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#4 はじめてよしもと祇園花月に行った話

家から持参した弁当を食べ終えると、昼休みは、こうしてnoteを書いたり、Yahoo!ニュースを斜め読みしたり、ふと頭に浮かんだ単語を検索して、Wikipediaを見たりして過ごしている。
(改めて書き出してみると、もっと有意義な過ごし方ができないものかと思う)

その日は、「よしもと祇園花月」を検索してみた。深い意味はない。ただ、なんとなく、だった。

よしもと祇園花月のサイトを訪れると、スケジュールページからその月の劇場プログラムのpdfを見ることができる。pdfの下部にはキャンペーン紹介欄があり、集客のために様々なキャンペーンを行っていることが分かる。

その中のひとつに、誕生月半額キャンペーンを見つけると、祇園花月のURLと一緒に「祇園花月、誕生月半額だって!」と連れ合いにSMSを送った。来月は彼女の誕生月だから、見たい公演があれば、一人分半額で観覧できるしお得じゃん!と思ったからである。

昼休みが終わってしばらくして、連れ合いから少し興奮気味に、「7月30日見てみ」と返事があった。慌ててpdfを確認すると、そこには、別日とは一線を画す、考え得る中でも最高に近いラインナップがあった。

[漫才・落語]天才ピアニト/すゑひろがりず/ミルクボーイ/笑い飯/矢野・兵動(当日の出番順)

何を隠そう我々夫婦は、2012年の第一回ytv漫才新人賞をテレビで見てからM-1優勝を確信し、ずっと応援してきたミルクボーイファンである。2012年時点でリターン漫才と称される漫才スタイルをほぼ完成されており、彼らの漫才をひと目見た瞬間、その斬新な漫才フォーマットと、舞台上での内海の愛らしさ、駒場の冷静で凛とした佇まいの虜になっていた。

そんなミルクボーイを筆頭に、若手枠に現在の女性コンビでトップランナーの天才ピアニスト。人気芸人枠にお茶の間やYoutubeでも大人気のすゑひろがりず。ベテラン枠に安心安定の矢野・兵動。そして、極め付きは説明不要の笑い飯である。なんとまあ、豪華な顔ぶれなんざんしょ。

一度冷静になろうと、目の前のメモ帳に5組の漫才コンビ名を書き出し、いろんな方向から眺めてみた。そして改めて思った、一点の死角もない完璧なラインナップだと。
(マジお前仕事しろよ、という突っ込みは置いといて)

どの日のプログラムを見ても「3組は良いんだけど、残り2組はそこまでなんだよな〜」とか、「この日の、このコンビを◯◯に替えてくれたら良いのに」と最低でも一つはケチを付けてしまい、チケット購入どころか検討にも至らないのだが、7月30日のこのプログラムは難癖をつける隙さえ見つけることができないほど、我々にとって完全無欠だった。

すぐさま、チケットを予約しておいてくれと返事をしたのは言うまでもない。ずっと生で見たいと思っていたミルクボーイに会える日が来るのだ。

それから約1ヶ月の間、7月30日を迎えるのが楽しみだった。

当日のよしもと祇園花月入口の掲示物

7月に入るとミルクボーイ内海が体調不良で療養と復帰を繰り返しており、急遽代役が立てられるのではないかと気掛かりで、毎日SNSをチェックする日が続いた。しかし、そんな我々の心配も杞憂に終わり、その日はやってきた。

当日、入口に設置された掲示物で改めてプログラムを確認すると、我々の完全無欠のラインナップに不純物が混入していた。

[漫才・落語]天才ピアニト/すゑひろがりず/ミルクボーイ/笑い飯/矢野・兵動/オール阪神・巨人(当日の出番順)

漫才・落語の部のトリに、オール阪神・巨人が加えられていたのだ。

これを見た時の正直な気持ちを告白すると、「なんて余計なことをしてくれるんだ」だった。我々が吟味し見つけた完全無欠のラインナップを汚されたと感じてしまった。好きで注文したスパイスカレーに、これを入れたらもっと美味しくなると、無作法にガラムマサラを振り掛けられた気分だった。

