見出し画像

戦術分析【BCL Round of 16】 Lenovo Tenerife - Rytas Vilnius

現地時間2022年2月9日に行われたバスケットボールチャンピオンズリーグ、Best of 16グループLの第3戦、今回 Lenovo Tenerifeが対戦したRytas Vilniusは、2018年までLietuvos rytasというチーム名で、リトアニア国内リーグでもRytasとして参入した97-98シーズンからチャンピオン5回、毎シーズン必ず3位以内には入っている強豪。現バルセロナのHCヤシケヴィシャスがプロキャリアをスタートさせたのもこのチーム、さらにはマシャウスカス、シスカウスカス、クシシュトフ・ラヴリノヴィッチ、ズカウスカス、さらには現役NBAプレーヤーのヴァランチュナスらを輩出しています。過去にはEuroleague、Eurocupにも参戦。昨シーズンよりBasketball Champions Leagueに参戦しています。

今シーズンChampions Leagueではレギュラーシーズン、グループH(スペインのブルゴスと同組)を4勝2敗で1位通過し、Round of 16グループLでは現在、ストラスブールに負け、ソンバトヘイに勝利し1勝1敗となっています。

第1Q : Vilniusがスタートダッシュするも、Tenerifeはベンチメンバーが踏ん張る!

このゲームのスターター、Tenerifeはウエルタスサストーレシェルマディニトドロヴィッチドーネカンプ、Vilniusはノルマンタスラドゥゼヴィシャスブヴァスミスブトゥケヴィシャス。Vilniusのブヴァ(Ivan Buva)はスペインACBのビルバオやバレンシアでプレーしたベテランインサイド。スミス(Speedy Smith)はルイジアナテック出身のアメリカ人ガードでかつてロサンゼルスやグランド・ラピッズなどDリーグでプレー。

序盤Tenerifeは高さのアドバンテージ(Vilniusで一番大きいプレーヤーのブヴァで205cm、一方Tenerifeはシェルマディニ217cm、ゲラ214cm)を活かしローポストのシェルマディニにボールを集めインサイドで攻撃を仕掛けようとするも、Vilniusの素早いLow postへのDouble team(下の画像)でTenerifeはターンオーバーを連発。残分6分台まで0−7でVilniusにリードを奪われる展開となる。

その後は、Tenerifeのアウトサイドショットがコンスタントに決まりだし、何とか食らいついていく。Tenerifeは途中出場したゲラウィルティエがlow postへのダブルチームに上手く対応し、得点を重ねた。

一方Vilniusのベンチスタートで光ったのが、10番のルカス・ウレツカスだ。201cmのSGで22歳とまだ若いプレーヤー。17歳の時、リトアニアの名門Zalgiris Kaunasに入団し二軍でプレー、昨シーズンよりVilniusに加入した。第1Qの残分4分5秒から11得点(スリー3本含む)、何とこの時間帯のチーム全ての得点を決めた。非常に将来性を感じるプレーヤーだ。

Tenerife : 【Half court offense】Stack out flip flare → Slip

第1Q中盤に見せたTenerifeのハーフコートオフェンス。Tenerifeが本当によく使うStack outからのハンドオフフレア(Stack out flip flare)からの展開。ドーネカンプがゲラのスタックを使い右のSlotへ。

ウエルタスはドーネカンプへすぐにハンドオフに行き、ドーネカンプは再びゲラのフレアスクリーンで逆サイドへ(Flip flare)。

ゲラはフレアスクリーンからそのままウエルタスへサイドピックに行く。このとき自分のDFがウエルタスへのヘッジしようとすることを予測し、空いたペイントエリアへSlip。Vilniusのファウルを誘った。

第2Q : TenerifeはウィルティエでMake mismatchし効果的にオフェンス!!

第2Qのスターター、Tenerifeはウエルタス、サリン、サストーレ、シェルマディニ、ウィルティエ、Vilniusはカリニアウスカス、ウレツカス、ギルジウナス、ライスナー、ブヴァ。

Tenerifeは第2Q序盤、とにかくウィルティエにボールを集める。シェルマディニのLow post upに対し収縮したDFの隙をついて逆サイドウィングのウィルティエへSkip passからドライブ(下図)したり、シェルマディニがウィルティエにStack out screenをかけてDFにスイッチさせ、スピードに劣るブヴァがウィルティエにマッチアップするシチュエーションを作り(下図)、アウトサイドからドライブしたりとウィルティエが立て続けに得点。

