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ヨーグルトファッジには気をつけろ!
「で、でっか〜!」
夜10時。
客もまばらなロイヤルホストに、アラフィフおっさん二人のスクリームが響き渡る。
確かに彼(大学時代からの友人)の目の前に置かれた
ヨーグルトファッジは
僕らが想像しているよりずっと大きかった。
その重量級の佇まいは
まさしく
ドーン!
とか
デーン!
という擬音がピッタリな感じだ。
「まあ、全然、余裕で食べれるけどさ」
とつぶやきながら、箸もといスプーンを進める彼。
「ヨーグルトだから見た目よりあっさりしてるから全然いけるわ~」
「アサイーとか入っててヘルシーだしね」
などと聞かれてもないのに話し出す彼を見て、思わずかわいいと思ってしまった僕は多分、相当疲れていたのだと思う(苦笑)
その日の一次会は僕の家の近所の居酒屋で行い、そのときはお互いの家族のこと、仕事のことをずっと真面目に話し込んでいた。
で、そもそもの今回の飲み会のきっかけを説明すると、一昨年の12月24日(クリスマスイブ)に彼が出張から帰ると、なんと自宅はもぬけの殻で、それ以来、奥さんとはずっと離婚調停中で、小学生の娘さんとも会えずじまいだった彼がこのGWに久しぶりに娘さんに会いに行くと聞いていたから、正直、その顛末が気になって、僕から飲もうと誘ったのだった。
見た目が彼にクリソツな、でも、なぜかちゃんと可愛い真美ちゃん(仮名)は最初こそ照れくさそうにしていたけれど、帰り際にはさみしそうな表情を浮かべながら、
「今度はいつ会えるの?」
と言ってくれたそうだ。
さらに転校先の学校でも生徒会の書記をやってたり、どうやら楽しく過ごしているとのことだった。
「千葉にいた頃は友達にいじられたりしてて学校があまり楽しそうに見えなかったから、彼女にとってはこれでむしろ良かったのかもな」
なんてことを安堵の表情を浮かべながら、さらりと言ってのける彼は
柄にもなく、そして
まぎれもなく
お父さんだった。
しかし、大学時代から「鬼畜系」とあだ名されていた彼がまさか人間の女性と結婚して、さらに産まれた子供のことをあんなにも溺愛するとは正直思ってもなかったから、今の彼が置かれているこの状況は、こんな風に言うのもどうかと思うけど、
鬼が元の自分の住処に戻ったような
そんな安定感を感じさせた。
確かに、昨年、彼の家に泊りに行ったとき
「ららぽーとで子供の手を引くお父さんの姿を見ると、切なくてたまらない気持ちになるんだよね」
と彼が呟いたときも、気の毒だなと思いつつも、ぶっちゃっけ
「なんからしくないな〜」
「これじゃあ、まるで鬼の目に涙やん」
と思ってたしね。
でも、今、僕の目の前にいる彼は
たとえ一人でもガシガシとたくましく生きてくぞ!
という力強さを備えた
あの立派な鬼の姿
に戻っていた。
そして、娘さんの話を聞いた後もお互いの仕事の話などを熱く話していたのだけど、実は会話しながら、終始、何となくコスプレしてるみたいな違和感というか居心地の悪さを感じていた。
そして、その違和感の正体に、ロイホで彼と向かい合わせでパフェを食べている最中に急に気付いたのだった。
そうだったわ。
さっきまでは何だかんだ一丁前の親とかサラリーマン面して話していたけど、元来の僕たちは、そんな社会性のかけらもないどうしようもないクソ野郎なのだった。
そして、彼がヨーグルトファッジを食べ終わる頃には、すっかりそんな本来の自分を取り戻した僕たちは、ここに書くことが憚れるようなくだらない話題で盛り上がっていた。
閉店間際のシンとしたファミリーレストラン。
その店内に高らかに響く
「ガハハハ」
という彼の豪快な笑い声を聞きながら、
なぜだろう、僕は。
まるで人里離れた山奥で
月明かりの下、
泣いた赤鬼と青鬼が宴を開いているような
ふとそんな気分になっていたのだった。
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