中小企業はどう生き抜くべきか

 日本の中小企業は、全企業数の99.7%、雇用の7割、過半数の付加価値額を占めている。中小企業の活性化は、日本経済の最重要課題であるといっても過言ではない。一方、日本経済は平成初期にバブル崩壊を経験した後、デフレという災厄を放置した。そしてその傍ら、地域社会を破壊する構造改革に邁進しつづけた結果、OECD諸国で唯一経済成長ができない国へと没落してしまった。
 都市一極集中と地方衰退の同時進行によって、毎年4万~5万件の中小企業が休廃業・解散に追い込まれている。事業承継難や売上低迷、資金繰り難など理由は様々だろうが、中小企業が廃業しない方が不思議なくらいの経営環境なのだ。
 加えて、昨今のコロナウイルス感染症蔓延や燃料・原材料高を背景にした倒産が増加している。特に、燃料・原材料高というコストプッシュインフレ不況は一過性に留まらず、常態化する可能性がある。デフレギャップの定着と、コストプッシュインフレの進行によって、実質賃金がさらに低下するのは確実だろう。
 なお中小企業に限らず、日本企業の生産性は、他OECD諸国と比較しても低いことが指摘されている。日本経営倫理学会の中嶋康雄氏によると、IT時代が本格化する2000年代に、情報化資産や人的資本への投資が停滞したことが、日本企業の生産性向上に致命的な遅れをもたらしたことを指摘している。事実、小泉構造改革が開始された2001年以降、日本企業の資本増備率、資本生産性成長率は低下の一途をたどっている。また先進主要国と比較して、IT人的資本への投資は圧倒的に遅れているデータが存在する。要は、将来のための投資を抑制して、目先の利益担保に目がくらんだというわけだ。2000年には半導体産業トップ10に、日立やNEC等の日本企業が軒を連ねていたが、今は一つもない。
 政治と財界、御用学者がぐるになって構造改革を支持した結果、まともに人が育たない社会ができあがった。そして、今更になってIT・DX人材、人的資本投資の必要性を彼奴等は叫ぶ始末である。たちが悪いこと極まりない。

 ロシア・ウクライナ戦争は収束の兆しを見せておらず、コストプッシュ型インフレは長期化する可能性がある。さらに、米中対立や、中国の金融バブル、世界貿易もリーマンショック前を回復していない。泰平に見えたグローバリズムは2008年のリーマンショック時から終わっていたのだろう。日本が日米同盟で平和に思えた時代は終焉を迎え、本格的な没落時代が到来している。

 では、将来予測が困難な没落時代を生き抜くために、中小企業はいかなる施策を取るべきだろうか。雑に結論から申し上げれば、何が起こるか予測できなければ、どんな状況においても対応できる企業変革力を身に着けるしかない。その企業変革力を高めるためには、IT・デジタル、人的資本、研究開発といった無形資産投資が有効であるのではないかと考える。事実、「中小企業白書2022」でも同様の指摘がなされていた。その中でも、優先度が高いのが、IT・デジタル化技術への投資だろう。
 そこで私が注目しているのが「ものづくり白書2020」で紹介されていた、企業変革力=ダイナミックケイパビリティという概念である。同白書では、その変革力の強化に、IT・デジタル化技術の活用が有効ではないかという指摘をしている。データ収集・連携、AI予測・予知、3D設計、シュミレーションによる製品・サービス開発の高速化、変種変量対応等々を組み合わせることで、省人化や業務効率化といった生産性向上が当然期待できる。さらに、変化する環境に適応する企業変革力=ダイナミックケイパビリティを高めると同時に、DXという形で新しい付加価値・イノベーションの創出が可能になるかもしれないというのだ。
 これらの施策を実行するのは容易ではないことは重々承知しているが、やるしか生き残る道はない。補助金でも助成金でもリソースは全て検討すべきだろう。だが、それでも零細な企業では困難なことが多いだろう。だからこそ、事業者間の集団化・共同化という連帯を促進することが必要ではないだろうか。没落時代を生き抜く術は流行の個人主義ではなく、連帯した個人であり企業である。私はそう思う。


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