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祝!カンヌライオンズ シルバー&ブロンズ受賞の裏側

SSFF & ASIA 2016 BRANDED SHORTS プログラムで上映した株式会社インディペンデントインキュベータ制作作品『Firefly Man』。2016年3月に行われたアジア最大の広告祭アドフェスト(正式名称:アジア太平洋広告祭)でグランプリを獲った本作品ですが、先日行われたカンヌライオンズ(正式名称:カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル)のフィルム部門シルバー、フィルムクラフト部門ブロンズを受賞しました。クリエイティブデイレクター(以下、「CD」)を務められた中島和哉さんにインタビューをしてきました。

今回の制作のきっかけを教えてください。

元々知り合い経由で話がきたのですが、インディペンデントインキュベータさん自体がB to B(オフィスにLED照明をセールスする)企業なので、取り扱うLED照明の営業用のツールとしての動画制作の依頼でした。いわゆるブランデッドムービーではなく、商談の場でクライアントさんにタブレットで見せるような、LED照明のカタログのようなイメージの動画です。
 
そういった依頼だったのですが、タブレットの中だけで、商談のようなFace to Faceでの状況だけで見られる動画ではなく、世の中で話題になって、少しでも認知が上がった動画の方がよいのでは?そういった付加価値によって、結果的に商談がよりスムーズに進むだろうと逆提案のような形でアイデアを持って行きました。
完成後ただYouTubeにあげただけでは誰の目にも触れない。ウェブメディアでの露出もそれなりにお金がかかるという現実もあり、お金をかけずに人の目に触れるにはどうしたらいいか?そこで考えたどり着いた1つのやり方として、広告祭での受賞をニュースにする、ということでした。

賞を取るのを前提に制作をされたということですか?

実際に受賞できる保証はどこにもないのですが、限られた原資の中でできる限りのチャレンジをしようと思ったんです。インディペンデントインキュベータさんも、LEDのスペック(長寿命/省エネ)と言うことをきちんと動画の中で表現してくれれば、プロに任せてくれるとおっしゃっていただけたので、せめてアジアでブロンズぐらいは獲れればいいなあとは思っていました。

ものすごい高いミッションだったかと思うのですが、それを現実にしてしまうのはすごいですね。

賞を獲るのはよく制作者だったり、作り手だけが評価されるものなのでは?と言われることもありますが、今回のアドフェストのグランプリは、いろいろ各方面の方によろこんでもらえました。
 
信じられないような話なのですが、ちょうどパタヤでアドフェストが開催されていたとき、インキュベータさんの営業チームがタイの企業に売り込むために営業をされていたそうです。そんなベストタイミングで、グランプリを獲ったというニュースが舞い込んできたらしく、その受賞ニュースが商談の中でも話題になり、結果商談が幾つか決まったそうです。また元々のLED照明OCEDELを発明した方も、受賞に非常によろこんでくれたようです。受賞だけでなく、いろいろな方が喜んでくれたのはとても嬉しかったです。

中島さんは過去に何度も広告祭での受賞歴をお持ちですが、今回も制作時に手応えはありましたか?

アジアだったら、かすりぐらいはするかな、とは正直な所思っていました(笑)。アジアはシュールな笑いが結構通用するんです。だからブロンズぐらいはいけるといいかな・・・とは内心思っていました。ただカンヌライオンズは、僕だけでなくプロデューサーもディレクターも全員びっくりでしたね。最近のカンヌライオンズは、一発笑わせて、1つの商品を押すような動画はあまり評価されておらず、如何に世の中が変わったとか、態度変容が起こったとか、そういう作品が評価されることが多かったので、出品したときからカンヌライオンズは無理だろう、とみんな思っていました。

どのような経緯であのストーリーは仕上がったのですが?

