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2023年8月『日本経済新聞』と『毎日新聞』の世論調査を介して考える処理水(処理された汚染水)の深刻な問題

 2023年のこの8月下旬に実施された,日本財界新聞の『日本経済新聞』と日本市民新聞の『毎日新聞』それぞれの,世論調査結果に観る人びとの原発事故「事後」観には「天地の差」(?)があった。この差をめぐって本日の記述がおこなわれる。
 付記)冒頭の画像資料は,現代書館,2006年発行から借りた。

 ※-1 2023年8月『日本経済新聞』と『毎日新聞』の世論調査

 本日,2023年8月28日の朝,配達された購読紙,『日本経済新聞』と『毎日新聞』の朝刊は両紙ともに,この下旬に実施した世論調査の結果を記事にとりあげ報告していた。しかし,今月のこの2紙の世論調査結果に接してみるに,双方にあっては,イデオロギー的な相違が明確に観取できる「報道の形式と内容」になっていた。

 まず『日本経済新聞』1面と『毎日新聞』1面の現物を画像資料にして紹介しておくのが比較・検討のために便宜である。

『日本経済新聞』は処理水への「理解」を強調

『毎日新聞』は処理水の説明不十分を強調

 a) 内閣支持率は『日本経済新聞』の42%に対して『毎日新聞』の26%で,16%の相違。

 b) 政党支持率は自民党に対するそれが『日本経済新聞』が38%で,『毎日新聞』が25%。

 c) b) は「青木の法則」にしたがえば,

 『日本経済新聞』の「内閣支持率42%プラス政党支持率38%=80%」が,

 『毎日新聞』のほうになると「内閣支持率26%プラス25%=51%」となっていたから,

 『毎日新聞』の世論調査に即していえば,岸田文雄政権はかなりフラフラ状態の寸前であり,つまり,この合計が50%を下まわると危険水域だという考え方を採れば,この政権は現在すでに,かなりあやしい雲行きだという解釈ができることになる。

 岸田文雄は以前から解散をしたがっていた。だが,木原誠二官房副長官が配偶者関連の疑惑事件を抱えており,関連して『週刊文春』が毎週報道してきた特集的な記事の連発もあって,解散できずじまいだったという観方がなされている。

 それにしてもこの岸田政権は,一国の最高指導者として最低限もつべき資質や能力,哲学そのものに関していえば,基本から疑念を強く感じさせてきた。すなわち,単なる「世襲3代目の政治屋」であった特徴が,いまとなっては否応なしに暴露されている。

 万事において「やること・なすことのいちいち」が,庶民感覚とはかけ離れていた。というか,世相の実情からは隔絶した世界観〔というものがあればだが〕,いいかえれば,われわれの生活感覚と交わりうる場面が求めにくかったこの「世襲3代目の政治屋」は,安倍晋三よりもさらにまずいことには,この日本の凋落度合に拍車をかける為政を展開してきた。

 そのさい格別に問題とすべき点が岸田文雄にはあって,それは,当人が備えていると想像してみたい「政治〈家〉としての『哲学・信条・理想』」に相当するものが,実は,この首相からはいっさい伝わってこない。多分,それらに相当する中身が,この首相にはなにもなかったとしか表現できなかった。
 
 「世襲3代目の政治屋」に共通する「政治家(?)としての特徴」は,首相になることであり,この「双六の上がり」になった状態そのものにしか関心⇒欲望をみいだせいまま,実際に国家の最高指導者になってしまったからには,その地位を保持することだけが至上目的になっていた。それゆえ,それ以上に「国家百年の計」の配慮とでもいうべき,首相になる人間であれば誰もが抱負としてもっているはずの「政治家としての人間的な雰囲気」も,全然伝わってこなかった。

 d) 処理水(正確には「処理された汚染水」のことであるが,日本でしか使わないマヤカシの用語)について,前段で触れた『日本経済新聞』世論調査のほうは「処理水放出に『理解』67%」であるが,『毎日新聞』のほうは「処理水放出 政府・東電 説明『不十分』60%」というふうに,

 『日本経済新聞』は処理水の問題に関して,われわれ側が「だいぶ理解していた」という方向で,今回の世論調査の見出しをかかげているの対して,『毎日新聞』は「政府・東電」の「説明『不十分』」という見出しをかかげており,この両紙の説明が狙おうしていたところには,それぞれなりに新聞社の立ち位置がまさしく「価値観」的に反映されていた。

 いうまでもない点であるが,『日本経済新聞』は原発再稼働・推進派であり,岸田文雄が謳った原発の新増設を歓迎する日経新聞社が発行する新聞紙であった。

 また,処理水関連の質問については,両紙ともにの回答項目のなかに「分からない」という回答の選択肢制も用意していたとはいえ,そこに表現として充てられていた用語・用法そのものの違いに注意を向けたうえで,あえて指摘するとしたら,

