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一級再合格を目指し、スキーを言語化する

今回の目標は各種目71点

Youtubeの対策動画で感じた足りなさ

この間から一級を目指して、一級受験対策のYoutubeの動画を見ています。

その多くの動画を見ながら、「この動画をみて学ぶと70点は取れるけど、71点は取れないな」と思いました。

普通のテストとバッジテストの点数が違うのは合格のための種目合計点「70点」の上下1点くらいしか差が出ないこと。かなり悪くても69点だし、凄く良くても71点。
ですから、一種目でも失敗するとかなり厳しい。

70点でなく、71点を目標にした滑りを準備していると、そうでないとでは各種目でのプレッシャーがハンパないのです。だから、目標にすべきは「71点」で、71点を目指して「失敗して70点」という意識で臨むことが良いと思います。

で、なぜ「一級合格」にテーマを絞った動画の多くが「70点」ベースかというと、「今、踏んでいるスキーに意識が行き過ぎている」からです。足下や、少し広く取っても腰から下に意識が集中し過ぎている。そうすると身体が窮屈になり、どうしてもスピードに乗り切れません。

ちなみに、前回はどうだったかというと、パラレル70点、ウエーデルン71点、総合滑走71点、ステップターン69点、ゲレンデシュプング71点でした。そういう意味では無理な目標でないところが、潔くない。笑

昭和60年4月2日戸狩スキー場にて。

一級のバッジテストは技術検定ではなく「演技競技」

バッジテストのスキーは、フィギュアスケートと同じ演技種目だと私は考えます。
一つひとつの技術はもちろんのこと、全体としての「表現」が大事だと思います。表現とはスタートからゴールまでの一枚のバーンをつかった「喜びの表現」であり「人に演技を見せる意識」です。多くの動画は個々の技術に神経がいきすぎ、この最も大事な喜びの表現ができていない、と思います。

ちょっと具体性がないので、もう少し具体性を持って言いましょう。

技術に意識が生きすぎると、自分の意識が自分の内側に向きすぎます。視線は次のターンを見ているでしょうが、もし可能なら自分の踵とか足首とか見たいのではないでしょうか?
具体的には、今今の技術だけを意識すると視線が下を向いていきます。意識が足下の技術に向かうからです。その人が見ているのはせいぜい次のターンの入り位置くらいの短い、狭い視野になりがちです。下から見ていると視線がターンに連れて左右に振れているのがわかります。視野が狭い表れですね。

それに対して、私は審査員を見ます。意識を審査員に向けます。
評価をするのは自分ではなく審査員。だから、あの人達に自分の滑りを見てもらいたい、と思います。そして、これは具体的には常に最大傾斜線に視線を向けることになります。

視線が左右に振れるのと、視線がずっと自分(審査員)に向かって来るのでは、検定員の印象(スピード感)がぜんぜん違うはずです。
そして、この違いはもっと本質的な違いを暗示しているのです。

スキーは時分割スポーツ

私はスキーは自分の身体の中に複数の時間を持つスポーツだと思っています。先ほど述べた技術に意識が行き過ぎる滑りは、身体の時間がすべて同一時にある(意識されている)滑りです。それに対して、私はどういう意識で滑っているかを言語化していきます。

目の時間(一番未来に属する時間)

©2018 藤本タツキ/集英社

私の場合、一番先行しているのは「目の時間」です。
目は具体的には、次の次のターンを見ています。
正確には、次の次のターンの入り位置を、ターンの後半には意識して見ています。板が一番横を向いて、同時に視線もバーンの横側に向きやすいときに、次の次のターンの入りの位置を意識して見るのです。ターンにして1.5ターン先の未来にいます。

これはポール練習で身につけた感覚です。次のターンではなく、次の次のターンというところがミソです。(ちなみにポールでは、現在の位置から次の次のポールまでは直線で、その直線がたまたま次のポールを通過しているという、まるで一般相対性理論のようなイメージ付けです。)

次の次のターンを見ると言うことは、最大傾斜線を見続けることになります。スキーを「ターンの連続」と考えるのではなく、「視覚的には直線運動で、その直線がたまたまターン弧を通っているだけ」と考えるかで、スキーという競技がまったく変わってきます。

たとえば「大回り」という種目に対して、「左右に大きく回るスキー」を想定するのか、「大きなリズムでまっすぐ下に滑走するスキー」をイメージするかでは全然違います。一級にはスビード感が必要と言われますが、その「スピード感の正体」は、単純なスピードではなく、この意識の差だと思います。

「逆手の時間」(ちょっと先の未来を自分で掴む)


