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美しい舟に乗る。

「パキッ、パキッ、パキッ」

「ボイスミツシマでした〜良い1日を」

静かな畳の部屋に響く、

銀杏を割る音と、NHKラジオ。

わたしは、手早く銀杏を割る。
あと20分で店の営業が始まるからだ。
ソースも詰め替えなければならない。
仕事はまだある。

100個近くの銀杏を割ると、
急いで裏からソースを出した。
客席は全部で10卓。
小走りで詰め替える。

銀杏割るのは楽しい




一面にぎっしりと貼られたメニュー。
ふんわり香る、張り替えたての畳。
お世辞にも綺麗とは言えない店だが、
何故かそこにいると安心感があった。

吉祥寺駅を降りて1分もかからない。
そこにあるのは、老舗の居酒屋

私のアルバイト先である。



「こんばんは」
お客さんを迎えると、
壁一面のメニューを見て
「すごーーい」と
お客さんはいった。

見慣れてしまった私からしたら
何がすごいのかななんて、
思ってしまうけれど。

私も初めて来た時は、
写真をパシャパシャ撮った。
ここは好きな小説家(?)が
よくきていたらしい。
その証拠にその人が原作の
映画にも出てきた。

結構ヒットしたもので、
その影響でいまだにお客さんは来る。

「お飲み物何にしますか?」と聞くと、

「生3つで!」と威勢よく言われた。

「うちは紙に書いて注文するので」と
説明すると、「ええ珍しい」と、
張り切ってお客さんは鉛筆を持つ。

生を持ってくると大きな声で
乾杯の声が鳴り響いた。

居酒屋で働くことは夢で、
親からの反対を押し切って今働いている。

忙しいし、大変だけれど、
本当に大好きな場所で働けたことを、
私はこの先、一生忘れないと思う。

「「カンパーイ!!!!!!」」

次から次とやってくるお客さんは、
大きな声で乾杯する。


今のおすすめはきぬかつぎです。

今日もお客さん来てくれるといいな〜

最初読めなかったきぬかつぎ

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