ここで断っておきたいのは、オール阪神・巨人が嫌いだとかつまらないとか言っているように見えるが、そうではない。むしろ、巨人のM-1審査員での後進への指導力やお笑い界への貢献度は、素人の私がテレビで見ているだけでも伝わってくるし、年末等のTV番組で見かける彼らの漫才は、停滞せずに常に進化している印象で、この芸歴の人では考えられないくらい頭が柔らかく向上心を持ち続けている人たちだと思っている。

そんな人たちでも、この完全無欠の漫才ラインナップのトリを努めるのは、失礼ながら荷が重いと思ってしまったのだ。現役漫才のトップランナーが大きな笑いを紡ぎ上げ、新喜劇へと続く流れを作ったのに、その流れを分断してしまうのではないかと危惧したのだ。

目の前では、素晴らしい漫才が展開されている。
出番は芸歴の順番だろうか、トップバッターの天才ピアニストが確かなネタで笑いの水準の高さを示し、すゑひろがりずが大きな声と動きで場を温め、ミルクボーイと笑い飯は現在の漫才シーンのトップとはこういうものだという凄みを見せつけ、矢野・兵動は客いじりでホール全体とコミュニュケーションをとりながら、よそ行きでない普段着のネタで大きな笑いを掻っ攫っていった。

この時点で我々は満腹だった。
デザートも終え食後のコーヒーも飲み終えた今、一体何をこの後に見せられるのだろう。ここからのオール阪神・巨人は蛇足ではなかろうか。

そんな心配も余所に、出囃子が鳴り柔和な表情を浮かべたオール阪神・巨人がゆっくりとセンターマイクの前に立った。
客席を一周見渡し、間を置いて言葉を発する。
威風堂々たる佇まいである。

結果から言うと、オール阪神・巨人の漫才はこの日の漫才部門のトリを務めるのに、相応しい圧巻のパフォーマンスを展開した。
巨人はしっかりと話題を展開しながらこの日の誰よりもボケて見せ(時にはツッコみ)、阪神は誰よりもコミカルに、そして大声を発しながらツッコミ続けた(時にはボケた)。

あと数年で芸歴50年に迫るそのキャリアに裏打ちされた卓越したしゃべくりは、本当に見事で、直前までに彼らの後輩が観客に示した漫才の要素を彼ら一組で全て体現して見せていた。まさに真骨頂である。

彼らがボケてツッコむたび、満員のホールは湧き、子供の笑い声からお年寄りの笑い声が津波のように押し寄せた。
話芸は、間違いなくホール全体の老若男女に沁み渡り、この日最大の爆笑を生み出すと、彼らは余韻に浸ることもなく、少し照れ臭そうな笑みを浮かべ小さくお礼を言うと舞台を後にした。

私たち夫婦は圧倒されたまま顔を見合わせ、「凄かったね」と言った。
続いて私は、降り注ぐ観客の拍手の中、心の中で平身低頭して謝り、自分を恥じた。

“まるで峠を越えたロートルのように扱ったどころか、出番順にまで心配をして口出すような真似をし、誠に申し訳ございませんでした”

そして、この心地良い空気を創出したのは、と考えた。少し考えて、それはきっと笑いのバトンを順番に引き継きながら盛り上がりを最後に持っていく芸人さんたち全員の団体芸、エンターテインメントを完成させようとするチームワークだと結論付けた。

この後、トイレ休憩を挟んで行われた祇園吉本新喜劇もバトンを落とすことなく引き継がれ、大変面白く大満足でした。

しっかり誕生月割引されたチケットを記念撮影

また時々昼休みにプログラムと睨めっこしながら、この日に匹敵するラインナップを見つけたいと思う。

それにしても、余計なお世話なのは百も承知だが、劇場プログラムを見ていると村上ショージが芸歴的にもトリを務めるような日が見受けられるのだが、そんな日は今回と比べ物にならないくらい心配してしまいそうである。
試しに見てみたい、怖いもの見たさがある。

次回はジャルジャルとかロングコートダディとかチュートリアルが居たらいいな。

おすすめの日があったら、是非教えてください🤭


※この記事を書いて少し経って、たまたま見たテレビ番組『やすとものいたって真剣です』にて、ギャロップ林と村上ショージの対談があって、村上ショージは劇場の漫談でその日1番の笑いをとっているという話を真面目にしていました。どうやら安心していいみたいですね。一回観てみたいものです。

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