【写真:ロイター/アフロ】

次に来るのは「逆手の時間」です。
ターンの切替直前での谷足(外足)の逆の側の手です。

ターンの切替時の逆手は、その半ターン先の時間である最大傾斜線に絡むように前に出していきます。胸もそれに連れられるように動き、ターンの足より半ターン分先、最大傾斜線に向かって上体全体が先行していきます。

そしてターンが最大傾斜線を越えると、次の逆手を意識して、できるだけ早めに山側の手を前に出す意識を持ちます。
その結果、常に両手の拳が自分の間接視野に入ってくることをイメージしています。

「胸の時間」もありますが、胸は逆手をすぐに追いかける感じで、イメージとしては逆手に同期している感じです。

さて、ここまで読んできて分かるように、71点のスキーは「上体の先行を使っていかにフォールラインに絡んでいくか」です。
70点のスキーなら「足下がシッカリしていれば合格」なのですが、そこに更に1点を加えるには「上体で斜面に対する攻撃性を見せる」必要があると思います。

そして僕のイメージの続きでは、上体の先行に対してターンの今今、ターンのゼロ時が「内足の時間」であり、そこからやや遅れる形で「外足の時間」がきます。

あれ?腰の時間は?

そう思われた方はスキーをよく知っておられる方です。
なぜなら「腰の外向」というのは一級合格の鍵!と言われるからです。
だから、解説動画でも腰の外向を強調しています。

でも、ちょっと注意して見てください。動画で補助の矢印を入れても腰の外向って分かしにくいと感じませんか。何より「外向だけで回るトレーニング」はほとんど見られませんよね。個人的には外向は原因ではなく結果だと思うのです。(ちなみに外向だけで回る練習はポールの練習種目にはあります)

私は、身体の中の時差(内足と外足の間にもある)によって身体全体のねじれが生じる中で「自然と生まれてくるもの」が外向姿勢だ、というイメージを持っています。ですから、「現象としての外向姿勢」はありますが、「意識としての外向姿勢」(外向姿勢をつくるために、そこに意識を集中させる状態)は私の場合、存在しません

これには二つ理由があります。
一つは、意識が自分の内に向かいすぎて、最も重要な「喜びの表現」「人に演技を見せる意識」が弱くなってしまうからです。
もうひとつは、「外向(だけ)で回るのはジャイアントスラロームから」だと思っているからです。
バッジテストのスピードと弧の大きさを考えると、外向で回るのではなく、全体のバランスで回ることになりますし、全体のバランスが整っていると「現象としての外向姿勢」が現れることになります。

内足の時間、外足の時間には少しズレがある。

今まで書いてきたように、スキーの時分割の中では、常に上体が未来を先取りしています。では、現在時=ターンのゼロ時は何処にあるのでしょうか?

私はターンのゼロ時は内足の時間だと意識しています。
そして、外足は若干だけど遅れていて、最後の支えをしていると考えています。

まず接地面である外足がゼロ時でないのは、それまでの情報(視覚情報や足裏情報)を計算して踏み込む強さや角度を調整しているイメージがあるからです。だからイメージとしては少し遅れて全体をサポートするイメージなのです。

また内足をゼロ時にしているのは、複数の理由があります。

先ず第一に、リカバリーへの備え
予測していなかった緊急時、まさにゼロ時間に対応するのは内足。だから内足のポジションがゼロ時だと考えています。

もうひとつは、ゲレンデ上での位置の修正
外足への加重を続けるとコースから落とされる(ライン取りが下に下がってしまう)のは避けられません。そうすると、検定バーンの中に残されている最後のターンのスペースが、段々と余裕がないものになってきます。(ゴールラインの停止位置が決まっているので)
その際に、落とされたラインを高く戻すのは、内足(ターン後半での山足)の仕事です。内足に早めに乗り込む、あるいはステップ気味に高い位置に乗り上がることで斜面に対する位置を調整する(そう言えばこういう話も動画には出ていませんでした)ためにも、内足をゼロ時として認識することが有利です。

こうして、内足をゼロ時点として外足を少し遅れ気味にする(スキー板に前後差をつける)と、自然と前述の「現象としての外向」ができるのです。

時分割イメージのまとめ

では、最後に身体の中の時間のズレを確認しておきましょう。

  • ゼロ時+コンマ数秒遅れ・・・外足の時間

  • ゼロ時(ターン基準時)・・・内足の時間

  • 0.5ターン分先行・・・逆手と胸の時間

  • 1.5ターン分先行・・・目の時間

スキーは「足技のスポーツ」ではなく「身体全体で表現するスポーツ」です。この時分割のイメージをもってスキーを試してみると新しい感覚が体験できると思います。
ついでに、セルフチェックのポイントも挙げておきます。

  • 目の時間・・・審査員が常に視野にはいっているか

  • 逆手の時間・・・両手の拳を常に関節視野に入れているか

  • 内足の時間・・・スキー板の前後差を意識できるか

71点のスキーは「安全」なのか?