逆サイドウィングのウィルティエへSkip passからドライブ
Stack out screenをかけてDFにスイッチさせる

Tenerife : 【Half court offense】Cross screen into ZipperでMake mismatch

残分6分13秒付近のプレー、こちらもウィルティへのところでMake mismatchしたプレー。まずはウエルタスが左Wingまでドリブルダウン、左Lowのドーネカンプが右lowのトドロヴィッチへCross screen。

その後、左Slot辺りのウィルティエがトドロヴィッチのDFへPin downに行き、トドロヴィッチはZipper cut。その際ウィルティエのDFがトドロヴィッチへSwitch。

Switchによってミスマッチを引き起こしたウィルティエはLow postでDFをSealし、ポストアップ。ボールレシーブし、ファウルをもらった。

Tenerife : 【EOQ】Corner pin down / Seal

第2Q終了間際、Tenerifeがタイムアウトを取得し、ATOで見せたEnd of quarterのプレー。ここでもウィルティエがMake mismatch。24秒の残り10秒を切ったら、ハイポストのウィルティエがコーナーのサリンのDFへPin down。サリンは右ウィングへ。ここでサリンの3ポイントはフリーで打たしたくなかったVilniusはウィルティエをマークしていたブトゥケヴィシャスがサリンにSwitchしディナイ。サリンについていたノルマンタスはウィルティエにマッッチアップ。右lowにいたドーネカンプは左コーナーへクリア。

ミスマッチとなったウィルティエ(ウィルティエ208cm、ノルマンタス194cm)はすかさずローポストでシールしウエルタスからボールをレシーブしショットを沈めた。

ミスマッチをメイクし、インサイドで何とか得点を重ねたTenerifeに対し、Vilniusは第2Q序盤、一度はTenerifeにリードを許すも、カリニアウスカスのドライブ、ブヴァのポストアタックでなどで、再逆点そリードし続ける展開となる。結局38−41、Vilnius3点リードで前半を折り返した。

第3Q : サリンの3ポイントが火を吹く!Tenerifeが逆点から突き放す!!

第3Qのスターター、Tenerifeはウエルタス、サリン、シェルマディニ、ウィルティエ、ドーネカンプ、Vilniusはノルマンタス、ウィリアムス、ラドゥゼヴィシャス、スミス、ブトゥケヴィシャス。

Tenerifeはファーストオフェンスで獲得したBLOBでいきなりサリンが3ポイントを沈め同点に追いつく。そのBLOBがこれ。

Tenerife : 【BLOB】Rip elbow cross

ドーネカンプが左WingのウィルティエにBack(Rip) screen。

ドーネカンプは左コーナーへクリア、ウィルティエは右のショートコーナーへ。左エルボーにいたシェルマディにが右エルボーのサリンへCross screen。サリンのDFがアンダーを通ったのでサリンは左Slotでボールをレシーブし、このクォーター1本目の3ポイントを沈めた。

その後、残分5分1秒、残分4分18秒に、VilniusのDFがTenerifeのインサイドをケアしすぎるあまりに、サリンがノーマークとなり2本立て続けに決めた場面を紹介する。

これは、右ショートコーナーでウィルティエがボールを持っている場面で、左LowのゲラのDFがヘルプへの準備をしている。ウィルティへは、サリンのDFがゲラへSagしマッチアップしている状況となっていることを見て、左コーナーへスキップパス。パスに合わせてゲラがサリンのDFをシールし、サリンは悠々と左コーナーから3ポイントを沈めた。

次はゲラが右ショートコーナーで1on1を仕掛けている場面。ゲラがベースラインの方向へターンする。ウィルティエのDFはゴール下までHelpの準備をしにSagしていたので、サリンのDFがコーナーのウィルティエのパスコースを消しにカバーダウン。ゲラは左ウィングでノーマークとなったサリンへパスし、サリンはこのクォーター3本目の3ポイントを決めた。この後、たまらずVilniusはタイムアウトをとった。

タイムアウト明けVilniusは、なかなかシュートが決まらず、ターンオーバーも連発してしまい、一方TenerifeはDFのインサイドへの収縮をうまく利用したオフェンスを継続、トドロヴィッチ、サストーレの活躍もあり、60−50とこのクォーターだけで13点差をつけて、第4クォーターへと突入する。

第4Q : Vilnius怒涛の追い上げも、一歩およばず!最後はサストーレが止めを刺す!

