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【Management Talk】「カルチャーの本質は「コミュニケーション」にある」SNSからスマホゲーム、スポーツまで多彩な領域を手がけるテック企業の一貫したテーマ

株式会社MIXI 代表取締役社長 木村弘毅

米国アカデミー賞公認短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」は、2018年の創立20周年に合わせて、対談企画「Management Talk」を立ち上げました。映画祭代表の別所哲也が、様々な企業の経営者に、その経営理念やブランドについてお話を伺っていきます。
第40回のゲストは、株式会社MIXI代表取締役社長の木村弘毅さんです。SNSからスマホゲーム、スポーツまで領域を越えてさまざまなサービスを展開するMIXI。今年リニューアルしたブランドに込めた思いや同社の掲げるテーマについてたっぷりお話いただきました。



株式会社MIXI
MIXIは、「豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む。」というパーパスのもと、「mixi」や「モンスターストライク」、「家族アルバム みてね」、「TIPSTAR」など、友人や家族間で一緒に楽しむコミュニケーションサービスを提供しています。MIXIが大切にしている”ユーザーサプライズファースト”の精神のもと、「心もつながる」場と機会を創造し続けることで、感情豊かな心の通い合う社会の実現を目指しています。


レッドとオレンジを区別することにMIXIの価値がある


別所:まずは改めて、MIXIさんの事業について木村社長からお話しいただけますでしょうか。

木村:私たちについて一言で説明すると、世界のコミュニケーションを豊かにすることにフォーカスして事業を展開している会社です。もともとは、ソーシャルネットワークサービスで大きく成長しましたが、そのあとも一貫してテーマをコミュニケーションに絞っています。たとえば、ゲームであれば、一人で遊ぶものではなくて友達とみんなでわいわい盛り上がれるタイトルを提供していますし、いま取り組んでいるスポーツの領域も、コミュニケーションのフィールドとして注目しています。

別所:一貫してコミュニケーションをテーマに。そのなかで、これまでさまざまなターニングポイントを経験されていると思いますが、振り返ってみるといかがでしょうか。

木村:まず私たちは、ソーシャルネットワークサービスのmixiの成功によって、インターネット上での身近な人間関係でのコミュニケーションのニーズを強く実感しました。けれども、その後、業績に翳りが見えてくるタイミングが訪れます。きっかけは、黒船の襲来。つまり、さまざまな外国製のSNSが入ってきたことです。

別所:FacebookやTwitterが。

木村:ええ。私たちは、SNSというプラットフォーマーとしての立場で戦うのが難しくなってきました。転換を余儀なくされたわけです。それで、どうするかとなったときに、プラットフォーマーとしてではなくて、プラットフォーム上で動いている身近な人間関係で楽しめるアプリケーションのレイヤーであればまだまだ成長していけるのではないか考えたんです。そして、投資の転換を図った。そこが大きな転機でした。

別所:コミュニケーションというテーマは変えず、主戦場をプラットフォーム上のアプリケーションに。いつ頃からでしょう?

木村:2010年前後ですね。その頃には外国製SNSの脅威は感じていたので、身近な人間関係で楽しめるアプリケーションの研究をはじめていましたし、いくつかアプリケーションの会社に出資をして準備していたんですよね。そのなかの一つがゲームという領域で、そこからヒットしたのが、「モンスターストライク」です。以降、業績が大きく伸びていくわけですけど、ゲーム一辺倒ではこの先厳しくなってくるだろうということで、現在、スポーツにも取り組んでいるという流れです。スポーツは、一人で観ても面白いかもしれないですけど、仲間と一緒に盛り上がれるかどうかという点で体験価値が大きく変わってきますよね。ゲーム同様、身近な人間関係で楽しめるコミュニケーションが非常に大切なエンターテインメントなので、私たちにとって非常に親和性が高い領域なんです。

