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義理の母

夫の母が危篤だ。

お義母さんは長く病院にいる。
私が彼と出会ったときから病を患っている。治らない病気だった。面会はできる時もあった。でも私のことを認識しているかはわからない。

だから、私はあまりお義母さんと話した記憶がない。

息子(私の夫)のことを話してくれた…唯一の覚えている会話だ。彼のことを「しっかりした子やねん」と言っていた。誇らしげだった。きっとお義母さんは、息子を肯定して育てたんだろう。だから彼は自信があって責任感があって、頼もしく育ったんだろう、そう思った。
当時もお義母さんに、とてもとても感謝した。
お義母さんがあたたかく育ててくださったあなたのおかげで、一緒にいる私はとても幸せです。

そして今日、とても久しぶりに会いに行った。面会が制限されていたので、血の繋がっていない私はここのところお留守番だった。

久しぶりに会えた。写真や画面越しではなく、生きているお義母さんだった。
手が温かい。肌がすべすべで柔らかい。おばあちゃんというより、女の人だった。目を開けてくれた。少し娘に似ていた。

苦しそうだった。でも口を開けようと何度も試みてくれ、言葉にならないけれど空気の音を出してお話をしてくれた。伝えたいことがあったのかな。目に光が差していた。手をぎこちなく動かしてくれた。

なにか、声をかけたい。
声を聞かせたい。
あなたに感謝し、あなたを見ている人間がいると。
ただ声を出したいだけなのに、どんな言葉を出せば良いかわからない。

「ありがとうございます」
としか言えなかった。
ずっと、ありがとうございますしか出てこなかった。
でもそれでも良いと思った。
なんとなく、まだここにいて欲しいとお義母さんは言っている気がした。
手を握って、「ありがとうございます」と言うだけしかできないけれど、居られるだけそばにいたいと思った。そして心だけ、置いてきた。

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