冒険ダイヤル 第36話 伝えられずにいたけれど
「お前は天才だ」
駿は陸に向かって拍手した。
「ほんとだ、僕って天才?」
陸はぽかんとして自分でも拍手する。
やがてつば広帽子の内側に顔を埋めて絵馬がぶつぶつと何かを言い始めた。
「王様の耳はロバの耳…」
「エマちゃん?どした?」
深海が怪訝そうに覗き込んだが絵馬は帽子で顔を隠したまま隣の陸の肩に寄りかかった。
陸はため息をついてそれを押し戻す。
「エマちゃん、駄目だよ言わないで」
「もう限界」
絵馬は帽子で顔を覆ったままくぐもった声で答える。
深海は帽子に向かって問いかけた。
「エマちゃん、何のこと?」
駿は目を細めて陸を睨んだ。
「さっきからずっと手紙を隠してるだろ」
詰め寄られた陸は渋々テーブルの上に手紙を置いて「頭文字だけ読んでみなよ」とこちら側から見やすいように向きを変えた。
駿と深海はあらためて一行一行の頭文字を指でなぞった。
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伝えられずにいたけれど
君たちのすぐ近くにいた
そっと見ているだけで良かった
今まで忘れずにいてくれてありがとう
濡らしてしまったタオルを返す
君たちの幸せを祈っている
伝言ダイヤルはおしまいにしよう
不本意だがもう会えない
大切な友達とはいえ
理由は告げられない
出来心でゲームに誘って
困らせてすまなかった
今すぐ帰ってほしい
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「つ・き・そ・い・ぬ・き・で…」
「つきそいぬきでふたりでこい」
「付き添い抜きで二人で来い、か」
つまり深海と駿だけで来いということだ。
「どうしてすぐに気が付かなかったんだろう」
深海は自分の間抜けさに呆れてしまった。
駿は怒っているのか恥ずかしいのか曖昧な顔で頬杖をついた。
「なんだか変だと思ってたんだ。お前たち最初からわかってたのに黙ってたんだな?」
「こんなに簡単なのに気付かない方が悪いんだ」
「ふーちゃんまでよく読みもしないで出てっちゃうから言いそびれただけ。あんたたち友情で目が曇ってんのよ」
「僕たち邪魔者にされて悔しいから気付くまでほっとこうかと思ってたんだ」
深海は苦笑いした。
「エマちゃんもりっくんも一緒に来てくれて感謝してるよ。邪魔だなんて思ってないよ」
こんなに協力したのに来るなと言われれば、二人が拗ねるのも無理はない。
駿は陸の皿にまだ残っていたナポリタンをよこせという身振りをし、陸が神妙に捧げ持ち、ナポリタンはテーブルを横断した。
帽子から顔を上げた絵馬はおもむろにバッグの中からルイくんのアクリルスタンドを取り出してテーブルに置いた。
それから真面目くさって手を合わせた。
「神様仏様ルイくん様。友達に隠し事をしました。お許しください。もうしません」
そこで思わず深海もルイくんに手を合わせた。
「友達を放置して川の向こうまで行きました。もうしません」
「川の向こうって、三途の川か?」
駿は阿呆らしそうにくわえたフォークをぶらぶらさせた。
「方向音痴のお前がちゃんと帰ってこられて安心したよ」
「だけどさあ、これだけじゃ二人がどこへ行けばいいかわからないよね。もう何も書いてないじゃん」
ナポリタンが最後まで食べ尽くされるのをうらめしげに見ながら陸は悔しそうに言った。
「半分しか食べてないのに…」
「半分食べたんだから充分だろ」
駿は笑った。
そして魁人とはいつもジュースを半分ずつ分け合っていたことを思い出した。
もっと思い出せることはないだろうか。
駿は記憶の奥を探っていた。
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