別所:エンターテインメントとコミュニケーションの結びつきはよくわかります。僕が手がけているジャンルは、映画祭やショートフィルムですけど、やっぱり同じで。結局、作品から何を感じたのかを、誰かとコミュニケーションしたいから観ているんだなって思います。もちろん、作品のクオリティも重要なんですけど、同じくらい、そこから生まれたコミュニケーションも大事な時代になっている。そして、僕はそういうつながりを作りたいという気持ちで映画祭を主催し続けてきました。

木村:おっしゃる通りだと思います。映画やゲーム、スポーツといったカルチャーの本質は「コミュニケーション」にある、と辞書にも書いてありました。

別所:カルチャーの本質はコミュニケーション。

木村:たとえば、「釣り」って、棒で糸を垂らして魚を引き上げる行為ですけど、それが「釣り」として定義されるためには、少なくとも二者間において、その行為が「釣り」であるとコミュニケーションされる必要がありますよね。そのときはじめて、「釣り」というカルチャーが成立する。映画も同じで、一人で作っているだけではカルチャーにならないでしょう。まずは、身近な人に観てもらって、その作品についての対話があって、さらに多くの人に観てもらって、たくさんの感想をもらえたときに大きなカルチャーになっていくわけで。私は、さまざまなカルチャーの根幹にコミュニケーションがあるということを知ったとき、自分たちが手がけているコミュニケーションの事業は世の中に必要不可欠なものだと確信しました。

別所:たしかにそうですね。そして、それを表すように御社のパーパスは、「豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む」。まさに今年コーポレートブランドをリニューアルされた際にもキーワードとなっています。ブランディングについてさらに詳しくお伺いできればと思います。

木村:ブランドのリニューアルについてはやはり、私たちの大切にしている価値をいかに世の中に届けられるかを一番に考えました。そのなかでもとくに、採用面が非常に重要だと捉えています。つまり、MIXIのパーパスやミッションに共感してくれる人をいかに集められるか。MIXIという名前は、認知度が非常に高い一方で、いまだにSNSの印象が非常に強いです。たとえば、現在、収益のボリュームで言えば圧倒的にモンスターストライクの方が大きいのですが、MIXIがモンストを提供していることを知らない人は多い。他のサービスもしかりです。まずは、そこをきっちりとアピールする必要がありました。

別所:具体的にはどんなリブランディングを?

木村:まず、大きなところではロゴの変更です。以前は、ソーシャルネットワークサービスと同じ小文字の「mixi」で、優しさや温かみのあるコミュニケーションを提供するイメージが強かった。一方で現在は、ゲームやスポーツで生まれる熱いコミュニケーションも提供しています。広い領域のコミュニケーションに挑んでいるんだというメッセージを込めて大文字に変えました。

別所:レッドとオレンジも印象的です。

木村:この2色は、私たちが届けたいコミュニケーションには温度があるんだということを表現しています。レッドは、スポーツやゲームのように、アドレナリン全開で、わっとみんなで燃え上がるような感情とコミュニケーションを体現するカラー。オレンジは、ソーシャルネットワークサービスや家族アルバムといった温かみのあるコミュニケーションを表しています。両方暖色ですけど、そのなかでも、温度の細かい違いにこだわっているわけです。レッドとオレンジを区別することにMIXIの価値があるのではないかと。

別所:すごくよくわかります。微妙な差異が大切ですよね。では、もう一歩踏み込んで、社名の変更についても検討したりといったプロセスはあったのでしょうか?

木村:実は10月から、商号を「株式会社ミクシィ」から、ロゴに合わせて「株式会社MIXI」に変えたんです。そこに至るまでには、そもそも社名を変えた方がよいのではないかという議論もありました。そのときに、改めてmixiという名前の由来に立ち返ってみたんです。「mixi」は「mix」(交流する)と「i」を合わせた造語で、「i」は人を表しています。人と人が交わる場所として「mixi」という名前になりました。そうすると、人と人をつなげていくという意味であるならば、現在でも会社名としてふさわしい。だから、名前は残すことになりました。


スポーツの二大アセット「記録」と「記憶」

別所:なるほど。「mixi」という言葉にはもともとコミュニケーションへの思いが込められていたんですね。ブランドの発信についてさらにお話しさせていただくと、僕たちの映画祭では、ショートフィルムによる企業のストーリーテリングをフィーチャーする「ブランデッドショート」という部門があります。そういった動画でのコミュニケーションについてはどのようにお考えでしょうか?

