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政治月録by井芹浩文

2024年3月 「政治とカネ」問題解明進まず
―岸田政権の低空飛行続く―


「政治資金の問題をめぐって国民に大きな政治不信を引き起こしている。心からおわびを申し上げる。党本部も命懸けで党再生に努力していきたい」―岸田文雄首相は3月16日、自民党全国幹事長会議で謝罪した。裏金問題で衆院と参院の各政治倫理審査会が開かれたが、問題解明は進まなかった。岸田内閣の支持率は低迷し、政権の低空飛行が続いた。




▽自民党則など改正で「旧来の派閥」禁止
2024年度予算案が3月2日に衆院を通過したのを受けて国会審議の舞台は参院に移り、野党による「政治とカネ」の問題の追及が続いた。自民党の茂木敏充幹事長が使途公開基準の厳しい政治資金管理団体「茂木敏充政策研究会」から使途公開基準の緩い「茂木敏充後援会総連合会」に過去10年間で3億2000万円を移動させていた問題が浮上し、立憲民主党の蓮舫氏は4日の参院予算委員会で、「法律の抜け穴を使い裏金をつくっている」と追及した。これに対し、岸田首相は「現行法の範囲で対応が行われていると思う」と茂木氏を擁護したものの「指摘があれば本人が丁寧に説明することが重要だ」と答えた。
衆院政治倫理審査会は2月29日と3月1日に開催されたが、ほとんど解明が進まなかったため、野党は安倍派事務総長経験者の下村博文氏の政倫審出席を求めた。下村氏は3日、自民党の森山裕総務会長に対し「政倫審が再び開かれるならば、党と相談して説明を果たす準備をしている」と伝え、翌4日には記者団に対して「私自身も機会があれば説明したい。党に判断を任せる」と表明した。しかし判断をゆだねられた党側の森山総務会長は5日、「ご本人の判断だ。党として出席を要請することは政倫審の規定上なじまない」と突き放した。
自民党は7日の政治刷新本部会合で党則、規律規約およびガバナンス・コード(統治指針)の改正案を大筋了承した。政治資金規正法違反事件が起きた場合の議員本人に対する処分を明文化したのが目玉だ。規律規約改正案のなかでは、①政治団体の会計責任者が逮捕または起訴された場合、議員本人への離党勧告や党員資格停止の処分にする、②会計責任者の有罪が確定すれば議員本人を最も重い処分である除名や離党勧告の処分を行う―とした。
またガバナンス・コードの改正案では、「資金力と人事への影響力を背景に、数の力によって影響力を増そうとする組織」を「旧来の派閥」と定義し、こうした組織は「存続及び設立を禁止する」と明記した。この定義に当てはまらない「政策集団」は容認するとした。派閥の政治資金パーティーは禁止し、収支報告書については外部監査を導入することを盛り込んだ。
▽自民党地方組織が処分によるけじめ要求
参院政治倫理審査会は8日、自民党派閥の裏金作りに関与した参院議員32人全員の審査を全会一致で決めた。同政倫審は14日に開かれ、出席に同意した安倍派の世耕弘成前参院自民党幹事長と橋本聖子、西田昌司両氏が出席した。世耕氏は「派閥で不記載が行われていることを一切知らなかった」と述べ、裏金作りへの関与を全面的に否認した。安倍派会長だった安倍晋三元首相の還流中止の意向にも関わらず、還流が継続された経緯について、世耕氏は自らの関与を否定したうえで「誰が決めたか私も知りたい」と答弁した。これを聞いた同じ安倍派の西田氏でさえ、同じ政倫審で「事務局や派閥の幹部が知らないということは納得できない」と語った。
自民党は16日、全国幹事長会議を開き、岸田首相が謝罪したのに対し、地方組織側からは「地方が持つ危機感を党の執行部も共有してほしい」「処分も含め早くけじめをつけてほしい」と厳しい注文をつけた。岸田首相は翌17日の党大会で、茂木幹事長に処分問題の結論を出すよう指示したことを明らかにし、処分の程度が次の焦点なってきた。この党大会では党則改正案などが正式に決定された。
衆院政治倫理審査会は18日、安倍派の下村氏に対する審査を行った。下村氏は政治資金パーティー資金の還流に関する2022年8月5日の幹部会合について「還付(還流)をやめる前提で議論したが、結論は出なかった」とし、その後も還流が継続された経緯については「どんな形で誰がどう決めたのか、全く承知していない」と関与を全面否認した。
自民党二階派(志帥会)の二階俊博元幹事長は25日、記者会見し、次期衆院選に立候補しない意向を表明した。二階氏の不記載額も5年間で3526万円と立件されなかった議員では最高額となっており、自民党執行部は処分の程度に苦慮していたが、自主的な不出馬表明により二階氏に対する処分は見送りの方向となった。
▽日銀が17年ぶり利上げ、金融政策を転換
2024年春闘は13日、集中回答日を迎え、トヨタ自動車や日立製作所、JFEスチール、神戸製鋼などは労働組合側の賃上げ要求に対し満額回答を行った。日本製鉄は要求額を上回る回答額だった。連合が15日、公表した春闘の集計結果によると、賃上げ率は加重平均で5.28%となった。5%超えは1991年以来33年ぶりだ。
日銀は19日の金融政策決定会合で、マイナス金利を解除して17年ぶりの利上げに踏み切った。2013年4月に始まった「異次元の金融緩和」が終了し、金融政策は大きく転換した。長期金利を低く抑え込むためのイールド・カーブ・コントロール(長短金利操作)の枠組みも廃止し、ETF(上場投資信託)やJリート(上場不動産投資信託)の買い入れもやめる。政策転換の理由について、植田和男総裁は、「物価目標2%の実現が見通せる状況に至った」と説明した。大幅な賃上げにより物価と賃金がそろって上昇する好循環に入ったと判断した。
2023年11月18日、和歌山市で開かれた自民党若手議員らの懇親会で、下着のような衣装でダンスショーが行われたことが8日に報道され、自民党本部は同日、懇親会に参加した藤原崇青年局長と中曽根康隆青年局長代理からの辞任届を受理した。主催した自民党和歌山県連青年局長だった川畑哲哉県議(離党)は「多様性やインパクトなどを勘案して和歌山にゆかりのダンサーを招いた」と釈明したが、岸田首相は13日の参院予算委員会で「私の内閣が目指す多様性とは全く合致しない」と述べた。
共同通信が9、10両日に実施した世論調査では、岸田内閣支持率は前回2月の調査から4.4ポイント減って20.1%となり、過去最低を更新した。朝日新聞の16、17両日の世論調査では、岸田内閣支持率は22%で前回2月調査の21%に次ぐ低さで、不支持率が67%と過去最高を記録した。岸田政権の低空飛行が続く厳しい状況のままだ。
自民党と公明党は15日、日本と英国、イタリア3か国で共同開発する次期戦闘機について第三国への輸出を容認することで合意した。ただし実際に輸出する際には個別案件ごとに閣議決定することや現に戦闘を行っている国には輸出しないなどの歯止め策でも一致した。政府は26日、この次期戦闘機の輸出解禁方針を閣議決定した。
(井芹 浩文=共同通信元論説委員長)
<ミニ解説>2024年3月も岸田政権は裏金問題の重圧から逃れられなかった。明るい話題は春闘で高い賃上げ回答が相次いだことだが、自民党青年部の不祥事により政府与党の支持は低迷した。

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