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鬼のともだち

「で、でっか〜!」

夜の10時、

客もまばらなロイヤルホストに、アラフィフおっさん二人のスクリームが響き渡る。

確かに彼(大学時代からの友人)の目の前に置かれた

ヨーグルトファッジは

僕らが想像しているよりずっと大きかった。

その重量級の佇まいは

まさしく

ドーン!

とか

デーン!

という擬音がピッタリな感じだ。

「まあ、全然、余裕で食べれるけどさ」

とつぶやきながら、箸もといスプーンを進める彼。

「ヨーグルトだから見た目よりあっさりしてるから全然いけるわ~」

「アサイーとか入っててヘルシーだしね」

などと聞かれてもないのに話し出す彼を見て、思わず

かわいい

と思ってしまった僕はやはり相当疲れていたのだと思う(苦笑)

その日の一次会は僕の家の近所の居酒屋で行い、そのときはお互いの家族のこと、仕事のことをずっと真面目に話し込んでいた。

ちなみに、そもそもの今回の飲み会のきっかけを説明すると、一昨年のクリスマスイブに彼が出張から帰ると、なんと自宅はもぬけの殻で、それ以来、奥さんとはずっと離婚調停中で、小学生の娘さんとも会えずじまいだった彼が先日、久しぶりに娘さんに会いに行くと聞いていたから、正直、その顛末が気になって、僕の方から彼を誘ったのだ。

見た目が彼にクリソツな、でも、なぜかちゃんと可愛い真美ちゃん(仮名)は最初こそ照れくさそうにしていたけれど、帰り際にはさみしそうな表情を浮かべながら、

「今度はいつ会えるの?」

と言ってくれたそうだ。

さらに転校先の学校でも生徒会の書記をやっていたり、どうやら楽しく過ごしているとのことだった。

「こっちにいた頃は友達にいじられたりして学校があまり楽しそうに見えなかったから、彼女にとってはこれでむしろ良かったのかもな」

なんてことを安堵の表情を浮かべながら、さらりと言ってのける彼は

柄にもなく、そして

まぎれもなく

お父さん

だった。

しかし、大学時代から「鬼畜系」とあだ名されていた彼がまさか人間の女性と結婚して、さらに産まれた子供のことをこんなにも溺愛するなんて正直思ってもいなかったから、今の彼が置かれているこの状況は、こんな風に言うのもどうかと思うけど、

鬼が元いた住処に戻ったような

そんな安定感すら感じさせた。

確かに、昨年、彼の家に泊りに行ったときに

「ららぽーとで子供の手を引くお父さんの姿を見ると、切なくてたまらない気持ちになるんだよね」

と彼に呟かれたときも、気の毒だなと励ましながらも、内心では

「なんからしくないな〜」

「これじゃあ、まるで鬼の目に涙やん」

と思ってたしね。

でも、今、僕の目の前にいる彼は

たとえ一人でもガシガシとたくましく生きてくぞ!

という力強さを備えた

かつての立派な鬼の姿

に戻っていた。

そして、実は、この日、お互いの家族や仕事の話などを熱く話している最中も、ずっと三文芝居をしているような違和感というか居心地の悪さを感じていた。

その違和感の正体に、僕はロイホで彼と向かい合わせでパフェを食べていた瞬間に気付いたのだった。

ああ、そうだったわ。

さっきまで何だかんだ一丁前の親とかサラリーマン面して話していたけど、元々の僕たちは、そんな社会性のかけらもないどうしようもないクズ野郎なのだった。

そして、彼がヨーグルトファッジを食べ終わる頃には、すっかりそんな本来の自分たちを取り戻した僕たちは、ここに書くことが憚れるようなくだらない話題で延々と盛り上がったのだった。

閉店間際のしんと静まりかえるファミリーレストランに

「ガハハハ」

という僕たちの豪快な笑い声だけが鳴り響く。

そのとき僕の脳裏には、ふと

月明かりの下、

人里離れた山奥で

泣いた赤鬼と青鬼が宴を開いている

そんな映像が浮かんだのだった。


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