「食堂み」の女たち23

浅井則子、本名、二宮祥子が帽子とマスクを付けてやって来たのは、まだ誰も二階の部屋を使っていなかった去年の十二月…今日みたいに雪の降る寒い夜だった。
「すみません、部屋空いてますか?」浅井則子と名乗る女が立っていた。こいつなんかワケありやな…光恵は即座に見抜いた。「あんた何かから逃げてきてるやろ。借金取りか、ヤクザか、それとも警察か」問うなり、急いで出て行こうとする女の腕を強く掴んで引き寄せた。振り返った女と目が合う。今にも死んでしまいそうな目。(こいつ、うちと同じ目をしとる)光恵の過去の記憶が蘇る。それは忘れようと思っても決して忘れなれない過去。


続く

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