「食堂み」の女たち


その女がやって来たのは、長野オリンピックも終わった、梅の花が咲く穏やかな日だった。

「二階に空いてる部屋あるって聞いたんやけど」
「食堂み」の入口引き戸を開け、挨拶もしないでいきなり本題!
失礼な女や、と光恵は思った。

「部屋はあるけど、あんたには貸さへんで!」
「空いてへんの?」
「空いてるよ。けどあんたには貸さん」
「なんで?」
「あたしの勝手や!」

「食堂み」の二階には貸し部屋が四つある。今風の言い方をするとシェアハウス?…でもそんな洒落たもんじゃない。

一階の食堂は、テーブル席二つと、五人しか座れないカウンター席。そんなごくごく小さな食堂を商っているのは、山岡光恵だ。
家庭料理が売りで、お品書きにないものでも頼まれれば何でも作る。ただし、ビーフストロガノフだの、ローストなんとかだの横文字を言う客は端っからお断りだ。

なぜ店の名が「食堂み」なのか…表に掲げた看板の文字、「つ」と「え」が消えたのだ。残ったのがひらがなの「み」
みんなが面白がって「今日は、みに行くで!」と言うものだから、「食堂み」にすることにした。

続きは明日

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