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〈連載グロ小説〉復讐ディナー 第9話「母の言葉」

復讐ディナー第9話


 美香の通う小学校では、ホームルームで担任の斎藤千晶が、重たい口を開いた。

「平崎美香ちゃんは、体調不良で2週間休んでいましたが、今日から登校することになりました」

もうすぐ、教室に入ってくる旨を伝えた。
すでに、ニュースでも取り上げられているのだが、敢えて登校を遅らせて混乱を防ぐためか子供達に刺激を与えまいとする千晶の配慮だった。
すると、ニュースを知っているのか、知らないのか、たちまち生徒同士で話しをする子が目立ちクラスがざわついた! その中で沙耶香と明美は机の上で祈るように手を組み心配そうにうつむいていた。
 すると、ドアが開き教室に入ってきた美香が黒板の前で立ち止まると誰とも目を合わせずに担任に促され、ゆっくりと席へ向かった
。沙耶香が心配そうに、美香の横顔を見つめていた時、視線に気付き目が合った。
向けられた虚ろな目が全てを物語っていた。 
クラスの視線が一斉に美香に向けられる。
クラスのみんなが、どう思おうと2人はつらい精神状態にもかかわらず学校に来てくれた。それだけで安堵した。恐らくそれ以外の子達は《何で、来たんだろう?》などと、不審に思ってるに違いないそう感じた。

 翌日から、クラスのみんなの視線が冷たく感じた! 明らかに避けられているのだ!
それでも、沙耶香と明美は今まで通り接してくれた。その気持ちが心の支えになっていた。その日の帰りも3人で夕方まで公園で話をしていた……

 「ただいま〜」美香が土間に足をかけた。
この家に来て2週間が過ぎた頃、夕食を終え自室のベッドに寝転び天井を眺めながら思いふけった。
あれから2週間が経ち、ようやく学校にも行けるようになったが、今でも目に焼き付いているあの日の光景はまさに地獄そのものだった。そして、お母さんの言葉が脳裏によぎった。

「男は全て悪よ」

(吉江おばさんやおじさんは私の事を、どう思っているんだろう?)
(実の息子を殺された今も、はらわたが煮えくり返る思いだろうか?)この先の生涯で心が晴れる日はないだろう!

(その息子の部屋に私が……)
(犯人の娘の私が……孫という心境は……)(嫌なら施設にでも……いれ……)

悪い癖が出てしまった。変に考えるのはやめよう。喉が渇いて1階に降りた。
リビングの扉を開けようとした時、すすり泣く声が聞こえた。
〈和室で泣いてた、あの時の自分がいた〉

(悲しいに決まっている、私には分からないように振る舞ってくれているのだ)ドアノブを離して、踵を返して部屋に籠もった。
その日は寝るまで、頭の中で母の言葉がぐるぐると鳥のさえずりのように反芻していた。

 夜中にふと、トイレに行きたくなった哲司が、奥の部屋からトイレに向かう途中、美香の部屋のドアが開いているのに気付いた!
目の端で暗闇の中に人の気配を感じた。
そのシルエットに目を移すと、すでにこちらに顔を向け、鳥が嘴で突っつくような仕草を見せた。
怖くなった哲司が慌ててトイレに入った。
しばらくして、恐る恐るトイレから出ると影は消えていた!
恐怖で眠ることが出来ず頭から布団をかぶり朝まで凌ごうとしていた時……ドアの開く音がした。哲司の心臓が大きく跳ねた!
 床の軋む音で、ベッドの周りをうろついている事がわかった! キュッキュッと雛鳥の鳴き声に似た声を発していたが、やがて……鳴き声が止まった。
哲司が布団から、頭を出して辺りを見ようとした刹那! いきなりベッドの下から美香の顔が現れた。

 翌朝、吉江に夜の出来事を話すと「あなたが寝ぼけていたんじゃないですか?」
軽くあしらわれ、話さなければよかったと後悔した。
リビングのドアが開き、反射的に振り向いた!そこに美香が入ってきた。

「あら、もう起きてきたの?」吉江が気さくに話しかけた、哲司はしばらく美香の顔を見つめていた。
「あなた、どうしたの?」美香の顔を見ている夫に問いかけた。
「いや、何でもない!」哲司は顔を背けた。
「ふぅ〜ん、変な人」そう云いながら、
「あっ、そうそうお隣さんの柴田さんから、お土産を頂いたのよ」吉江が思い出したかのように右手をポンと叩いた。
「柴田さん京都まで旅行に行ってきたらしいのよ。京都の緑茶でも、淹れましょうか?」
哲司は額に汗をかきながら「よろしく頼む」
そう呟いた。
吉江は嬉しそうにキッチンの奥へと消えていった。哲司は、美香の様子が著しくオカシイと振り返った。

(なぜ……あんな時間に起きていた?)
(やはり、吉江が云うように寝ぼけていただけなのか?)
(私の部屋に入ってきて……鳥みたいな鳴き声は一体? ふざけているようには、見えなかった)

 朝食を摂っている、美香を見つめていた。
出された緑茶に口をつけこちらを見てきた!

「ちょっと、友達と遊んできます」

その声に哲司の肩が上がる! 
「あぁ、今日は日曜だったな」
「気をつけて行ってくるんだよ」上擦った声で答えた。吉江が美香に封筒を渡した。

「はい、これ」使いなさい。
「ありがとうございます」お礼を言い玄関へ向かった。

 もし、友達が何かを買って食べる時に、隣で何も買えず、ひもじい思いだけは絶対にさせたくなかった。
封筒には3千円が入っていた。

 








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