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国民を愚弄する電事連広告「原子燃料サイクルの仕組み」2023年4月,旧態依然の原発推進体制は亡国への途

 

 ※-1「原子燃料サイクルの仕組み」はいままで,どの国のその原発事業であってもまともに成就させえたところはない。ましてや,その本格的な商用化を達成し,営利事業体として持続可能に実現しえた事例もない

 したがって,本日のこの記述で紹介する「電気事業連合会の意見広告」は,原子燃料サイクル(核燃料サイクル,高速増殖炉の操業)の『仕組み』についてだけもっぱら「説明する動画」を,このユーチューブ動画サイトのCMとして制作し,放映している。

 ともかく,この広告・CMを視聴してもらいたい。放送時間は3分52秒である。

 まず,国民(市民・庶民)の一般的な理解に関してだが,この動画の内容と突きあわせるかたちで,断わっておきたいことがあった。

 電力生産方式のひとつである原子力発電にかかわらしめていえば,その「難問中の難問」であった原子燃料サイクル事業は,その本当のところをいえば,「失敗に失敗を重ねてきた〈様相〉」を,われわれに直接くわしく伝達することを嫌がっていた。

 超難問でありつづけてきた原発関連事業としてこの原子燃料サイクルの実現に向けた努力が,あたかもなんら問題のない状況をもってこれまで経過してきたかのように,つまり,ごく表面的に,しかもできるだけ間違えてでも教えこもうとしている。

 だがすでに,再生可能エネルギー事業の展開であれば,それぞれの国々なりにその方途に向かい積極的に努力している。

 G7のなかでいえば,のちに話題に出るドイツは,2030年目標で再エネの比率を「少なくとも80%」に置いている。また,だいぶ以前に原発を廃絶していたイタリアは「70~72%」にその比率を示している。現在,原発が占める比率が世界で飛び抜けて高く70%台あるフランスでも,その2030年における再生可能エネルギーの目標比率を40%に据えている。

 ところが,日本におけるその再生可能エネルギーの目標比率は36~38%である。以前から原発を廃絶させていた国,イタリアの場合が「70~72%」である事実はみのがせない比率である。

     【参考解説】イタリアの原子力事情と原子力開発
 イタリアは今風にいえば,再生可能エネルギー以外の国内エネルギー資源が乏しい立地条件を踏まえ,1950年代から原子力発電開発に取り組み,1980年代初めには4基の発電炉,合計出力で1510万kWを建設した。

 しかし,原子力反対運動やチェルノブイリ事故(1986年4月)の影響を受け,1987年11月に原子力発電所の建設・運転に関する法律の廃止を求めた国民投票の結果,1990年まで核燃料サイクル関連施設を含むすべての原子力施設が閉鎖された。

 一方,閉鎖当初に計画していた火力発電所の建設は進まず,フランスとスイスから安価な電力の輸入を増大させた。また,総発電電力量の75%を石油と天然ガス火力に依存しているため,イタリアの電気料金はEU内でも高い水準で推移していた。

 2003年には電力の供給不足で輪番停電が発生し,2003年9月28日,国外との高圧送電線がすべて遮断される大停電となり,電力供給体制の脆弱性が露呈された。政府は原子力開発を含めた早急な電源開発促進政策を進めた。

 だが,2011年3月に発生した東電福島第1発電所事故を機に,原子力反対運動が顕著となり,2011年6月におこなわれた国民投票の結果,再度国内原子力開発を断念することになった。
 註記)『国立研究開発法人日本原子力研究開発機構』https://atomica.jaea.go.jp/data/detail/dat_detail_14-05-14-01.html 参照。

イタリアの原発事情

 日本は2011年「3・11」後,原発の比率が10%を超えた記録がない。それ以前は原発の比率は30%ぐらいまで伸びたこともある。しかし,前段のごとき外国の実例に比較・考慮すれば,原発の比率を2030年に22~20%にまで増やしたいとする計画は,それほど原発に執着しているかを物語っている。

 今後に向けて原発のその比率を,このように現状の倍(以上)にまで増やそうとするその意向は,再生可能エネルギーの拡大を妨害ないしは抑制するためにしかなりえない。

 原発の存在は現に,日本の大手電力会社における再生可能エネルギーの活用を抑制・妨害する基因になっているだけでなく,国家全体における再生可能エネルギーの導入・進展を,いまだに抑制・阻害している「最中」にある。


