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はじめてのブランディング~仲間を集める方法

「コンプライアンス×ブランディング」を進める中で一つだけ心配だったのが、ブランディングに当事者として関与した経験に乏しいということだった。

「コンプライアンス×ブランディング」は、法務機能の一部とみなされてきたコンプライアンスを企業のブランド戦略の一部として再構成する試みで、どちらかといえば、ブランディングの営みの中にコンプライアンスを要素として盛り込むものだ。

だから、提唱者である僕自身が肝心のブランディングについて「大学の頃勉強しました」「本を読んでいます」というわけにはいかない。自身でブランディングをリードした経験がどうしても必要だった。

そんな課題を感じたときに降って湧いたのがJCXAS立ち上げの話だった。JCXASは僕自身が中心となって取り組んできた活動だ。僕自身が当事者としてブランディングをリードするにはまたとない機会だ。

幸いなことに、仲間たちもJCXASの立ち上げに対しブランディングが必要であること、それを僕がリードすることについて快く承諾してくれた。かくして、僕の初めてのブランディングディレクションの仕事が始まった。


ブランディングとはどういう営みか?

組織のブランディングは「組織の擬人化」に似ている。組織という目に見えない存在にキャラクター性を付与し、あたかも実在の人物であるかようにステークホルダーとコミュニケーションを行う手段を与えるわけだ。

哲学者のプラトンは、本当にこの世に実在するのはイデアであって、我々が肉体的に感覚する対象や世界とはあくまでイデアの似像にすぎない、というイデア論を提唱した。

例えば、私たちはアメリカンショートヘアーを見ても、三毛猫を見てもそれが「猫」であることを認識することができるし、ゴールデンレトリーバーは「猫」ではなく「犬」だと認識できる。ところが、「猫」とは一体何なのか?「犬」や「馬」と何が違うのか、その定義を私たちは上手く説明できない。

この、言語化できない抽象的な「猫」とか「犬」とかの概念のことをプラトンは「イデア」と呼んだ。イデアは神が作ったもので、人間が知覚できない神の世界(イデア界)に存在しており、私たちはその影を見ているに過ぎないというわけだ。

画像引用元:https://jijiart.hatenablog.jp/entry/Allegory_of_the_Cave

組織の人格である「ブランド」もプラトンが提唱したイデアと同様に、そのままでは人間が直接知覚できず言語化ができない存在だ。ブランディングとは、高次元の存在にあるブランドを4次元時空で生活する私たちが知覚できるように具現化し、記述し直す行為であるといえる。

仲間を集める

ブランディングは1人ではできない

ブランディングを始めるにあたって、最初にやらなければらないのが仲間を集めることだ。組織の人格であるブランドは(イデア界のような)人間が直接知覚できない世界に存在しており、それを4次元時空に記述するには複数の方向から光を当て、その影を観察することで初めて正確な形をすることができるかだ。これはちょうど、暗闇の中に存在する立体に対して様々な方向から光を当てることでその姿を浮かび上がらせるのに似ている。

画像はDALL・Eで作成

例えば、円柱形の物体の側面方向から光を当てると長方形の影ができるが、この影を観察するだけではその物体が円柱形なのか直方体なのか判別することはできない。これと同じように、ブランドも1人だけの視点では正確にその姿を把握することはできない。

また、ブランドを正確に浮かび上がらせるには、どこにどうやって光を当てるのかについて共通の理解が必要だ。闇雲に光を当てても目的の物に当たらなければ意味が無いし、強すぎる光や弱すぎる光でもかえって姿が見えにくくなる。

JCXASは、もともと私が主催していたセミナーの同窓会が母体であり、「コンプライアンスの法律以外のノウハウにこだわる」というという共通の問題意識があった。発足からすでに3年以上が経過しており、「コアメンバー」と言うべき常連の参加者も増えてきたことから、先ずは彼らに声をかけてみようと考えた。

誰に、どうやって声をかけるか?

組織でブランディングを行う場合には、「メンバーの中から有志を募る」という形で、自発的にプロジェクトに参加してもらうのが理想だ。特に、JCXASのプロジェクトは雇用関係を背景とした「仕事」ではなく、あくまでも課外活動。それに、そもそも「志を同じくする仲間」であるとしても、勉強会の参加者という「客体」から、勉強会の運営メンバーという「主体」に変わりたいかどうかは全くの別問題だ。

そこでまずは、メンバーの中で積極的に発言したり出席回数が高い人で、勉強会の理念に深い共感を示してくれている人に個別に声掛けを行うことにした。個別に声掛けをしたのは、「○○さんが参加しているから」「○○さんに参加して欲しいと言われたから」という同調圧力をできるだけ排除したかったからだ。

声掛けの際に語ったこと

JCXASの前身はセミナーの同窓会なので、そこには教える側(講師)と、教わる側(受講生)という立場の違いがあった。JCXASのブランディングを行うメンバーを募るにあたっては、教わる側だった参加者が自らの立場を飛び出す動機がどうしても必要だった。

この時、できるだけ僕自身が考えるJCXASが目指すものや理念については語らないようにした。理念は確かにそこに存在しメンバー間で共有できていたが、未だ不可視世界にあって言語化されてはいない。それを言語化することがブランディングだからだ。

それにもかかわらず、言い出しっぺの自分が先走り的に言語化を行ってしまうと、メンバーがそれに縛られ自由に光を当てることができないかもしれない。ましてや、僕はセミナーの講師だったわけだからその言葉には意図せずとも影響力があるかもしれない。そんなことを心配してのことだった。

代わりに僕は、各メンバーにこの勉強会に来るようになって何が変わったか、何が良かったかを語ってもらった。そんな勉強会の良さを、もっと多くの人に広めたいから手伝ってくれませんか?と問いかけた。

ブランド論の権威であるDavid A Aakerは、ブランドには「機能的便益」「情緒的便益」「自己表現的便益」の3つがあると言った。僕はこの問いを通じて、勉強会がメンバーに自己表現的便益を与えることができているかを確認すると同時に、「他者に勧めたい」というロイヤルティを持っているかを確かめたかった。


説明の時に用いたJCXASのビジネスモデルのプロトタイプ

そうして、声掛けをした数名の全員が快くJCXASの立ち上げプロジェクトに名乗りを挙げてくれた。


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