木村:そうですね。私たちは、コンシューマーに向けては、さまざまなプロダクトを通して信頼関係を結んでいくことが最大のブランディングだと考えています。ですから、MIXIでそうしたムービーを作るとしたら、もっとも効く対象は、いま働いている従業員や未来の従業員、つまり、求職者の方だと思います。具体的なサービスから抽象度を上げて、MIXIが目指している世界を伝えるというところまではまだなかなか到達できていないので。そうした思いをストーリーに託して、動画で描くことができたら強く刺さる気がします。

別所:ブランデッドムービーは多くの企業でHRや インナーコミュニケーションにも活用されているのでMIXIさんの製作も期待しています(笑)。あと、もう少し映画祭のお話をさせていただきますと、僕たちの映画祭では今年、テーマを「Meta Cinema」と題し、メタバースやWeb3について、クリエイターと議論したり、考えたりということをやってきました。そのあたりについては、木村さんはどのようにお考えでしょう?

木村:Web3については、私は、ブロックチェーンを使ったトークンにその本質があると捉えています。そして、NFTやトークンというのは、インターネット上で未来に起こる価値を証明する証券や債券のようなものだと思うんです。そのなかで、私は、「入口」と「出口」があると考えています。現在、トークンを配る「入口」はたくさん出てきていますよね。一方で、重要なのは「出口」の部分。つまり、あるトークンが、将来的にどのような資産性を持つことになるかというところです。たとえば、あるメタバースが、その中でずっと時間を過ごしていたい空間になっているかどうかによって、その中の「土地」の価値は変わってくるでしょう。あるいは、あるトークンが、未来のゲームのなかでアイテムと交換できるとなったときに、そのゲームが全然面白くなかったら、まったく欲しくないですよね(笑)。

別所:たしかに(笑)。

木村:私たちのようなテック企業は、インターネット上の未来でワクワクすることが絶対起こるんだと強く信じています。だから、そのために投資をしたり、さまざまな取り組みをしています。ただ、現状を見ると、入口を作っているところは多い一方、出口に注力しているプレイヤーは少ない。私は、出口を作れた人こそが圧倒的なヒーローになるし、なるべきだと考えています。

別所:MIXIさんは具体的にはどのような取り組みをしているのでしょう?

木村:たとえば、動画配信のDAZNさんと組んで、「DAZN MOMENTS」というNFT×スポーツのサービスを展開しています。簡単に言うと、トレーディングカードのDXのようなもので、たとえば、J.LEAGUEのゴールシーン等をNFT化し、販売を行なっています。

別所:なるほど。

木村:私は、スポーツには、お金に転換できる二大アセットがあると考えています。一つは「記録」、そして、もう一つが「記憶」です。すでに海外ではマネタイズがどんどん進んでいるんですけど、「記録」で言うと、スポーツベッティングは、米国の多くの州では数年前から合法化されて、スポーツに賭けて楽しむ人がどんどん増えています。そのなかで、スポーツの記録、スタッツが非常に大きな価値を持つようになってきています。

別所:ええ。

木村:そして、もう一つが「記憶」。たとえば、「NBA Top Shot」というNBAのスーパープレー動画等をNFT化したプラットフォームは、発売初年で700億円を超えるマーケット規模に成長しているんです。実物のカードと違って、NFTならほぼリアルタイムで新しいものが作れます。スター選手のスーパープレイが出た時に、その動画が即座にカードになって、お客さんの手元に届くという。観戦の熱が冷めないうちに、記憶としてビジネスにつなげられるというのは大きいですよね。さらに、それらをトレーディングするマーケットもあったりします。同様のサービスを日本で展開することを目指して私たちがいま仕掛けているのが、「DAZN MOMENTS」です。

