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【連載小説】真・黒い慟哭第2話「2人の刑事」

その夜……
「中学生で早くない?」その行為に不安げな言葉が漏れた。
「今では、小学生でもやってるよ」
「輝くんなら大丈夫、私はへっちゃらよ」
強がって言うと輝樹の下腹部に顔を近づけた。
「誤解しないでね。こんなことするのは輝くんにだけよ」火照った体に頬を赤らしめトロットロッの甘い声を出した。それがすごく色っぽく感じた。
 薄闇の中、2人は互いの体をむさぼるようにしてなで回し、いじくり回した輝樹の指先は愛液で潤っていた。
ようやく彼を受け入れる準備が整うと玲香が両手を広げたのが合図だった。そのまま体を抱擁した。漏れる吐息、唾液が糸を引いて絡め合う舌。呼吸が乱れ腰が自信にあふれ器用な動きを見せた。その動きに玲香は敏感に反応すると2人のボルテージは最高潮を迎え玲香の脚が輝樹の腰に絡まり強く押してくる。
 絶頂はまもなくだったが、早めに外に抜こうとすると玲香の脚が絡まりなかなか抜けずにいると腰が動くにつれて気持ち良さが倍加した。乳房に顔を埋めると玲香が頭を抱いた。たまらず昇天してしまいそれでもまだ、グッと押し付けてくる玲香の脚がピクリと痙攣した。「寂しくなるからまだ抜かないで!」その言葉に僕は脈打ちしばらくそのまま膣内にとどめて汗ばんだ体を抱きしめた。
「輝くんだからいいの」その言葉に安堵した。そのあと2人は何度も身体を重ねた。若さゆえに後先を考えないその行為は中学生にはよくあることだった。
 
 玲香のおはようのキスで目が覚めると朝だとわかった。玲香は体を隠すようにして布団を覆った。
「出発までまだ時間があるから……」といって脚を絡めてきた。自身が起き上がる前に下半身が屹立したのは若さゆえだろうか、昨夜のハッスルで体力をかなり消耗したが、まだ残っている残液を絞り出そうと起き上がったとき、ノックする音に反応すると乱れた浴衣を羽織りドアに近づいた。開けると友紀がお尻に手を当てげっそりした様子で朝早くからすまんと言いながら手招きした。
 自身の股間を見て、これをどうしてくれるとも言えずに友紀について行った。ロビーに腰掛けると友紀が神妙な面持ちで口を開いた。
昨夜、あのおっさんと相部屋で過ごしたときだった。おっさんは早くに寝てしまったが、俺はなかなか寝付けずスマホをいじっていたとき、モゾモゾと脚に違和感を感じたんだ。見るとおっさんが俺の脚を舐めていたんだ。怖くて抵抗できずにいると、されるがまま最後には尻を犯されたのだという。リアル過ぎて細かい内容は割愛した話だった。隣の喘ぎ声におっさんが興奮したことは口が裂けても言えなかった。
「なぁ、俺達だけでここから出よう! これ以上ここにいたら、危ない気がするんだ!」
 涙目になりながら真剣に訴えてくる友紀の表情に冗談の色はなかったので、友紀を信じて2人で逃げることにした。
そこに玲香がロビーまでやってきたのでヤバいと思い喋りかける事にした。
「ごめん、友紀と話をしていた」別段気にしている様子はなかった。
「輝くん、ロビー集合は10時だから、忘れないでね。私は露天風呂にいってきまーす」そう言ってそそくさと行ってしまった。他の連中の姿は見えない。今がチャンスだ! 2人は急いで部屋に戻り帰り支度をした。

 久しぶりに全力疾走をした。息が上がった。その距離わずか200メートル。
2人はタクシーを拾うと最寄りの駅までお願いした。
「お2人さんは、ゲテモノツアーの参加者?」運転手が聞いてきたので、急な用事が出来たと母が亡くなったと嘘をついて死んだことにした。バックミラー越しに鋭い眼光で睨まれた。
「一応、忠告しておくけど、もし逃げようって魂胆だったら、止めたほうがいいよ」その言葉に友紀がもし、そうだったらどうなるんですか? と聞いてみたら運転手が鼻で笑っただけだった。
 ロータリーをぐるりと周り駅に着いた。タクシーを降りた2人は足早に改札口に吸い込まれるようにして、姿を消した。

