男の一人称

 私はここ十年ほど、一人称の呼び方に頭を抱えるほど悩んでいる。最初に使っていた一人称は自分の名前であったと思う。さすがに違和感に気づいたのか、小学5年生あたりに「ぼく」へと変えた。今では小学校高学年で「ぼく」にしたのは乗り換え先を間違えた感じがするが、あの時の私にとって誇らしかったのか必要以上に一人称を多用していた。それも鼻息を荒げながら。
 それから中学、高校は「ぼく」とともに笑いあり、涙ありの青春(嘘)を駆け抜けていった。ことの重大さに気づいたのは大学生時代。以前より気づいていたが、自分の特技である「見て見ぬふり」をしていただけかもしれない。それはともかく危機感から長期休暇の間に「おれ」に一人称を変える訓練を行った。だが、義理堅い男である私にとって、中高をともにした相棒のような言葉である「ぼく」から「おれ」に変更するのは非常に難しいものだった。口になじまない言葉である故、イントネーションがどこかおかしかったり、上手く発音できたとしてもドヤ感が出てしまう。そもそも「おれ」という一人称に対して威張っているようなイメージを勝手に抱いており、私には合っていなかったのかもしれない。
 夏休みが終わるころには「おれ」ではなく「自分」に落ち着いていた。だが、一人称を自分にすると「自分はそうは思いません!」とユニフォーム姿で言い放つあばれる君を連想させたり、相手のことを自分と呼ぶ習性のある関西人を思いがけず戸惑わせてしまう恐れがある。流石に相手には迷惑をかけたくないので、これから訪れる夏休み期間中に久々の訓練を行いたいと思っている。

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