江戸切子を伝えるために、他とは違うアプローチを。
「江戸切子を知ってもらいたい。使って欲しい。」だからこそ、今までとは違うアプローチをする。そんな、堀口切子の熱い想いとこだわりをコントロールし形にする、アートディレクターの外川陽一さん。外川さんは、堀口切子の商品リーフレットやオンラインなどのデザインを行っている。堀口切子の印象をディレクションしているからこそみえる、堀口切子の本質的な魅力についてお話していただきました。
アートディレクター・デザイナー;外川陽一さん(そとかわ よういち)
98年、ドローイングアンドマニュアルにてD&DEPARTMENTの立ち上げに参加、web部門のディレクターを務める。06年、展覧会を企画プロデュースするクレー・インクに参加。写真集や企業のブランドデザイン、展示空間でのグラフィックなどを手がける。10年、独立。
■熱いビジョン・想いを近くからサポート
堀口徹さんとの出会いを教えてください。
共通の知り合いがいまして、その方に引きあわせていただきました。それから程なくして、堀口さんが広報を務める江戸切子協同組合が毎年開催している新作展の告知用ポスターのデザインを依頼してくださったんです。その後、彼が日本橋でグループ展を行う際、 DMのデザインを依頼していただきました。そこから少しずつ堀口切子の印刷物などにも関わるようになり、今に至るという感じです。
現在、堀口切子とはどのような仕事をなさっているのですか。
基本的にはオファーいただいたものをデザインしています。例えば、個展のDMや会社案内、商品リーフレットのようなものですが、文章も整えます。堀口さんが荒く書いたものがベースになりますが、全く出てこない時は、その取っ掛かりとして、とことん話し合うことから始めることもあります。
どのようなことを意識してお仕事をされているのですか。
僕の役割は彼の印象をデザインすることです。ですので、堀口切子として発信するものの印象はできる限りコントロールしたいと思っています。SNSで発信したものですらもです。少なくとも彼の考えていることを超えなくてはいけないという使命感は感じていますが、自分のやりたいことの方が強ければ、彼は絶対に譲らないですけどね(笑)
■堀口切子の細部までのこだわりとは
堀口切子らしさを感じたエピソードはありますか。
ミリ単位、ピクセル単位で修正を指示してくるところでしょうか。そもそも堀口さんほど緻密にカットを施せる職人さんはあまりいないと思っています。他の切子と比べてみると分かりますが、カットが本当に美しいんです。だからこそ、細かなことに目がいくんだと思うのですが、これでもかと盛り盛りに切子を施す江戸切子作品が多い中、堀口さんは技術をひけらかすようにはカットを施していません。自分が美しいと思うものを作るために、いろんな技術の中から選んで施す引き算のデザイン。それが美しさを纏うのであれば、僕はそっちのアプローチの方が断然好きです。
外川さんが思う堀口徹さんの魅力は何ですか。
人当たりの柔らかさですかね。何より自分のビジョンを明確に語れるところでしょうか。デザインの意味やどんな狙いがあるかを、自分の言葉できちんと説明できる。いい意味で非常にこだわりがあるところですね。
堀口徹さんのお弟子さんである、三澤世奈さんとのかかわりはありますか。
彼女がオンラインショップの担当ですので、そのリニューアルをするにあたって、やり取りをすることが多いです(インタビュー当時)。自分の仕事へのプライドと堀口切子への熱がある方で、彼女も親方に負けないくらい相当頑固な方です。世奈さん、ごめんなさい(笑)
堀口切子にとって三澤世奈さんは、どんな存在だと思いますか。
組織としての広がりですとか、これまで堀口切子になかったもの、堀口徹が描いていなくて、でも必要なものを気づかせてくれる、堀口切子にとって欠かせない存在だと、外から見ても思うほど頼もしい存在だと思います。
■外川さんが想う今後の堀口切子
堀口切子を一言で表すと何ですか。
個人的希望を込めて言うと、「江戸切子職人なんですけど、そうじゃなくてもいい」という感覚があります。日本には江戸切子、薩摩切子、天満切子などがありますが、ガラスにカットを施すという枠を広げますと、例えば、ボヘミアングラスだったらモーゼル、フランスだったらバカラというカットグラスがありますよね。ですので、江戸切子というフィールドの中だけで戦えば良いのかというと、そうではなくて、前述のモーゼルやバカラなどと戦わなきゃいけない。江戸切子協同組合に所属しなければ「江戸切子」と名乗れない伝統工芸の世界だけに、活躍するフィールドを限定するのは狭いと言いますか、勿体ないように思っています。
伝統工芸というアプローチで堀口切子の商品にたどり着くのか、堀口徹が作り出したものというアプローチでたどり着いたのかでは大きな違いがあると思っています。江戸切子の中では革新的なことをしている彼ですが、僕の役目としてはそういうのを取っ払った上で、堀口切子の魅力を一緒に高めていくこと、そして、ひとりの職人・堀口徹として勝負するために、「江戸切子職人なんですけど、そうじゃなくても良い」と思っています。僕の勝手な考えではありますが。
広い舞台で活躍する必要があるのですね。
そんなお二人は今後についてどのようなお話をされていますか。
今は団塊の世代を中心とした、お金にゆとりのある方々が百貨店で江戸切子をいっぱい買ってくれているらしいのですが、今後、長い目で見たとき、団塊世代も江戸切子職人もパイは確実に減っていきます。ですので、堀口さんは、今のうちから何かしら手を打っておかないといけないという、江戸切子を背負った使命感や憂いがあるんだと思います。自身の立ち位置を意識して自分の価値を高めていき、「江戸切子職人」という纏を脱いでも勝負できる準備をし続けなければならない、彼とはそんな話をよくしています。
■おわり
取材を通し、堀口切子のコーポレートメッセージにある「Authentic(本質的)」を1番理解しているのは、外川さんなのではないかと思いました。堀口切子が描く未来を、外川さんも一緒に考えてデザインする。厚い信頼関係を随所に感じられました。カットの美しさはもちろん、使い手のことを考え作られている堀口切子ならではの江戸切子をぜひ、皆さんに見ていただきたいです。
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