「あー、気持ちよかった。朝風呂はやっぱり最高だね♪」上機嫌で部屋の襖を開けると玲香が部屋の違和感に気づき、ゆっくりスマホを耳に押し当てた。
数秒後……舌打ちした玲香が輝樹にラインを送った。その顔に笑みはなかった。

 電車に乗った2人は時間が気になり輝樹がスマホを見た瞬間、凍りついた。
友紀が「どうしたんだよ、固まって今、何時が教えてくれよ!」輝樹がスマホの画面を見せてきた。友紀の顔に驚愕の色が浮かんだ。
【殺してやる!】玲香からのラインだった。既読がついたことで向こうも動き始めるだろう。時間の事も忘れて目的の駅まで沈黙が続いた。
ロビーに集合した、おばさん達一行は出発前にコーヒーを飲んでいた。浩二さんもコーヒーを啜ると傾いた黒い液体からゴキブリの顔が覗いた。そのまま固形物を呑み込むと満足そうにゲップをした。
玲香はおばさんに2人が消えた事を言った時、おばさんの表情が変わった。
受付に向かうと女将がスマホでなにやら話している。
女将の招集で集まった2人の仲居さんがロビーに整列すると女将の号令で仲居さんが血相を変えて辺りを捜索していた。
 
 どれだけ、電車に揺られていただろうか? 友紀を見ると眠っていた。きっと睡眠不足なのだろう? このことは夏休み明けの登校までに何とかしなくてはという焦燥感に駆られていた

【続いて今入ってきたニュースです。昨夜未明に駅の近くの側溝から切断された体のパーツの一部が発見されました。その先の側溝でもパーツが落ちており頭部以外のパーツが10箇所から発見されパーツの断面は数回に分けて切断されておりノコギリか斧のようなもので切断された模様です。なんとも凄惨なこの事件。現在、警察は頭部の行方を追っています】

 あれから数日が過ぎたある朝、なんとなくニュースを観ていると「輝樹! 早くラジオ体操行ってきなさいよ!」母の苛立った言葉が飛んできた。「へいへい」と立ち上がり下駄箱に向かった。朝のラジオ体操は最近めっきり減ってきたが僕らの地域はまだ行っている。正直、早く無くならないかと内心思っている。「いってきまーす」玄関を出て庭を横切る際、目の端で異様な物体を捉えた。丸い物体だった。覗き込むようにして見ると、それと目が合った刹那! 悲鳴がつんざいた。
町川友紀の頭部が家の庭に投げ込まれていた。その頭部は恐怖と痛みで目が見開かれており唇は震えていたのだろうか歪んでいた。額には付箋が貼られていた。何か書いてある。『次はお前だ!』辺りを窺ったが誰もいなかった。冷や汗が止まらず絶望と恐怖で手足が震えていた。最悪な夏休みが始まった。

