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トラウマ関連疾患の回復から語る人間関係のあり方について

1.トラウマ関連疾患の本質とは?

まず,トラウマ関連疾患とは,どのようなものでしょうか?トラウマ関連疾患とは,その名の通り,トラウマが主な原因や病歴の中に含まれている疾患と定義できると思います。有名なものに複雑性PTSD(Complex-PTSD)やPTSDがありますが,その他にも,解離性障害,反応性アタッチメント症,身体表現性障害,パーソナリティー症(特に境界性パーソナリティー症:BPD)などがあります。これらの精神疾患の本質的な原因はアタッチメントにあると考えます。

2.アタッチメントとは?

アタッチメントは,愛着と訳されることが多いですが,私は誤訳だと思っています。かなり極端な言い方になりますが,アタッチメントの本質は「愛(love)」ではありません。では,アタッチメントとはどのように育まれるのでしょうか?幼児期に遡ります。幼児は,発達にしたがって,ハイハイできるようになり,探索行動をし始めます。しかし,探索行動というのは,(成人になっても)常に,危険を伴います。そこで,私たちは,探索行動が安全に実施できるよう拠点を設けます(これが安全基地ですね)。それが母親なのです。しかし,安全基地は父親でも,祖父・祖母でも,家族でなくても,信頼できる人であれば良いです。
【補足:オープンワールドゲームってありますよね。私は,やり込んでしまいがちですが,早く効率的に攻略するにはどうすればいいか分かりますか?ファストトラベルができる拠点を沢山見つけることなんです。そうすると,目的の行き先に早く着いたりすることができて,とても便利です。余談でした。】
続きを話します。幼児は母親がいること,つまり安全基地が近くにあることが認識できるからこそ,安心して,探索行動ができるのです。そして,発達していくにつれて,身体や心が発達して,もっと遠くに行けるようになります。そうすると,今度は,子どもは,母親や安全基地を自分の心に内在化させて,いつでも安全基地の存在を感じたり想像したりします。つまり,さっきのオープンワールドゲームに例えると,自分で拠点を作る能力が得られたのです!これが,心理学における内的ワーキングモデル(IWM)であり,後天的な認知機能の体系の基盤となるのです。

3.トラウマによるアタッチメントへの影響

では,トラウマ関連疾患においては,アタッチメントはどのようになっているのでしょうか?例えば,虐待的な環境における母親は,安全基地ではないですよね。本当は,子どもを迎え入れる行動を取るべきところで,無視したり,殴ったり,罵倒したりされたらどうなるでしょう?
さっきのオープンワールドゲームに例えると,自分しか(もしくは自分でさえ)拠点でなくなるのです。それは,ファストトラベルできる拠点もなく,裸足で,ヒッチハイクしなければいけない状態です。
では,内的ワーキングモデルには,どのような影響が出てくるか?自分しか頼りがいがないので,苦しいですよね。ヒッチハイクしてたら,誰かに大切な食物や道具を奪われるリスクもあるし,身体や心のスタミナはどんどん削られていきます。
つまり,養育時の不適切な環境から,子どもは身を守るために,自分の感情や認知を統制しなければ,命や尊厳に対する危機を感じなければならなくなります。そのために3F(Flight:逃走-Fight:闘争-Freeze:凍り付き)やFriend(迎合)の反応や感情の不安定化(DSO症状)や侵入・過覚醒・麻痺,解離を示します。これが,トラウマ関連疾患の発達精神病理学なのです。

4.トラウマの再演と人間関係(トラウマ的絆)

では,そういった子どもたちは,どのような人間関係の中で生きていくでしょう?彼ら/彼女らは,自分に対して,全く価値を感じることができていない時があります。ですから,自分が一般的な大衆と同じように,俗にいう愛情とやらを受け取るには,あまりに不適格だと烙印していることが多いと思います。また,そういった方は自分から何か与えなくては,奉仕しなくては,誰かから,アタッチメント関係になることや,愛情を与えられないのではないかと思い,加害的な人もしくは同じ傷つきを持った方に惹かれてしまうのです。これは広義には,不適切な養育を行った対象とのトラウマ的絆の再演と言えるでしょう。

5.健康的なアタッチメント関係の創造

ここに書くことは,トラウマ関連疾患に悩む全ての方々の半永久的な困り感や苦しさに対する宣誓のようなものかもしれません。はっきり言うと,トラウマ関連疾患とは,マイナスからのスタートです。だって,子ども本来の絶対的な価値や権利,主導権を粉々に踏みつぶされてきた方々に,「君たちは0からスタートだ!皆,まずは0~1へ主体的に頑張り給え」と言うのは,明らかにおかしいし,そんなのは加害的だ。トラウマを持つ方々に必要なのは,少なくとも,マイナスから0くらいは,誰かの力でエンパワーメントすることなのです。
だから,これは回復後期のことと思って読んでくれたらいいと思います。
結論から言った方が分かりやすいので,言いますね。健康的なアタッチメント関係の創造とは,「あなた」が唯一無二の存在であり,その存在は,どのような状況下でも絶対的な価値と権利および主導権があり,リスペクトされて良いと,信頼できる他者から認めてもらうことであり,できれば,自分にも,そう言ってあげることができる状態です。

ここでは,トラウマの発達精神病理学的観点から,展開してみました。健全な人間関係の構築の方法論については,またの機会にしたいと思います。
あくまで最後の5.の部分は私の立場ですし,トラウマ回復論における,かなり後期の答えなので,共感できなかったり,読んで苦しくなる方もいるでしょう。しかし,ここで「私が」こういう内容を発言することには何らかの意味があると思っています。


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