ウェブで離脱させずに最後まで見てもらえるためには、いわゆる引っ張り感が必要だと思っていました。最後の最後まで引っ張って、タグラインで落とす、という結構オールドスタイルなフォーマットです。LED照明のスペックである長寿命、長持ちを際立たせるためにはギャップで表現しよう、長寿命じゃない、長持ちじゃない、でも光に関係する、と考えたのが、「ホタルだ」といった感じです。

実は撮影にはセリフがもっと多いバージョンもありました。オフライン編集までは2バージョンあったのですが、セリフを少なく、シンプルでわかりやすい方が受けると信じていたので、結果セリフが少ないバージョンを選びました。

クリエイティブディレクターとして、そんな斬新なアイデアで面白い作品を作るのはもちろんですが、それ以上にロジカルに考えて制作されているかと思います。

そうですね、CDで大事なことは、クライアントの意見、ブランドの規模だったり、世の中での立ち位置、そして予算に合わせた中でのベストなソリューションを見つけることだと思います。あとは個人的に、クライアントの中でもキーマンの意見を聞くことは大事だと思っています。その人の好みとか、どこで針が触れるんだろう、とか。ただ、その人だけのために制作している訳ではないので、どのCDも意識していると思うのですが、クライアント目線、ブランド的な目線、世の中目線、そのバランスを常に意識して制作はしています。

ただ最終的には、そのクライアントのために作っていたとしても、その作った動画を通して世の中がどう見るのかということに尽きると思います。今回のクライアントはB to Bの企業だったということもあり、世の中といっても世間一般ではなく、商談相手である別の企業さんがどう思うか、クライアントに対し好意的な印象を持ってもらうような動画を作ろうと思っていました。

中島さんの過去の作品にはB to Cである、名古屋・栄のサンシャインサカエがありますが、クライアント関係なく奇抜なアイデアがブランデッドムービーには重要だと思いますか?

アイデアは大切だとは思いますがそれだけではなく、ロジカルに考える事が大事だと思います。あのサンシャインサカエは名古屋の栄の繁華街にある商業施設なのですが、一階がパチンコ屋、二階にはSKE48劇場、それ以外にもビデオレンタル店、美容院、レストランとかも入ってて、極めつけが観覧車、とにかくいろいろある場所なんです。2009年から制作しているのですが、一番最初にお会いした時に、お客さんにサンシャインサカエは世の中からどう思われたいですか?と聞いたところ、名古屋で一番の情報エンターテイメントステーションにしたいって言われたんです。それってつまり楽しくて、おもしろい商業施設になりたいってことだ、そんな商業施設が作るブランデッドムービーなら、名古屋で一番おもしろい動画を作りませんか?って話になりました。

ただ名古屋で一番おもしろいのを作りたいなら、名古屋で一番を目指しちゃいけない。全国で一番を取れるぐらいを目指さなくちゃ。地方CMってやっぱり予算の関係とかもあって、全国CMに比べるとやはり見劣りしてしまう。今でこそ、地方自治体とかでも長尺の動画をたくさん作っていますが、当時はそんなに作られてなかった。全国で一番を目指すんだったら、全国に通用するフォーマットとクオリティで作ろう、作品の構造自体から地方CMのフォーマットの殻をやぶろうとは決めていました。

中島さんにとってのブランデッドムービーとは?

僕にとって、今回は長尺TVCMをウェブに上げたなという感覚でした。ブランデッドムービーと呼ぶにはおこがましいかなと。ただこの5年ぐらいでウェブ動画の価値が少しずつですが上がって来たかなとは思います。緩やかな右肩あがりかなと。ただスポットCMとブランデッドムービーは明らかに性質が違うなとは思います。スポットCMはやはりマスにリーチするので、新商品だったり、ロングブランドだけど若返りを図りたい商品やサービスなどには効果的で、それは変わらないと思います。ただ、ストーリー性があってブランドメッセージが伝わる動画で、長期にわたってユーザーとエンゲージメントしたい企業などは今後ブランデッドムービーにシフトしていくんだと思います。
 
ただ日本国内はまだまだ、ブランデッドムービーがスポットCMに比べ制作費が低いと思っているクライアントさんが多いなという印象です。尺自体は長いのにもかかわらずです。普通なら制作費はむしろ高くなるはずです(笑)。今年のSSFF & ASIA 2016 でジョニー・ウォーカーさんの作品を見ました。海外では他にも、HeinekenとかNikeとか、制作費25億とか言ってますし。ブランデッドムービーにもきちんと予算をかける、日本もそういうなったらいいなとは思いますね。

中島和哉(株式会社ドリル クリエイティブディレクター)