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沈黙の一歩手前で

沈黙の一歩手前で

「鳥横の悲劇」

青い服を着て白い服をきない。赤い服をきないで黄色い服をきない。結果的に残ったものが肌の上にある。
永井さんは白木さんではない。じじつとして。
壁が四方にあるが部屋ではない。土がなく、空が見えない。人が二十以上はいる。もっといる。四角く区画された切れ込みが床を断裂させ、人が裂け目の間に入っているのがこわい。こわい。
場所には音楽が存在する。新しいページをめくろうとするたびにクレヨンでぐちゃぐちゃにされるように喋ろうとして口をひらこうとするたびに大きな音で邪魔される。揺れているのは水で、歌と言語の違いが分かると思う。すぐ忘れる。
不愉快で立ちくらみがする。プレイリードッグが足に噛みついたように立ちくらみがする。ジェットコースターが落っこちるように走り出したいがここを動けない。じじつとして。
青い水を飲む。青いニクを食う。白い床に落ちる。
まるでいろいろなものが同時に絶命するように立ち上がりたいが、動けない。かなしばりにあっている。かなしばりは体を動かせないのではなく、すべての方向に向かって同じ力で同時に引っ張るので結果的に合力がゼロになり身動きがとれないのだ。バラバラになる!
死ぬ!
ライトノベルの上を針金虫が行進し人間の内臓にまで辿り着く。足のようなものが体中で動くのをかんじるだろう。
馬車がスポーツカーのように旋回し大地を削る。昭和天皇がチョップをする映像を九時間みる。網膜が焼ける。空に蝋が飛び散ってくらくら目の中に滑り込んできた。やめていたはずのことをすべて再開しやっていたはずのことをすべて放棄する。完全に嘔吐を終えたあと完全に新しいものを食べたい!
割れ目に吸い込まれた人が二度と戻ってこないように、発言が喉の奥に入り込んで二度と空気にさらされることはなくなる。それはだれのせいだ!唇に針を刺して糸を縫い付けていく度につぷつぷつぷと果実が潰れたように血液が吹き出す。二度喋れないように。大きく開いている目の中心をを見事に針で刺す。透明の液が噴出する。
それは言葉ではないと宣言された鳥は永遠に歌うことしかできなくなり、ららら。
明らかに可哀想な音楽になる。横でさらに醜く腐ったなにかが意味のないことを喋っているがそれは音楽ではない。

「腕がない」

腕を回したら両方の肩が複雑骨折し、邪魔だったのでそのまま引きちぎって床に落とす。ルール上落ちたものが踏まれても文句を言うことができない。◯田◯◯が憎悪している。死ぬことしか用意されていない道を走っても歩いても同じだ。母音と子音が予定調和のように結びついているので細かいことが言えないのかもしれない。誰かが育てた紫陽花を踏む。一歩ごとに生命を取り返しのつかない状態にするようにスキップする。腕がバラバラになり二度と文字が書けなくなる。自分に関する存在しない記憶が他人の手によってねつぞうされても自分にもう腕はないのでルール上ただ踏まれることしかできない。口は開くと不思議な音が出たことを笑われ、意味不明の音を鳴らしたくないのに放屁のように止まらない。胃腸がなにかに侵されているのを実感する。手を使って抗弁したいものの手はすでに引きちぎってしまったのだ。「お前が自分で引きちぎったのだろう」と。自分の首にナイフを突き刺すにも、腕がない。

「くらし」

河原で拾ってきた直径六センチの石を思いっきり噛むと歯がバラバラに砕け散って口の中が砂利と血と骨で渾然一体となった。春のように過ごしやすい夏だった。すでに死んだとんぼが二匹空の上を空回転して綺麗だ。新しい生命は失われた塵となってこぼれ落ちた。回転するための回転がわたしの目を回転させた。目が回ってぽとりと川の中に落ちてそのままながされてしまうように家に帰った。とにかく安定した日和だった。
家に帰るとお母さんがヨーグルトを混ぜながら父親とセックスしていた。わたしは兄の部屋にエナメル鞄を置き白いストーブの前で自分の手の皮を燃やす。やめどきがわからなくなって死んでしまった。
回転するための幻灯機が夏に冬の映像を見せているのか冬に夏の映像を見せているのかもうどちらだか今となってはわからなくなってしまった。すべりこむように季節の中に入ったわたしはもう今となってはすばしこいイタチのようになにもわからなくなってしまった。
永遠に訪問者のないドアの向こうに影のように張り付いている男を見た。いずれ命を精算しにくるのだと思いながら眠りにつく。蜂蜜の夢を見ることでしか一日の終わらせ方を知らない馬鹿な子供のように眠った。
回転するための回転がくるくると頭上で回転している。照射される映像はすでに少し前に終わったものの死骸で、わたしはいつまでも待ち続けなければいけない。
わざわいを起こすために祈っている人たちがおおぜいいる。わざわいのために祈ることは誰かにわざわいをわざわいのためのわざわい。わざわいが人を祈らせている。わざわいのために祈りが存在する。わざわいのないわざわいがわたしたちのわざわいが夜を明ける。

「断片」

魚を上手に食べれる人は根気がいいというのは魚を上手に食べれない人は根気が悪いという意味とどの程度関係がありどの程度関係がないのかとスポーツカーとドリフトする馬と秒針はどの程度関係があるのかと土が彫刻のようにしているように人が馬のようにしているのはどの程度関係があるのか

鳥が営みのように暮らしている 街が暮らしのように華やいでいる 月が照らすように浮かんでいる 足が歩行のように踊っている 死が患うように佇んでいる ノートが書かれるように歌っている

張り裂け 張りがあるものがビリビリとやぶかれさける張り裂ける

もっとも理性的に導き出した結論がもっとも裏目にでるように仕組まれた人生

沈黙の一歩手前で

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