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銀座と堀口切子 共通点は「伝統と革新」

 2016年3月にオープンした東急プラザ銀座は、江戸切子をモチーフとした建築として話題になりました。キリコラウンジと呼ばれるスペースには、堀口徹さんがカットした照明が設置されています。そんな東急プラザ銀座を設計された株式会社日建設計の坂本隆之さんと畑野了さんに、堀口さんとお仕事を共にした理由や堀口切子のコーポレートメッセージのひとつである「Redefined(再定義していく)」についてお話を伺いました。(記事内、敬称略)

株式会社日建設計 設計部門  坂本 隆之(写真左)、畑野 了(写真右)

■建築のデザインをきっかけに

東急プラザ銀座のモチーフを江戸切子にした理由を教えてください。
坂本:建築のデザインを決めていく上で、「銀座らしさ」を考えていた時に「伝統的なものと新しさ」と「光」をテーマにしたいってなったんです。そこで、ガラスを彫り込んだような、立体的な外装を表現できる、カットグラスや江戸切子をモチーフにしようと決めました。

東急プラザ銀座のデザインをするときに堀口さんとお知り合いになったのですか?
坂本:建築のデザインは他の江戸切子職人の方に手伝っていただいたんです。デザインがスタートした時に、新進気鋭の作家の方の個展があるということを知り、足を運びました。それが堀口さんの展覧会だったんです。そこで堀口さんに、光についての考えだとか、伝統的なものに対してどう向き合っているかに関して聞けたらなと思い、「友達になりませんか」って話しかけたんです(笑)気持ち悪かったと思うんですけど(笑)そしたら「面白いですね」と言ってくれて、すぐに意気投合していろんな会話をするようになりました。

はじめはお仕事ではなくお友達として?
坂本:そうですね。プロジェクトとして何かをお手伝いしてもらっていたという関係ではなく、友達(笑)仲良くなって、展覧会に行ったり、僕らの建築の話を聞いてもらったり、というような感じで。
 僕らの建築が進んでいくにつれて、現実の空間の中に何かしら堀口さんと一緒にやったものを残したいなって思うようになりました。そこで「ワンポイント印象に残るようなものを」と、あの建築の中で一番の目玉になっているキリコラウンジの中にあるバーカウンターの照明器具を一緒にやることに。それまでに彼とはめちゃくちゃ会っているんですけど、仕事として関わったのは実はそれだけなんですよ(笑)
 だから、堀口さんはこの建物を一緒にデザインしたという感じではなく、僕らのメンターというか。建築を作っていく上での、光のことに関して一家言ある親父というか、仲間というか。面白いからと本当にボランタリーに付き合ってくれて。その中であの小さな照明器具が、唯一一緒にできたデザインの仕事だったということになりますね。

■堀口さんを通して見える新しい世界

堀口切子の魅力はなんだと思いますか?
畑野:江戸切子って伝統的にずっと作り続けているものだと思うんですよね。堀口さんはいつもその世界を広げようとしていて。切子の作家さんって、切子と向き合う時間がすごく長いと思うんですけど、堀口さんは切子と向き合う時間に加え、建築を含めた多ジャンルのものにも目を向けているんです。そういうものを取り入れて、より江戸切子の世界を革新しよう、広げようとしているのが一番の魅力になるのかなって思いますね。

坂本:堀口さんは飲み物を飲み始めた時の器の中の風景だとか、水面に映り込んでいる様子、それがだんだん減っていって飲み終わって見える風景みたいなものを考えていて。グラスって横から見るものだと思っていたんですけど、内側を見たときの世界が万華鏡みたいにわーーと反射しているんです。
内側の風景だとか、映り込んでくる映像みたいなのを考えて作っているっていうのが面白いな、と。どの器も中の景色が全部違っていて、それがすごい魅力です。彼はちゃんとビジネスにならなきゃいけないという視点もあるから、時間をかけていっぱいカットすればいいっていうもんじゃないっていう中で、試行錯誤されて、一本一本研ぎ澄まされた線をカットしているのかなって思います。

畑野:映る影とかもすごい気にしてやっているんですよ。僕らはやっぱりオブジェクトだけを見ちゃいますけど、そのオブジェクトに光が当たった時にそのオブジェクトが作るもの、っていうのも見て作られているんで、そういう視点が面白いなって思います。僕らも建物を作る時に、その建物とそれが周りに映す影や光っていうのを、結構参考にさせていただきました。

■伝統的で本質的なものを再定義していく

堀口切子を端的に表現するとしたら、どんな言葉になりますか? 
畑野:まさに「伝統と革新」ですかね。僕らは「新しいものと古いものが共存しているのが銀座の特徴だね」って言ってたんですけど、なんかその精神性は堀口さんにもすごいあって。江戸切子って、ずっと江戸時代から同じようなことをやり続けていて、その伝統の技術をずっと磨いているっていうのと、その中に新しいものを作っていくっていうのがあると思うんです。その姿勢が、彼は他の江戸切子の職人さんよりもすごく強くて、新しいものを作っている。時代での価値観をわかっていて作っているっていうか。だからといって伝統をバカにしているんじゃなくて、きちんとした伝統の技術を身につけた上で、そこから新しいものを作る。そういう「伝統と革新」というのは、まさに堀口切子にフィットするなって。

坂本:違う言葉で言うと、「新しい風景(景色)を生み出せる」そんなブランドなんじゃないかなって思います。今までになかった表現を作るというか。僕らの中でプロジェクトでもあの空間(キリコラウンジ)の中にあの照明器具がぶら下がることで新しい風景ができたと思いますし、単純にプロダクトとしての魅力を超えた環境を変える力っていうのを持っている。あとは、器の中に新しい風景を生み出すという事でも、映り込んでくる景色みたいなものを作ろうとしている。そういう意味で、見たことない景色、風景を作り出すという魅力があると思いますね。

■おわり

 畑野さんが「堀口切子は伝統と革新」とおっしゃっていましたが、まさに堀口切子のコーポレートメッセージのひとつ「伝統的で本質的なものを再定義する」であり、作品にその想いが込められています。
 おふたりのお話を伺うなかで、建築と江戸切子、異なる分野の友人だからこそ、お互いに刺激や影響を受けてプロダクトにいかすことができるという関係性がとても素敵だと思いました。
 有名な建築を多く設計なさっているお忙しい方々なのに、時間を割いて貴重なお話をたくさんしてくださいました。記事に伺ったお話を載せきれず、残念で仕方ありません...本当にありがとうございました!

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