 ※-2 原子燃料サイクルとは-電気事業連合会のいいぶん-

 原子力発電で一度使ったウラン燃料(使用済燃料)は,再処理することで,もう一度原子力発電の燃料としてリサイクルできます。ウラン資源を再利用すれば,エネルギーを長期にわたり安定供給することができる。

 発電後の使用済燃料のなかには,核分裂していないウランや,原子炉内で生まれたプルトニウムが含まれている。これらは再処理して取り出し,燃料として再利用すること,つまりリサイクルすることができる。ウラン燃料をリサイクルして利用する一連の流れを「原子燃料サイクル」という。

 【参考画像】-電気事業連合会ホームページから-

原子燃料サイクル図解

 補注)この電事連(電気事業連合会)「広告:CM」のいいぶんは,最近であったが,インターネットに意見広告として4月1日から開始されたと思われる「前掲した動画」によって,「いかにも,そしてもっともらしく原子燃料サイクル(核燃料サイクル,高速増殖炉の本格的稼働)」の必要性を説明していた。

 しかし,このCMが語る内容はすでに「失敗の連続」でしかなかった原子燃料サイクル(核燃料サイクルとか高速増殖炉とかいった用語は使用されておらず後景に退いている点がやや奇妙だが)の目的・使途を,異様にまでもちあげる文句を,この動画のなかに登場する人物たちに語らせている。

 その人物たちは主にその関連施設で働く従業員であるが,いかにも大切なエネルギーの問題に関与する仕事を遂行しているかを,各員に誇り高く語らせる構成になっている。

東海大学工学部准教授・浅沼徳子

 このCM動画のなかに部外者である大学教員が登場する。その人は東海大学工学部准教授浅沼徳子である。専攻する研究領域である応用化学,原子力工学は,所属する大学工学部のホームページに,つぎのように記述されている。

            ◆ 研究内容 ◆
     使用済み核燃料をリサイクルするための分離化学

 原子力発電所から取り出された核燃料は,いわゆる「使用済み」と呼ばれますが,その大部分がリサイクル可能な核燃料で占められています。

 原子力エネルギーを持続可能なエネルギー資源の一つとして有効活用するためには,使用済み核燃料からリサイクル可能なウランなどの元素を回収し,廃棄物となる元素を分離して安定化する必要があります。

 分離すべき数十種類の元素それぞれの特性に応じた化学的分離の研究をおこなっています。

 補注)この説明部分に相当する,電事連広告「原子燃料サイクルの仕組み」における浅沼徳子の発言箇所は,前掲のユーチューブ動画では 0.33分あたりからとなっている。

 しかし,その内容は肝心な箇所で,「論理のすり替え」に相当する「説明にならない説明」がほとんどである。ある意味,原子力ムラ構成員からの発言として,いつものように陳腐なお決まりの文句が反復されていた。

東海大学工学部准教授浅沼徳子

 浅沼徳子の紹介のあとは,「原子燃料サイクル」に関する電気事業連合会自身の説明を紹介しておきたい。

 a) 原子燃料サイクルのメリット
 原子燃料サイクルは,原子力発電の特長を生かすものであり,エネルギー基本計画では,「資源の有効利用」「高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度の低減」などの観点から,使用済燃料を再処理し,回収されるプルトニウムなどを有効利用する原子燃料サイクルの推進を基本的方針としています。

 b) 原子燃料の濃縮・加工
 天然のウランには日本にある原子力発電所で燃料として利用できる「ウラン235」が 0.7%程度しか含まれていません。このため天然ウランを濃縮し「ウラン235」の濃度を3~5%まで高めた濃縮ウランを原子力発電所の燃料として使用しています。

 c) 原子燃料の再処理
 使用済燃料からエネルギー資源として再利用できる物質を取り出す「再処理」によって,ウラン燃料のリサイクルは初めて実現します。

 d) 日本原燃の原子燃料サイクル施設
 日本では日本原燃(株)が主体となり,青森県六ヶ所村において原子燃料サイクル施設(ウラン濃縮工場,再処理工場,低レベル放射性廃棄物埋設センター,高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター)の建設・操業を進めています。
 註記)以上,『電気事業連合会』ホームページ,https://www.fepc.or.jp/nuclear/cycle/about/index.html 
 

