介護サービス事業の実態と懸念

今は違いますが、過去福祉の仕事に携わって25年。この間に介護保険がスタートしました。

具体的に介護保険制度が始まったのが2000年。この年の4月1日に「コム○ン」という会社が派手に新聞広告を打って事業の宣伝を行いました。
現在はどうなのか?もう聞かないですね。なぜでしょうか?
事業の継続がままならなくなったからだと思います。
介護保険事業のデイサービスと訪問介護を中心に全国に事業を展開していったこの会社ですが、デイサービスと訪問介護の事業は現在は絶対に儲からないものになっています。

デイサービスで考えると、デイサービス事業を始めるためにはまず利用者を受け入れる施設が必要になります。事業を始めるには都道府県の指定を受ける必要があります。指定を受けるためには施設の基準を満たす必要があります。これが浴室だったり、施設の広さだったりします。広さについては利用定員一人当たり何平方メートルと定められています。
こういった施設を建てるなり借りるなり、はたまた改造するなりといったことが必要です。ここでかなりお金が必要になりますよね。
それと事業を始めるために人員もそろえないといけません。利用定員規模に応じて介護職員の人数をそろえる必要があるんです。まだお客さんのめどが立っていないにも関わらず、職員は必要なんです。特に大変なのが看護師の確保ですね。働き方が合えばよいのですが、なかなか難しいと思います。めでたく職員がそろって施設も整備できた。そのうえで県に指定申請書類を提出し問題なければ県の指定を受けることができ、晴れてデイサービス事業を開始できます。(かなりおおざっぱですが概ねこんな流れだと思います)
事業の開始に当たり、デイサービスに自力で来られる利用者はほぼないと思います。何せ介護度3~5の人になりますからね。そうなると送迎のために車輛をそろえなくてはいけません。リフト車輛だったり、軽自動車だったり、利用者の家は道路沿いとは限りませんから、車いすだったりとそろえる物も多くなります。
利用者は施設と個別の契約となりますが、利用者には大体ケアマネージャーが付いていますので、ケアマネージャーとも連携してPRしていかないと利用者の確保もままなりませんね。
まあそんなこんなで利用者を受け入れて事業を開始します。何とか1か月過ぎて利用料を請求するための事務作業も大変です。介護報酬の請求と利用者への利用料の請求が必要になります。請求には期限があります。間違いは許されませんし、そのためのシステムはありますが、システムを導入するためにまた凄くコストがかかります。
で、その介護報酬の請求内容は点数で決まっています。おおむね1点イコール10円ですが、地域によって変動します。介護度の高い利用者程点数が高く、ある意味儲けも大きいですが、介護にかかる人員をその分手厚くする必要があります。
その点数構造も利用者の介護度に応じた基本点数に各種加算が加わってきます。各種加算もとるためのハードルが高いこと。たとえばリハビリ加算を取るために看護師の配置とかリハビリのためのOTやPTの配置といったことが必要になりますが、その分の人件費も必要になります。それに見合った加算ならばよいのですが、現実は厳しいですよ。
介護職員は殆どがパートに頼ることになりますが、専門職加算を取るためには介護福祉士といった有資格者の配置が必要になります。パートで介護福祉士の配置なんてなかなか難しいですよ。やはり資格を取得すればそれ相応の待遇を求めるものですしね。
そんなこんなで人件費も爆上がりです。実際に得られる介護報酬は本当にそれだけをカバーできるものなのか?甚だ疑問です。他にも車の維持費、電気光熱費、食糧費、場合によっては家賃といった固定支出も必要になります。
また利用者が高齢者なので、入院とかでデイサービスを休まれるとその分の報酬はなくなります。介護度の高い人ほど入院の確率は高いです。でも人件費や光熱費などの固定費の支出は変わらない。
利用定員を超えて利用者を受け入れると介護報酬は減算されてしまいます。
デイサービス事業所がいくつかあると、その事業所と利用者の奪い合いになるといったことも出てきます。本末転倒ですがな。

デイサービス事業ひとつとってもこれだけややこしいことを経て事業を始め、継続していくんですが、これでやっていけると思いますか?私は無理だと思います。はっきり言って。

福祉サービス事業は利用者の生活を支えるとても大切な事業ですが、安定した経営ができてこそ利用者が安心してサービスを受けられると思うのですが、どうでしょうか?

訪問介護事業も専門性の高い事業であるにもかかわらず報酬が低く、流れ作業でたくさんのサービスをこなしていかないとなかなか安定した収入は得られません。人の生活はそれぞれですが大まかな生活リズムは画一的ですので、サービスの必要な時間帯は決まっていてそこに人を集中せざるを得ません。それだけの人材を確保をするのも至難の業です。しかも365日24時間サービスのニーズはあるのです。夜間や年末年始のサービスは多少の加算はあるにしても焼け石に水だと思います。また、自宅に入れない利用者もいますし、利用者からのセクハラも日常茶飯事。ついでに家族の相談も受けたりと大変ですよ。孤独死に遭遇することもありますしね。(深刻)
利用者側としてもデイサービスや訪問介護を毎日利用すると実際の自己負担額はかなりになります。
一カ月の生活費に加えて、こういった利用料の負担を年金だけに頼る高齢者はできるのか?これも甚だ疑問です。

事業者も利用者も苦しい制度が介護保険制度では何のための制度なのか。
人間みんな年齢を重ねて高齢者になります。日本は良くも悪くも超高齢化社会を迎え、それに少子化が加速しています。いずれ制度も破綻するのではとも思いますがどうなんでしょうかね。
こういったことを盾に税金や保険料を上げることしか国は考えませんが、税や保険料が上がって報酬は下がるって、これでは事業はできませんよ。まず税金や保険料の使い道をしっかり見直してほしいですね。一般家庭でも収入に応じた支出を考えて日々の生活を送っているはず。
こんな当たり前のことをどうしてしようとしないのか。

介護保険事業が始まる前は介護も措置制度で、市町村が高齢者の面倒を見るという制度でした。
この制度のもとでは事業者も利用者も安心してサービスの提供と利用ができました。反面施設やサービスを選べない。サービスの質も向上しないといった面もあったようです。でも国が高齢者の面倒をみるというのは、この国に生きていくうえでの安心材料です。たしかにお金がかかることですが、本当に無理なんですか?高齢者は遠からず天寿を全うします。高齢化とはいっても長生きしてもせいぜい110歳くらいまででしょう。それを踏まえて制度設計をすれば良いのではないですか?
西欧の高福祉の国は税金も高いと聞きます。でも政府に対して高い信用があって、高齢者になっても安心して暮らせるとして、それを甘んじて受け入れているのでしょう。
税金の使い道がかなり不透明だと思われる我が国では負担増を求める前に明確な収支を根拠を示して開示してほしいものです。それができないなら、官僚も国会議員も総入れ替えするくらいしないといけないですかね。

政府が信用されない理由の一つがここにあるんでしょうね。知らんけど。
ここまですべての文章はあくまでも個人の感想です。

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