最終クォーター、スターターはTenerifeがウエルタス、サストーレ、シェルマディニ、ウィルティエ、ドーネカンプ、Vilniusがカリニアウスカス、ウレツカス、ギルジウナス、ブヴァ、ブトゥケヴィシャス。

Tenerifeは相変わらずインサイドにボールを入れ、インサイドに寄ればアウトサイドへというバランスの良い攻撃で残分6分17秒で71−57と14点差をつけVilniusがタイムアウト。そこからVilniusはスミスを中心に怒涛の追い上げを見せ、残分2分19秒、スミスが3ポイントを決め、76−71でこのクォーター最小の5点差まで詰め寄る。

その後はVilniusがなかなかシュートを決めきれず、一方Tenerifeは落ち着いた攻撃を見せ、サストーレが残分1分を切ってから5得点とVilniusの息の根を止めた。最終スコアは89−75。TenerifeがRound of 16に入って三連勝を決めた。

Tenerife : 【SLOB】Zipper chase hand off into Ram

Tenerifeが第4Q序盤に見せたSLOB。右エルボーのウエルタスが右lowのシェルマディニのDFへPin downしシェルマディニがZipper cutでボールをレシーブ。

インバウンズしたドーネカンプはコーナーへ。Pin downをかけたウエルタスはシェルマディニをchaseしハンドオフへ。

逆サイドではエルボーのウィルティエがコーナーのサストーレのDFをPin downしサストーレはそのままウエルタスへPick(Ram screen)。ハンドオフ後、シェルマディニはダイブ。

Pickを使って逆サイドへきたウエルタスはPin down後Low post upしたウィルティエへポストフィード。それに対して逆lowのシェルマディニのマークマンがヘルプからダブルチームへ。

カバーダウンが遅れた隙をついてウィルティエはフリーになったシェルマディニへパス。シェルマディニがダンクを決めた。

Tenerife : 【Half court set】Horns into high pick / angle change

第4Q残分4分19秒、サリンがこの日4本目の3ポイントを決めたオフェンス。Horns setからウエルタスにゲラがHigh pick。ゲラはダイブし、ウエルタスはパスのアングルを変えるためにPop outしたドーネカンプへパス。

ドーネカンプのポストへのパスの狙いをVilniusのスミスがフルフロントで守り、さらに右コーナーのウィルティエのDFもポストへSagしていたため、ドーネカンプはコーナーのウィルティエへさらにアングルチェンジ。

ウィルティエからボールをもらったゲラへ逆サイドコーナーサリンのマークマンがダブルチーム。そのダブルチームをゲラがピボットで破り、対角のウエルタスへパス。さらにコーナーのサリンへパス(Extra pass)し、サリンがこの日4本目の3ポイントを沈めた。

まとめ : この試合を数字で読み解く

このゲームのTenerifeの勝因は、1番はVilniusが仕掛けるポストへのダブルチームへの対処だろう。Vilniusは高さのミスマッチを活かしポスト中心に攻めてくるTenerifeに対し素早いダブルチームで対処しようとしたが結局最初の数分効いただけでほぼ1試合を通してTenerifeのIn&outのパス回しにうまくローテーションが追いつかず、好きなようにやられた感がある。

このゲームを4 Factors等の数字で分析したのが次の表である。

特筆すべきは、やはりTenerifeのオフェンスの特徴である3ポイントの確率の高さであろう。この試合は先ほども書いたが高さのミスマッチを活かしてTenerifeのファーストオプションはインサイドだった。しかしVilniusがダブルチームで早めの対処をしたことでアウトサイドに対してロングクローズアウトになるシチュエーションが多くあった。そのアドバンテージを活かししっかりノーマークを作り3ポイントを決められたことが大きい。アシスト数22という数字がTenerifeのオフェンスがいかにボールが回っていたかを示している。3ポイントが入ったことでとにかくTenerifeのOffensive ratingを上げた試合となった。Tenerifeは3ポイントが入れば勝つということを象徴したゲームとなった。

最後にRound of 16前半3試合の4 Factors等のSTATSを載せておく。とにかく高い水準のeFG%となっている。3ポイントがよく入っていることを示している。TenerifeはORB%が低く、ターンオーバーも決して少なくないがとにかく3ポイントが入っている。ただやはりシュートは水物。ACBやチャンピオンズリーグでもDFができるチームに対してのシュート確率はやはり低い。アウトサイドショットが多い分ペイントの得点が低い。さらに点の取り合いになると負けている傾向も見られる。以上の点に少しでも改善が見られるとACB上位、チャンピオンズリーグ制覇も現実のものとなってくるのではないか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?