 ※-3 坂本龍一の警鐘

  「坂本龍一さん『知らないということは死につながる』 原発への警鐘,3・11前から 再処理工場の問題訴え続け」という見出しの記事が,『毎日新聞』2023年4月11日夕刊に掲載されていた。この記事は全文で 1598文字であるが,冒頭から1000文字ほど引用する。

 「まず知るということが大切。知らないということ,無知ということは,死を意味するというか,死につながる」

 〔2023年〕3月28日に死去した作曲家の坂本龍一さんは脱原発に向けた活動でもしられるが,それは2011年の東京電力福島第1原発事故がきっかけではなかった。

 それよりもずっと前から,坂本さんは原子力施設が抱えるリスクや核廃棄物処理のむずしさなどの問題を見抜き,音楽や言論を通じて人びとに訴えつづけていた。

 冒頭の言葉は2007年に出版した『ロッカショ 2万4000年後の地球へのメッセージ』(講談社)に坂本さんが記したものだ。

 「ロッカショ」とは大手電力会社が青森県六ケ所村で完成をめざす使用済み核燃料再処理工場のことだ。

 補注)※-1の記述中では「原子燃料サイクル」と称されていたが,ここでは「使用済み核燃料……」だと表現されている。この点には注意が必要である。

 前段に登場した東海大学工学部教員の浅沼徳子は,この「使用済み核燃料」を「原子燃料サイクル」と表現しつつ,前段に紹介した広告動画「原子燃料サイクルの確立に向けて」なかでは,以下に切り出してみた場面(コマ,0分54秒付近)で,漠然と「燃料として使えるもの」という発言をしていた。

 この場面で浅沼徳子がこのように「燃料として使えるもの:95%」だという発言は,具体的になにを指していわれたものか分かりにくい。この95%が再利用できる核燃料の対象部分になるという説明だとしても,使用済み燃料に関する話としてはまだ,その実質的な中身が把握しにくい。

「燃料として使えるもの」95%

〔記事に戻る→〕  原発で使用した核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し,再び原発で使う「核燃料サイクル」の中核施設として,大手電力が出資する日本原燃が1993年に着工。当初は1997年に完成する予定だったが,トラブル続きで迷走し,30年たったいまも完成していない。

 同書のサブタイトルの「2万4000年」とは,再処理して取り出すプルトニウムの半減期だ。そんな長期にわたり管理が必要な核物質をなぜ利用する必要があるのか。再処理工場が稼働した場合,環境への影響はどうなるのか。同書はさまざまな疑問を投げかけた。

 2006年に六ケ所村の再処理工場で,実際に使用済み核燃料を使った試験がおこなわれることになり,サーファーなどを中心に稼働中止を求める声が上がった。

 以前からエネルギーや環境問題に深い関心を寄せていた坂本さんは,アーティスト仲間を中心に「ストップ・ロッカショ」というサイトを立ち上げ,原発や核燃料サイクルの抱える問題点をアート作品とともに訴えた。

 「ロッカショ 2万4000年後の地球へのメッセージ」は,ロックミュージシャンの SUGIZO さんらが中心となって,それらの活動をまとめたものだ。再処理工場が操業した場合の環境影響や事故が起きた場合の被害などについても触れている。

 坂本さんは「問題なのは,ほとんどの人がこの事実をいらないということです」と語っている。
 
 ★「原子力ムラ」から抗議 ★

 この本には当時,原発を推進する「原子力ムラ」から抗議があった。元東電副社長や元東芝原子力事業部長らで組織する「エネルギー戦略研究会」の有志は2008年3月,出版元の講談社に「事実を無視し,国民に再処理工場反対を呼びかけようというセンセーショナルな出版物で,良識ある出版社としてはとうてい看過することはできない」などと抗議した。(引用終わり)

