ブチャ虐殺発覚直後のゼレンスキー氏の対ロ交渉についての発言・元安倍内閣首相補佐官兼秘書官今井氏のインタビュー

毎回のことで恐縮ですが、「今こそ停戦」へのご賛同と署名重ねてお願い申し上げます。下記のサイトから可能です。
キャンペーン · #今こそ停戦を  賛同署名をお願いします · Change.org
 イギリスからウクライナへ劣化ウラン弾供与がなされようとしていますが、それに対する抗議声明もだされています。
【賛同表明】イギリス政府のウクライナへの劣化ウラン弾の供与に反対する声明 | ヒューマンライツ・ナウ (hrn.or.jp)(4/12)
なお劣化ウラン弾供与反対の署名も集められています。そちらもご協力願います。私の知る限り決まったサイトはないようなので、お手数ですが「劣化ウラン弾供与反対署名」で検索してご協力のほどお願いいたします。

1、ブチャ虐殺発覚直後のゼレンスキー氏の対ロ交渉についての発言
 ロシア・ウクライナ戦争は昨年三月末合意一歩手前までいった、といわれています。なぜ合意に至らなかったか?それについてはロシア軍によるブチャ虐殺要因説とジョンソン元イギリス首相などによる米英妨害説が主張されています。その検討としてまずブチャ虐殺発覚直後のゼレンスキー氏の発言をみてみたいと思います。
 なお最初にお断りしておきますが、私は「ブチャ虐殺自体は存在した」と認識する立場です。ロシア政府だけでなくそれ以外から「ブチャ虐殺フェイク説」が流布されていることも承知しています。しかしフェイク説と虐殺があったとする主張を比べた場合、信頼性から「虐殺はなされた」とみるべきと思います。ですから「ブチャ虐殺フェイク説」には全く組しない、「ブチャ虐殺自体は確かに存在した」という立場からの展開である点は重ねて強調しておきます。そしてこの件に関するロシア政権・ロシア軍の責任は極めて重いし強く非難されるべき、その責任についてはしっかり追及されるべき、という立場です。
 ただ一歩手前までいった和平合意が壊れた要因としてブチャの虐殺をあげていいのか、それについては検討が必要と思います。
 ブチャ虐殺発覚直後に報道されたゼレンスキー氏の対ロ交渉についての発言です。
1、ロシアとの和平交渉、「残虐行為」でより困難=ウクライナ大統領 | Reuters/ (22年4/4)
「「ロシア軍がここで行ったことを見ると、対話を行うのは極めて難しい。ロシアが対話プロセスを引き延ばせば引き延ばすほど、ロシア、およびこの戦争の状況は悪化する」と述べた。」(上記記事より直接引用)
2、ゼレンスキー氏、ブチャ訪れ怒りあらわに 和平協議は継続する考え - BBCニュース(22年4/5)
「なおもロシアと和平協議を続けることが可能かとBBC記者が質問すると、「可能だ。ウクライナには和平が必要だからだ。私たちは21世紀のヨーロッパにいる。外交および軍事による努力を続ける」と答えた。」(上記記事より直接引用)
3、露外相、ブチャ虐殺は「捏造」「交渉破綻の狙い」と一方的に主張 - 産経ニュース (sankei.com)(22年4/6)
「ウクライナのゼレンスキー大統領は5日、「戦争終結には(露側と)交渉を続けるしかない」と述べている。」(上記記事より直接引用)
 4/4ロイター配信の記事では、「(ロシアと)対話を行うのは極めて難しい」と述べている、とされていますが、BBCの記事によれば記者に「ロシアと和平協議を続けることは可能」と語り、4/6配信の産経新聞記事では、5日に「戦争終結にはロシア側と和平協議を続けるしかない」とのべている、とされています。
 これらからみると、ブチャ虐殺発覚直後5日まではゼレンスキー氏は「ロシアとの和平協議継続は否定していなかった」といわざるをえないと思います。なお22年4/4にはオンライン形式での協議がなされる予定であったが開催されなかった、しかし5日の時点でも産経新聞によれば「ロシアとの和平協議継続」と述べています。ゼレンスキー氏fは、ブチャの虐殺発覚直後は「ブチャでの虐殺に強い怒りをもちながらも戦争終結のためには和平協議を継続せざるをえない」と考えていたと思われます。ゼレンスキー・ジョンソン会談がなされたのは4/9、わたしの検索能力からはそれまでにゼレンスキー氏が「交渉はできない」と明言した証拠はみつけられませんでした。もちろんここからだけで、「だからジョンソン氏がそそのかして合意寸前の和平協議がこわれた」とはいえません。ここまででいえるのは「ブチャ虐殺発覚直後でもゼレンスキー氏は戦争終結のため対ロ和平協議継続のスタンスであり、それを明確に否定する発言はしなかった」ということです。
 この件については近日中に以後の検討をしたいと思います。