さて、ここまでの説明でも分かるように、71点狙いのスキーのターン弧は縦長になります。そうなるとバッジテストの重要な観点である「安全性」は大丈夫か、暴走と捉えられないかという心配があるかと思います。

でも、この縦長のターン弧は安全なターンなのです。

斜度変化(と視線変化)が少ない。

横長のターンでは、最大傾斜線に対してほぼ真横になる瞬間があります。そうすると(斜面ではなく)自身のスキー板が向き合う斜面の斜度は0から最大傾斜(検定だと25~30度)になります。その差は約30度くらいです。それに対して縦長のターンでは、斜度の変化は横長ターンの半分くらいです。

この違いは3つの差を生みます。

第一に、エッジングで受ける反発の変化が小さいこと。
斜度変化が大きいほど、エッジングで受ける反発の差が大きくなり、姿勢が乱れやすくなります。転倒する最も大きな理由はこれが原因です。
第二に、最大の反発量の小さいこと。スキーを振るほどエッジングの反発が大きくなります。これもバランスを崩す理由です。
最後に、視線移動が少ないこと。横長のターンは視線が右から左に、左から右に大きく振れてしまいます。それに比べ縦長ターンでは視線の変化が少なく、常に先の先を意識できます。

常に前にある危険を予見でき、事故の原因になりにくい。

視線移動が少ないところでも触れましたが、縦長ターンでは常に先の先(ゲレンデの真下方向)を見ています。スピードが上がるほど、前のスキーヤーとの接触の可能性が高くなります。常に先の状況を視線に入れる縦長ターンの方が、直近のターン方向を見る(つまりゲレンデの下ではなく横方向を向いてしまう)横長ターンよりも、自分が加害者になる事故を避けることができるのです。

後方からのもらい事故も少ない。

縦長ターンは、最大傾斜線に対してスピードを維持できるターンです。そのため、後方から来るスキーヤーと接触するもらい事故も減ります。
一番恐いのは、後方から来る暴走スキーヤー。しかし、縦長ターンはもともとスピードがあるので、接触時の相対スピード差に余裕があるので、事故を回避できるチャンスが増えます。
逆に横長ターンは暴走スキーヤーの最大傾斜線に直交する可能性があるので、相対スピード差が最大になり、大事故に繋がりやすくなります。

検定員は当然、縦長ターンの安全性を知っている。

重要なのは、今述べた縦長ターンの安全性を「検定員は当然知っている」ことなのです。
縦長ターンが暴走では問題外ですが、縦長ターンをコントロールしていれば、それは「安全で楽しいスキーを表現」していることになります。つまり、それは評価の高いスキーなのです。

検定員は技術を採点します。(だから動画のほとんどは、そこに視点を置いています)
ですが、検定の「目的」は、『安全で、楽しく、美しいスキー』です。技術の採点も、こういう目的の達成のためです。

70点を目標にしたスキーは、自己の技術のスキーです。
しかし71点を目標にしたスキーは、スキーというスポーツ自体の理想を目指すスキーなのです。

一級は「魅せる(見せる)スキーの入口」

一級はバッジテスト(技術検定)のゴールです。
もちろんプライズがある現在、最高峰ではありません。それでもバッジテスト一級の輝きは色あせることはありません。
一方で、一級は指導者へのスタートでもあります。

私は、一級の壁で苦しむのは、この「バッジテストのゴール」か「指導のスタート」かの意識準備の差だとも思っています。

検定員は「指導者」で、一級を「指導履歴のスタート」として経験している人たちです。ということは、彼らには「一級からは見せる(人の見本になる)スキー」という意識があるはずです。

同時に、一級スキーヤーとは日本のスキー技術体系を一番底辺で支える使命があるということです。

残念ながら、そういう意識で一級合格対策動画を上げている人は皆無です。そして、そういう意識まで持っていかないと一級合格の余裕(それが点数での71点)は生まれないのです。

40年ぶりの挑戦は、一段高い意識で挑戦したい!

40年前の自分は「70点狙い」のスキーヤーではなかったかと思います。しかし、40年後の自分は今まで書いてきたような高い意識で挑戦したいと思います。

スキーは20年近いブランクが空いていますが、もし合格できたら「高い意識」によって合格できたと言えます。

そう言えるように、4月30日に向けて準備したいと思います。


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