 というしだいで,坂本龍一が発信した原発問題全般にかかわる警告に対してはこのように,原子力ムラ側からは強烈な反感・非難がはね返ってきた。

 しかし,原子力ムラ側の作戦本部とでも呼称されるべき電事連という連合的な組織体制,この幹部たちは,つぎに紹介する「河野太郎の原発反対論」に反駁できる論理の「なにもの」も有していない。2014年12月時点における河野の見解であったが,※-3に該当する記述を全部引用しておく。

 少し長文の引用となるが,これを読んだあとできれば,最初にとりあげた電事連の「広告:ユーチューブ動画CM」(2023年4月放映中)を,じっくり視聴しなおしてほしいところと思う。

 電事連のその広告CMは,つぎに紹介する河野太郎の議論が徹底的に批判し,論破していた「核燃料サイクル(=原子燃料サイクル)の成立不可能性」を,しってかしらぬか,完全にオトボケの空間・舞台で語っている。

 以下の文章はすでに8年以上も前のものであった。しかし,それにしても事実,原子燃料サイクルの本格的な操業,いうなれば,商用化という次元で実現させえたその事例は,いままでひとつもない。 
 

 ※-4「なぜ核燃料サイクルはできないのか」『衆議院議員 河野太郎公式サイト』https://www.taro.org/2014/12/post_14-2.php

 政府・与党が議論しているエネルギー基本計画の政府案には,核燃料サイクルを推進するなどというとんでもないことが書かれています。

 しかし,核燃料サイクルは,現状では進めようとしても進められないのが現実です。

 なぜ,核燃料サイクルを進められないのか,ひろく大勢の皆様と問題意識を共有していきたいと思います。

 a) 本音と建前の乖離
 まず,なぜ経産省と電力会社は,破綻しているのが明白な核燃料サイクルを強引に進めようとしているのでしょうか。

 電力会社はこれまで立地自治体に対して,使用済み核燃料は原発敷地内のプールで一時的に冷却保管するが,一定の時間が来れば青森県の再処理工場に搬出するので,使用済み核燃料は立地自治体には残らないという約束をしてきました。

 一方,再処理工場がある青森県は,使用済み核燃料は,再処理の原材料であるという位置づけで県内への搬入を認めてきました。

 もし,再処理をやらないことになると,使用済み核燃料はただの核のゴミになってしまいます。そうなると国,電力会社と青森県との約束で,電力会社は使用済み核燃料を青森県からもち出さなくてはならなくなります。

 もち出した使用済み核燃料を原発の立地自治体に保管するためにはこれまでの地元との合意の枠組みを作りなおす必要がありますが,電力会社は,それをしたくないし,それができるとは思っていません。

 しかも現実には,再処理工場が問題だらけで稼働でないため,再処理工場にある原材料プールはすでに満杯になり,これ以上再処理工場向けに搬出はできません。使用済み核燃料の中間貯蔵施設も,結局,青森県のむつ市にしか建設することができませんでした。

 この状況では,青森県から使用済み核燃料をもち出してももっていくところがないのが現実です。そのため,経産省と電力会社は,再処理の継続を明言し,使用済み核燃料の問題を先送りする道を選びつづけてきました。

 しかし,そのために莫大なコストを支払って再処理を進める,あるいはすすめるふりをしなければなりません。使用済み核燃料の問題と向き合わないために核燃料サイクルを進めるという馬鹿なことはやめるべきではないでしょうか。

 使用済み核燃料の中間貯蔵,最終処分について,逃げずに真正面から徹底的な議論・合意形成を進めることが必要です。そのためには,再処理ありきの議論ではなく,再処理を白紙にした場合の議論が必要です。

 原発に関する国民的議論が高まるなかで,「使用済み核燃料の搬出先がないから核燃料サイクルを動かす」という本末転倒の論理は通用しません。

 b) 当初の目的の消滅・プルサーマルの無意味さ
 そもそも核燃料サイクルは,高速増殖炉によるプルトニウム燃料の増産が目的でした。その実現が困難となったいま,核燃料サイクルを継続する意義はありません。

 高速増殖炉が実用化されるいみこみがなくなるなかで,経産省はプルトニウムをウランと混ぜたMOX燃料を作り,それを普通の原子炉で燃やすプルサーマルを推進する方向に転換しました。しかし,問題だらけです。

