所謂「秘仏」の絵葉書の扱いは?

判例分解ノック 10本目 (東京高裁 昭和29年11月12日 判決)

概要 (昭和29年11月12日 東京高裁 判決)
A寺は、所蔵の所謂「秘仏」の絵葉書を、観光客等に販売していた。これを、わいせつ物として、警察官が押収した。寺Aは、当該絵葉書を、わいせつ物には該当しないとして、提訴した。

条文 刑法
(わいせつ物頒布等)
第百七十五条 わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする。

判旨
「右『秘仏』写真がわいせつ物に該当するか否かを見るに、この写真に輯録されたものの第一、二輯合計十二枚の中原審がわいせつ物たることを否定した西蔵大聖歓喜天蔵とはりがたとを除いて爾余は性器そのものを表現しているか又は性器を人に擬らえ衣装その他に宗教的な粉飾を施してあるか或は男女両性がことさら性行為中であることを暗示する姿態を取りつつ抱擁しているかであっていずれにせよ性器或は性交を表現したもののみなのであるから、人の性欲を刺激興奮せしめ、通常人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道徳概念に反するものたるところは明白であり、刑法第百七十五条のわいせつ物に該当すること言うまでもないところである」

フレーズ
「思うに、古代の社会では、人智も発達せず、性交、妊娠、出産という生命力の発生してくる由来を理解できないので、性そのものに神秘的な力を感じ、性器を崇拝するという風習を生じ、我が国各地に散在している社祠堂宇の類の中には現時な性器を模した本件の「秘仏」と類似したものを以って神体としているものがあり、地方民衆の尊崇を受けている事実を窺えないわけではない。しかし近代宗教は古代の性器崇拝から転化したものではなく、これと全然無関係なものであり、現時に於ける性器崇拝的風習の異物の如きも、その実性器を性器と知りつつ礼拝しているわけではなく、祭神の本体が何であるかを知らず、かつ又知ろうとせず、昔からのいいつたえに従って神聖なものとし畏み崇めているだけの事で、そのベールを剥ぎ実体を白日の下に曝すならば、何人と雖もこれを崇拝するの愚をやめるに至るであろう」


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