2、元安倍内閣補佐官兼秘書官の今井氏のインタビューについて
 前回の記事で紹介した元安倍内閣補佐官兼秘書官の今井氏のインタビューです。途中までで、安倍氏称賛の部分はともかく、停戦を訴える部分は全く同意見といっていいほどです。安倍元内閣を支えた方とロシア・ウクライナ戦争、特にその停戦論について意見が一致するのは不思議でもありますが、一致し評価すべき点は受け入れるべき、と考えます。

ウクライナ侵攻1年:インタビュー完全版「岸田政権は停戦仲介に動け、資源国と水素外交にシフトせよ」今井尚哉・元安倍内閣首相補佐官 | 週刊エコノミスト Online (mainichi.jp)
インタビューからの今井氏の発言の抜粋です。
1、「外交において最も大事なことは、国と国との信頼関係を作ることだ。「軍隊同士が暴走したらどういう形で俺たちは止めるのか」が政治家の役割だ。「お前がそう来るなら、こっちもこう行くぞ」というのは外交じゃない。もちろんどっちが悪い、というのはある。今回はどう考えてもプーチン露大統領が悪い。「領土を侵すものは許してはいけない」というウクライナのゼレンスキー大統領に理がある。だが、国連の常任理事国の一角が戦争を起こした時のマネジメントについては国際社会は解を持っていない。国際社会が永遠にロシアの侵攻を認めない中で、どういう風に落ち着かせていくのか、ということしかない。だから、まずは停戦だ。どうして岸田政権は停戦に向け仲介に動かないのか、僕は怒りすら感じている。これが一番だ。」(上記インタビュー今井氏発言より直接引用)

 侵略したロシア政権が悪い、ことははっきり指摘しつつ、政治家の役割は「軍隊が衝突したときどう止めるか」だ、は当然のことと思います。この当然のことがなぜなされないのか、それを現在主張するとなぜすごい批判がよせられるか、大変疑問です。

「前年(2013年・・・筆者注)のG8サミットでは、シリア内戦問題がテーマだった。シリアのアサド政権を倒すよう動くというのがG7のおおむね一致した見解だったが、ロシアのプーチン氏だけが「アサドを倒して、テロリストに政権を譲ってどうするんだ。現実的に考えよう」と呼びかけた。政権を倒したところでシリアは混乱するだけで解決にならない。それは世界の歴史が教えるところで、アサドに停戦を呼びかける方にシフトすべきだとが主張した。そして安倍氏はプーチン氏と同じ考えだった。そこから安倍氏とプーチン氏の関係は始まる。当時のオバマ米大統領は、「アサド政権は化学兵器を使った。日本が武力支援ができないのは分かるが、反政府軍へ、日本も何らかの支援を考えて欲しい」と迫る。だが、安倍氏は「じゃあ、アサドが化学兵器を使っている証拠を見せてくれ」とはっきり言い返した。米国は結局、見せられなかった。」(今井氏発言より直接引用)

 このロシアを含めた最後のG8となったシリア問題のやりとりは、実はかなり目をひいた箇所です。ロシアを除くG7はアサド政権打倒でほぼ一致していた、とのことですが、これはいかに何でも主権侵害です。現在ウクライナ侵略を行っているロシアだけが反対した、ということですが、ウクライナ問題からみるか、シリア問題からみるか、で、米欧とロシアの構図が逆になってしまいます。
青山弘之先生(東京外大教授)の論考です。
シリアにおける米国の軍事介入と部隊駐留の変遷(2011~2021年) – Contemporary Middle East Political Studies in Japan.net (CMEPS-J.net)(22年9月)
 アメリカは15年10月より今日までシリア政府国連安保理の承認なしに違法駐留を続けているわけで、それはシリア政府がいかに問題があろうと、シリアの主権侵害・国際法違反なのですが、状況によっては日本もこの支援を強いられたおそれがあったわけです。なお「アサド政権が科学兵器を使った」は今日かなり流布されていますし、実は私もそのように認識していましたが、13年のG8の時点ではアメリカはその明白な証拠はもっていなかったということになります。何回も書いていますが、なぜ「シリアから米軍は撤兵せよ」という声はあがらないのか、ロシア・ウクライナ戦争と比較してやはり疑問に思います。どの国によるどの国に対する主権侵害・国際法違反にも同様に対処する、それは次の主権侵害・国際法違反を防ぐためにも必要と思います。

「日本は、僕ら自身があの大戦の記憶をどんどん失っている。非常に怖いことだ。私も戦争については父親から聞いているだけだが、世の中が好戦的になっている気がする。」(今井氏発言より直接引用)

 私も「世の中が好戦的になっている気がする」です。「ウクライナは侵略された国だからそこへの軍事支援は当然(では侵略されている他の国にはなぜその主張がなされないのか?)・停戦の呼びかけはロシアを利する」、といった考え方は2年ほど前までは想像もできなかったことです。
  安倍元内閣を支えた方からのこうした発言には複雑な思いがあります。ただそうした方でも現在このように発言せざるをえなくなっている、も重い現実ではないでしょうか。

白井邦彦
青山学院大学教授




 

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