 まず,ウラン燃料を燃やしてできる使用済み核燃料を再処理しても再利用できるのはプルトニウム1%とプルトニウムとともに回収される回収ウラン1%の合計2%にすぎません。残りの回収ウランは不純物が多く,そのままでは再利用できません。

 不純物の混ざった回収ウランを燃料にするためには再転換,濃縮,転換,成型加工のプロセスが必要ですが,日本にはそのための転換工場がないため,回収ウランから燃料を製造できません。

 現状では,再処理で回収されたウランは貯蔵しておくしかないのです。

 再処理して取り出した1%のプルトニウムと1%の回収ウランにしても,それからMOX燃料をつくるために,新しい劣化ウランを混ぜて濃度の調整することが必要になります。ですからほとんどウランのリサイクルにはならないのです。

 それでも新しい劣化ウランを混ぜてMOX燃料をつくったとしましょう。このMOX燃料を燃やすと,ウラン燃料と同じように使用済み核燃料になります。しかし,その使用済みMOX燃料は,プルトニウムの濃度が高く,臨界の危険性などから,六ヶ所では再処理できません。

 使用済みMOX燃料は,使用済み核燃料と比べ発熱量が大きく,取り扱いも困難であり,必要となる貯蔵施設,処分施設の面積は大きくなります。

 新品のウラン燃料を燃やしてできた使用済ウラン燃料に含まれる核分裂性プルトニウムはプルトニウム全量のうち67%ですが,それが使用済みMOX燃料の場合は約60%にまで低下します。

 MOX燃料として使うためには核分裂性プルトニウムがプルトニウム全体の60%程度含まれていることが必要です。それを考えると,もし仮に使用済みMOX燃料を再処理しても,新しいプルトニウムをくわえなければ燃料を作ることはできません。

 ですから核燃料サイクルといってもそのまま燃料のリサイクルが可能なのはせいぜい2回までで,無限にサイクルがつづくわけではありません。そのために二ケタの兆円のお金を使うならば,ウラン鉱山を買ってしまったほうが安上がりです。

 もうひとつ大事なことは,使用済み核燃料は放射能が強くとりあつかいが困難で,テロリストがむやみに使づくことはできません。しかし,再処理して取り出されるウラン・プルトニウム混合物はプルトニウムの取出しが容易であり,核不拡散に逆行します。

 c) コスト高
 再処理すれば,原子力の発電コストに加え,1.6円/kWhの追加コストが発生し,電力会社や消費者の負担が増加します。さらに廃棄物の最終処分で比べても,再処理は,直接処分と比べてもコスト高であることは明らかです。

 d) 核不拡散
 高速増殖炉が実現せず,プルサーマルも進展しないなか,再処理で抽出されるプルトニウムの使いみちがありません。使用目的のないプルトニウムの抽出については国際的な理解をえられません。日本が再処理を継続することが,韓国やブラジルなどの再処理意欲を刺激しているのが現実です。

 e) 供給安定性
 ウランの可採埋蔵量は当初の想定よりも多いとみられ,供給元もカナダ,豪州など多様です。仮に供給安定性を図るなら,ウランの備蓄のほうが安価で合理的です。

 f) 環境負荷
 再処理をすれば,高レベル放射性廃棄物の体積は減容されるものの,再処理の過程で直接処分では存在すらしないTRU廃棄物が大量に発生し,さらに低レベル放射性廃棄物も莫大になります。

 補注)TRU廃棄物とは,ウランより重い放射性物質を含む,半減期が長い低レベル放射性廃棄物を指す。

 再処理工場の廃止に伴う廃棄物の発生量まで合計すれば,廃棄物体積は4~5倍になります。再処理をおこなうと非常に高濃度の放射性物質が放出されます。沖合にある放出口が周辺監視区域に指定され,モニタリングされる担保が必要です。

 g) 耐震性
 六ヶ所村の再処理施設は450ガルの揺れを前提に建設された施設ですが,試運転により施設内部はすでに汚染されており,追加的な耐震補強は不可能です。

 h) 稼働の実現可能性
 六ヶ所の再処理施設については,事故・故障が続き,完成予定時期の延期はこれまでに19回にも及んでおり,順調な稼働はみこまれません。

 i) 将来的な技術展望
 高速増殖炉が実現不可能ななかで,核燃料サイクルを推進することは無意味であり,限られた資源を集中するべき研究は核種転換や除染,廃炉のはずです。
 
 これでも本当に核燃料サイクルやりますか?