 『日本経済新聞』は「理解67%」
 『毎日新聞』は「不十分60%」

と表記していて,だいたいの目加減での判断をすることになるが,正反対の回答であった。

 処理水(とはいってもその実体はまだ汚染水に違いないはずだが)に関する国民・市民・庶民側の認識でいえば,いかほどにそのとくにトリチウムの理化学的な特性や,そしてその「いちおうは処理水」だという「本当は汚染水」のなかに含まれているその「トリチウム」のほかにも,まだ「セシウム137,ストロンチウム90,ヨウ素などの放射性物質」が含まれている事実をどれほど科学的に基礎から理解しえたうえで,世論調査に答えていたかといえば,この点はほとんどおぼつかなかった。

 原子力村側はともかく,専用装置(ALPS)でも取り除けない「それらの放射性核種入り」の処理水について,どのように説明しているのか?

 中心の話題となっていたトリチウムについては,ひとまず,摂取量によっては血球成分の減少などの影響を人体に与えることはしられている。世界各国の原子力施設では,人体や環境に影響がない程度まで希釈したうえで,処理水を海洋など自然界に放出していると説明してはいるが,これには重大な異論があって,完全に科学的な裏付けを有した主張ではない。

 また,ALPSでも除去できなかった前段で触れたごときの放射性各核種は,東電福島第1原発が事故現場からこれからも流出させつづけていくそれらであるにもかかわらず,トリチウムと同然に薄めて太平洋に放出(流出・排出)するから大丈夫だというふうに,科学的というには半知性の苦しい説明,換言すると紛らわしいいいわけに終始していた。
 

 ※-2 小出裕章の指摘

 小出裕章は『フクシマ事故と東京オリンピック【7ヵ国語対応】 The disaster in Fukushima and the 2020 Tokyo Olympics』という本を,2019年12月に径書房から公刊していた。本書は,東京でオリンピックが開催を予定される日程を意識して制作・発行されていた。この意図に関連させて小出は,『東京新聞』の質問に答えるかたちで,2020年6月30日の記事でこう「反原発の立場」を主張していた。

 その前に小出裕章の人物紹介を挟んでおきたい。

 「こいで・ひろあき」は1949年東京都台東区生まれ,東北大大学院工学研究科修士課程修了(原子核工学)後,京都大原子炉実験所(現・複合原子力科学研究所)に入所。以後41年にわたり助教を務め,原子力の危険性を世に問う研究に取り組み,2015年に定年退職。現在は長野県松本市で,太陽光発電や野菜の自家栽培による自給自足の生活を送る。

小出裕章・略歴

  ★「五輪で福島を忘れさせようと…原子力緊急事態は今も」
               小出裕章さんに聞く ★
 =『東京新聞』2020年6月30日 14時00分,https://www.tokyo-np.co.jp/article/38847 = 

 東京電力福島第1原発で溜まりつづける放射性物質トリチウムを含む水の海洋放出に向けた手続きが進められている。経済産業省は〔2020年6月〕30日,消費者団体などから意見聴取する。福島第1の事故前から原発の危険性を唱えていた京都大原子炉実験所(現・複合原子力科学研究所)元助教の小出裕章さん(70歳)にどう考えるかを聞いた。 

 ◆-1 海洋放出は間違い

 処理水をめぐって政府の小委員会は〔2020年〕2月に「海洋放出が確実」と提言。政府は各種団体や福島県内の首長らから意見を聞いている。

 人間に放射能を無毒化する力はないと認めねばならない。自然にもその力はない。自然に浄化作用がないものを環境に捨てるのは間違っている。

 ―-政府や東電はなぜ,海洋放出にこだわると思うか。

 1~3号機の溶けた炉心から出たトリチウムは200トン。事故がなければ,青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場から海に捨てるはずだったものだ。

 核燃料サイクル計画では,もともと毎年800トンのトリチウムを六ケ所村で流す予定だった。福島の200トンで大騒ぎしていたら,日本の原子力の総体が動かなくなる。彼らにとっては海洋放出以外の選択肢は絶対にないのだろう。

補注)われわれはよくしらなかったが,使用済み核燃料再処理工場からは桁違いに膨大なトリチウムが放出される予定になっていた。

つぎの統計図表2点は「海産生物と放射性物質-世界の海で放出されるトリチウム-」『MERI NEWS』2013年7月,https://www.kaiseiken.or.jp/study/lib/news119kaisetu.pdf から引用するものである。このうち後者の図表には東電福島第1原発事故現場から発生している放射性物質の核種も列記されている。