 サイレンが鳴り響き2人の刑事が家にやってきた。1人はオールバックがよく似合う強面の中年の男性で、もう1人は年齢はそこそこいって若くはないだろうと思われる、女性の刑事さんだった。その女性刑事さんの印象は口元のホクロがセクシーだなぁと思った事だった。
 その刑事さんが辺りを見渡して「少しいいですか?」と小声で話した。
周りを気にしているのだろう。そう考えお母さんが中へどうぞと部屋に促した。玄関から刑事2人が入り、リビングに通すとお母さんが「主人は仕事で不在しております」と断ると足早にキッチンへ向かった。「刑事さんもおかけになって下さい」お母さんの声が震えていた。突然の訪問者に動揺しているのだろう。無理もなかった。ダイニングテーブルに腰掛けた女性刑事が「お母様、お気になさらず、私達は話をしたらすぐに出ていきますから」そういって輝樹に質問をした。頭部を見つけたのは何時ぐらいですか?
「ラジオ体操に出かけるために、7時半くらいだったかと思います」即座に返答すると、オールバックの刑事がこの人物に心当たりは? 「あの……親友の町川友紀です。同じクラスの」その町川くんの体のパーツが側溝から10箇所あったのだが、パーツを拾い集めていたら君の家に辿り着いたって話だが、犯人はまるで体のパーツを道しるべにして最後の頭部を君の家に投げ込んだ。おそらく犯人は車で移動しながら、窓から側溝に10回に分けて投げ込んだのだろう。
【右手首、右腕、右脚、左手首、左腕、左脚、胴体四等分】なぜか両手だけが2つに分けられて切断されていたのだが、右脚は側溝からはみ出した状態で捨てられていた。その100メートル先では左脚が見つかった。
それを発見したのが酔っ払いの男性2人組からの通報がきっかけだった。最初は我々は酔っ払いの戯言だと思っていたのだが、『側溝から人の足首のようなものが見える』通報した男性の一報で警察は異常を察知して素早く動いた。
 そして、我々は肝心の頭部を探していた時にあなたからの通報を受けたわけですが、コーヒーをテーブルに置いた母が「あんた! まさか人様に恨みでも買うようなことしたんじゃないでしょうね!」輝樹の母美智子みちこが不安げに語尾を尖らせた。
「かあさん! 僕は何もしてないよ!」必死に言い返すと間に入った女性刑事「お母様、落ち着いてください! まだ分かりません!」まだ犯人が近くに潜伏している可能性がありますので、決して外に出ないで下さい。もし何かありましたら連絡下さい! 名刺を差し出した。名刺に目を落とすと高井紗絵たかいさえと書かれていた。
オールバックの男がコーヒーを呑み終わり名刺を出す牧瀬剛まきせつよしと書かれていた。どちらでもかけやすい方に連絡くれたら大丈夫ですと紗絵がコーヒーに口をつけると牧瀬が最近不審な人物を見かけた事はないですか? 鋭い眼光が二人をロックした。嘘をついてもすぐにバレるぞというオーラが漂ってくる。
「そでは、我々は近隣への聞き込みや防犯カメラの特定をしますので、ご協力ありがとうございました」オールバックの男が立ち上がった。
「コーヒーごちそうさまでした」紗絵がそういって玄関へ向かった。
玄関先で牧瀬が「決して事件に首を突っ込まないで下さい。こから先は我々に任せてもらいたい。それでは、失礼します」
牧瀬さんの印象は堅物のイメージが強かったが、反対に高井さんの方はやわらかい印象だった。僕は何でも初対面の人と合うとまず、第一印象を考えてしまう癖があった。
リビングに戻るとしばらく沈黙が続いたが、最初に沈黙を破ったのは僕の方だった。「お母さん……ごめん」カップが割れた音がした。「輝樹! あなた本当に何もしてないのよね! あとからなにかあったら許さないからね!」こちらの不安まで煽るほどの気迫だった。
 そう、あれはたしか小学3年の頃だった……母と2人で買い物に出かけた時だった。僕はお菓子が欲しくていの一番にお菓子コーナーに向かいお目当てのシールが入ったチョコレートを持ってカートを押す母の後ろ姿を追った。
「ママ、これ買って」母に差し出すと「てるちゃんごめんね、今月は買ってあげられないの」悲しそうな顔をした母にそれ以上ねだるわけにもいかなくて渋々返しに行こうと思いながらも、どうしてもそれが欲しくて僕はポケットに入れた。
 ポケットに入れる瞬間を店員さんに見られていたらしく店を出た時に捕まった。
母は頭を下げて謝っていた。「子供のすることですから、今回は見逃しますが、次は気をつけて下さい!」店員さんが店に戻る後ろ姿を見つめていた僕の肩を強く揺すり母が泣きながら、ごめんね、ごめんねと怒らずに謝るお母さんが最後に「次は許さないからね」と言葉に力を入れた。
 僕がグレずに真面目に居られるのはひょっとしたら母のそういう所だったのかと思うと胸が痛くなった。
『次は許さないからね』その言葉が胸に刺さって以来、万引きはしていないが、今回はとんでもない事件に巻き込まれてしまったのだが、この引き金がゲテモノツアーを途中で帰ったことであることは薄々は気づいていたが、母には黙っていた。まさかこれがきっかけで母との絆が切れることになるとはこの時は知る由もなかった。
 

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