 ※-5「独,『脱原発』達成へ 残り3基の稼働停止」『毎日新聞』2023年4月15日朝刊2面,https://mainichi.jp/articles/20230415/ddm/002/030/099000c

 ドイツで稼働中の最後の原子力発電所3基が〔4月〕15日に停止する。ロシアによるウクライナ侵攻の影響で一時的に延期された「脱原発」が完了し,60年以上続いたドイツの原発の歴史に幕が下りる。

 ドイツではメルケル前政権が2011年,東京電力福島第1原発事故を受けて2022年末までの「脱原発」を決め,当時17基あった原発の稼働を順次,止めてきた。

 並行して気候変動対策として「脱石炭火力」も進め,発電量に占める原発と化石燃料の割合がそれぞれ2010年の23%と60%から,2020年は11%と44%に低下。風力を中心とする再生可能エネルギーが17%から45%に増えた。

 補注)ドイツのメルケル前首相は,原発の廃絶を考えていなかった国家指導者であったが,日本の「3・11」をみせつけられ,原発の全廃を決断した。

 一方の日本はとみれば,「世襲3代目の政治屋」の「ボンボン政治家」が,これまでの方針を転換せずに,さらに「原発の新増設」を決めていた。いまの日本の首相は,広島県広島市を自分の選挙区とする岸田文雄である。同じ敗戦国の首相同士であっても,もともと「月とすっぽん」。

 一方,再生エネが普及するまでのつなぎ役として頼った天然ガスは,パイプラインによるロシア産が一時,総輸入量の5割以上を占めていた。だが,ロシアによる2022年のウクライナ侵攻で,主要7カ国(G7)がエネルギー分野での経済制裁を強めると,ロシアは主要パイプライン「ノルド・ストリーム」経由の供給を削減し,同年8月末からは停止した。

 ドイツ政府は侵攻直後から,ロシア産エネルギーを段階的に他国産の液化天然ガス(LNG)などへと切り替える方針を決めた。だが準備が追いつかず,政府は稼働を停止した石炭火力発電所も使えるように法を整備。残った3基の原子炉について,今年4月までの稼働延長を決めていた。(引用終わり)

 原発で使用する核燃料は,チェルノブイリ原発事故(1986年4月)および東電福島第1原発事故(2011年3月)によってもあらためて明らかになっていたように,ほかの発電方式とは決定的に異質の物理化学的な特徴を有する。とりわけ,地球環境を破壊する危険物としてみるに,超一級の害悪性を発揮する。それゆえにこそ《悪魔の火》と呼ぶべきゆえんがあった。

 この《悪魔の火》を原子燃料サイクルの仕組みによって拡大再生産させようとした試図は,神(魔神!)をも恐れない「人間・人類」どもによる,この地球環境の破壊行為にしかなっていなかった。

 そのさい,地球環境の破壊はもちろん,同時にまた「人間・人類の生命体としての存在」に対する殺傷を惹起させてきた。『原爆』が人間・人類の殺傷を目的に製造された兵器である点は,説明の用もあるまい。

 ところが,その応用技術であった原発という装置・機械も,いったん事故を起こしたりしたら,その出自の本性が剥き出しになる。戦争でもないのに戦争の騒ぎが巻き起こる。

 本日もつぎの文書を挙げておこう。まだ解除されていない宣言である。

原子力緊急事態宣言,2011年3月11日

 また「原子力資料情報室」の関連する記事も紹介しておく。この内容だと,一番最初に参照・紹介してもよかったが,あえて最後の段落で紹介することにした。

 また現段階の日本において,原発体制が国家次元でどのような位置を占めるのか若干の言及であるが触れていて,また,日本全体の窮状のなかで核燃料サイクル(原子燃料サイクル)にこだわる「愚かさ」を示唆する経済学者金子 勝の,時評的な発言のあるネット記事(もとはラジオ番組の放送だが)も紹介しておきたい。

【参考記事追加】-2023年4月17日-

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