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#3 驟雨の中のカモシネマ18

2023年8月19日。
日が西に傾き、周囲が暗くなりはじめる18時頃、『カモシネマ18』という野外映画上映のイベントが開催される鴨川デルタの北に位置する葵公園に出かけた。

そうだ!
野外映画上映会へ行こう

カモシネマとは
カモシネマとは、京都・鴨川の河川敷にて行う人と人、人と映画、人と鴨川を“つなぐ”イベントとて、今年で18年目を迎える野外映画上演会です。
鴨川という空間独特の美しさと大切さを、映画を見ることを通じて多くの人に知ってもらいたい。そして誰か、何かと何かがつながることの素晴らしさを感じてもらいたい。
カモシネマとは、そんな思いを持った学生が創る一夜限りの夏のイベントです。

カモシネマ18実行委員会作成のパンフレットより

人生で一度も野外で映画を観た経験がない私は、『ニュー・シネマ・パラダイス』のように人々が夜の野外に集まって、ひとつのスクリーンを囲む情景に、えも言われぬ憧れを持っていた。

「学生さん主催のイベントに、こんなおじさん、おばさんが行ったらダメよ」

連れ合いには、にべもなく反対されたが、半ば強引に誘い出すことに成功すると、冷蔵庫から缶チューハイとペットボトルの緑茶を小さいクーラーボックスに詰め込んだ。
道すがらグレース田中で唐揚げと出町柳のおにぎり屋さんでおにぎりを購入し、準備万端で葵公園へと乗り込んだ。

18時半に開場。
どこからともなく集まった人々は順番に、芝生の上に広げられたブルーシートに腰を下ろしていく。

上映本番前のまだ明るさが残る投影スクリーンには、この日のために撮影されたのだろうか、学生さん制作のショートムービーや、このイベントに協賛してくれた行政関連のVTRなどが流れていて、それらを眺めながら上映開始を待っていた。
20分ぐらい待っただろうか、気がつくと鴨川デルタ上空にはゆっくりと雨雲が垂れ込み、そうこうしているうちに少し遠くで雷鳴が1発轟いた。 

18時半過ぎの様子。この後突然豪雨がくる

それから実行委員会代表のスピーチが終わり、さあこれから本編の上映開始だという段になり、今度は近くに雷が落ち、それを皮切りに大粒の雨が降り始めた。

観客は散り散りにブルーシートを離れ、学生さんが用意してくれたタープや松の木の下に避難した。

暫く待っていると「雨雲レーダーでは、19時45分頃に雨が止む予定です。このまま回復を待って、そこで中止するか続行するか判断いたします」とアナウンスが入り、傘で当座を凌いでいた我々も、学生さんが急遽増やしてくれたタープに移動し、天候の回復を待つことにした。

30分ほど雨宿りをした。その間に集まった多くの人が去ってしまった。

そして、19時45分になると、雨雲レーダーの見立て通り、雨脚は小康状態になり、実行委員会は野外映画上映の続行を決断した。

上映映画は『サマータイムマシン・ブルース』。

夏の葵公園で鑑賞するにうってつけの映画だったと思う。缶チューハイ片手に大いに楽しませて頂いた。(余談だが、その変貌から最後までムロツヨシがどこに出演していたのか分からなかった。)

エンドロールが終わると、雨が降る前の3分の1程度に減ってしまったが、残ったささやかな観客数にしては盛大な拍手が鳴った。

学生さんは「こんな天候になってしまい申し訳ありません」としきりに謝っていたが、こればかりは仕方ない。

不意の大雨に、中止も続行も決断は難しかったと思う。それでも進行を余儀なくされた彼らに対する労いと感謝の拍手だった。
そこには驟雨の中、残って最後まで映画を観た同士の連帯感があった。

我々は映画の感想をそれぞれ順番に語りつつ、雨水でぬかるんだ足元をLEDランタンで照らしながら高野川を上り、家路についた。

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