合う仲であった。
そんな中で、正直、悪童としか言いようのない私の息子をW君は「(すごく短期間で楽器が上手になって)彼は天才かもしれない」と言った。

そんな風に言ってくれたのは、W君だけだった。学校でも社会でも一番大切なのは人間性、なので息子は叱られてばかりだし、楽器吹いていない時の息子は本当に人としてどうかと思うヤツだった。

息子は本当にいい子ではなくて、私はひたすら頭を下げるか、息子に対する不当な扱いと闘う日々であったと思う。(あとは近所迷惑なレベルで息子に怒鳴り散らしていた)

W君のその言葉を頼りに私は生きてきた。
どんなことがあっても、縋っていたと言っても言い。

息子が大人になり、ますます自分勝手な行動を繰り返すように見える今でさえ、私はその言葉を信じていたいと願う。



先日、10年ぶりにW君がすれ違った私に声をかけてくれた。マスクをして、大分見た目が変わったはずの私は、彼が誰か分からなかった。彼は細やかな文を綴る落ち着いた青年に成長していて、人の顔を見分ける能力と記憶力が極端に高いことに初めて気づく。

あなたもまた天才だったんだね。
いつかあなたに恩返しができるといいな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?