別所:素晴らしい。実は、僕たちも、来年の映画祭25周年に向けて、NFTを使ったグローバルシネママーケットを日本で立ち上げようとしています。世界中のクリエイターのショートフィルムやフィルムメーカーの情報をクリエイティブなアセットとしてマネジメントしていくことを目指しているんです。きっと今後、MIXIさんとも接点が出てくるのではないかと期待しています。

木村:素敵な取り組みですね。


コミュニケーションには課題がまだまだ山積み


別所:あと、僕はMIXIさんが展開されている「家族アルバム みてね」というアプリにも非常に興味がありまして。

木村:ありがとうございます。「みてね」は夫婦や祖父母といった家族間でお子さんの写真や動画を共有できるサービスですね。海外でもユーザー数が伸びていて、いま、全世界で約1500万人に利用してもらっています。お子さんの写真や動画をインターネット上で出すことに抵抗がある方は多いですけど、「みてね」は、招待した家族にしか公開されないので、膨大な量のお子さんの写真や動画が投稿されているんです。

別所:いいですね。誰もがクリエイターになれる現代において、僕は、これからの時代、プロが作る映画とは別の文脈で、ライフログ動画、パーソナル動画というジャンルがすごく伸びてくるのではないかと期待しています。もちろん、個人情報やプライバシーの厳重な管理は前提ですが、いつか、映画祭のなかでライフログ動画で表現された世界を集めて上映したいと構想しているんです。

木村:それは面白そうですね。

別所:思い立ったきっかけは、自分の両親が80代に入ったことで、改めて二人のパーソナルヒストリーをちゃんと記録しておきたいと考えたことでした。写真の整理をしたり、動画を撮ったりしはじめたなかで、そういうものを僕自身も自分の子どもに残しておいてあげたいと思った。もっと言うと、それが社会的に意味があるならば、有名無名にかかわらず、さまざまな人々のライフログをオープンソース化したら面白いと思ったんです。そこから、大きな価値が生まれたり、共感を得たり、コミュニケーションが発生する時代がきているような気がするから。そして、そういう流れを映画祭として後押しできることもきっとあるはず。ファミリーログ、ライフログは、動画コンテンツの究極の民主化なのではないかと感じています。

木村:最近、無脚色、無編集を売りにした動画サービスが流行り出していますよね。いまあるものって、脚色や編集がすごいでしょう。それは逆にいじらない。加工せず、ありのままをシェアする。そんな動画サービスが脚光を浴び出しているらしくて。別所さんのおっしゃっているようなライフログ動画が注目を集める日は近いのかもしれませんね。

別所:コミュニケーションの話題としてもすごくいいものになると思います。今後ぜひ色々ご相談させていただけたら嬉しいです。それでは、最後にMIXIさんの今後について教えてください。

木村:私たちがテーマにしているコミュニケーションには課題がまだまだ山のようにあると思っています。実は今日、内定式だったんですけど、海外から参加している内定者もいますし、コロナの影響もあるのでZoomで開催したんですね。そこで、便利な世の中だなって思う反面、リアルに顔を合わせられないことをもったいないとも感じるわけです。やっぱり、対面でこうやってお話しさせていただくのと比べると、だいぶコミュニケーションの価値が下がってしまう気がする。そこは、テクノロジーの領域でもっと改善できる余地があるはずです。ほかにも、私たちが今まさに注力しているのはスポーツ領域ですけど、それこそ、映像やアート、お笑いといったさまざまな題材とかけ合わせたコミュニケーションサービスも今後可能性があるだろうと考えていまして。まだまだ仕事はたくさんあるなと感じています。

別所:ありがとうございました。


(2022.10.3)


株式会社MIXI 代表取締役社長 木村弘毅
電気設備会社、携帯コンテンツ会社等を経て、2008年株式会社ミクシィ(現 株式会社MIXI)に入社。ゲーム事業部にて「サンシャイン牧場」など多くのコミュニケーションゲームの運用コンサルティングを担当。その後モンスターストライクプロジェクトを立ち上げる。
2014年11月、当社執行役員就任。取締役、取締役執行役員を経て、2018年6月、当社代表取締役社長就任。




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