原発から拡散される有害物質

〔記事に戻る ↓ 〕

 ◆-2 原子力村の常とう手段

 東京五輪が来年〔2021年〕に延期になっ〔てい〕た。これまで,福島の事故が収束しないなかでの開催を〔小出裕章は〕批判してきた。

 2011年3月11日に発令された「原子力緊急事態宣言」は,いまも〔まだ〕解除されていない。強制避難させられた地域の外側にも,本来なら放射線管理区域にしなければいけない汚染地帯が残る。

いまだに真っ赤な地域が残る
震災後12年半近くが経つ
しかし,この図解には表出されない残存する放射性物質が
まだ大量にとくに森林の奥には堆積されている
ヒロシマやナガサキの原爆被害と比較してみればいい

〔記事に戻る→〕 不都合なことを忘れさせようとする時,昔から取られてきた手段は,お祭り騒ぎに人々を引きずりこむことだ。原子力ムラにとって,それが東京五輪なのだろう。福島を忘れさせるための五輪の利用には徹底的に抵抗していく。

 ◆-3 延長せず40年でやめるのが賢明

 日本原子力発電東海第2原発(茨城県東海村)は原則40年の運転期間の延長が認められ,再稼働に向けた動きが進む。

 古い原発で相対的に危険が多いのは争えない事実だ。ポンプや配管などの部品は不具合があれば取りかえられるが,原子炉圧力容器だけは交換できない。その寿命は40年くらいだろうということで始めているのだから,40年でやめるのが賢明な選択だ。(引用終わり)

 最後に,岸田文雄政権のもとでいまでは規定方針にされているが,「原発稼働期間の延長」については,「実際に稼働していた期間だけにかぎってその時間を積算したかたちでもって,『その稼働期間』として計上せよ」といったごとき,とんでもない非常識の非合理な条件を付したうえで,その延長期間を60年まで認めた原発の稼働方法は,「機械工学上,材料工学や信頼性工学の見地」に照らしていっても,しかも安全管理面で評価するとしたら冒険そのものであり,科学的観点からは逸脱=脱法そのものであった。

 観光用として,JRや地方の鉄道会社が大昔の蒸気機関車を,動態保存のものはともかく,静態保存されたそのSLまで引っぱり出し,全面的な補修・改修(ある意味では新造に近いほどに手入れを)をくわえたうえで営業用に運用するのとはわけが違う。

 原発は,40年もすでに稼働させていれば(定期点検のために休止していた期間も含めての話となるのは当然で),とくに配管関係は日常的に管理・補修していなければボロボロでふん詰まり状態になっていたことは常識に属する理解である。

 そしてそのさい,原子炉本体の困難な維持・管理にはほとんど触れないで,なんとしてでもなるべく長期に原発を動かすことばかり考えている。採算上はそれでも有利になっていくことは確かでも,事故を起こす危険性(可能性)が逆比例的に高まっていくのは,当然かつ必然である。

 原発以外の装置・機械でもそのような稼働(運用)の仕方はしないのに,原発になるとなぜか,デタラメに特別あつかいをする。各大手の電力会社は原発を3割ほど電源に利用していた「3・11」以前の時期であっても,これら原発が全部停止状態になっても,電力需要そのものはなんとか賄えるほど火力電源などは保有していた。

 東電は事故を起こしたあと,休止させていた火力発電所を「再」稼働させるために必死で手当していた。逆にいえば,原発を稼働させるためであれば,それまで現有であって稼働させえていた火力をわざわざ休止状態に措置していた。

 それに「3・11」以後は,電力需給の「1日24時間の経過曲線」においてその需要水準が最高(頂点)になるのは,電力需要の高まる時期であっても午後2時前後やあるいは夕食にかかる時間帯だとかである事実は判りきっているゆえ,節電の方法を工夫してもらえれば,電力供給の水準(最高のそれ)は相当に抑えることができる。

 そのあたりの問題が,原発という電力の需給関係に対する弾力性という肝心な条件では,まったく木偶の坊でしかない,この機械・装置の稼働ばかりを最優先させてきたのは,なんといっても,そうしたほうが儲かるという事情があったからである。

 以前は,地域独占・総括原価方式によって,国家側に「オンブに抱っこされていた」巨大企業であった「地域ごとの電力会社」は,なるべく設備投資そのものをわざと大規模化する電源方式を好んでいたゆえ,当然のこと原発の導入を積極的に推進してきた。

 しかし,東電福島第1原発事故以降,現在まで経っても依然,10%以上の電源比率に達していないのが原発(原子力という電源)である。これを2030年時点で「22%-20%」にまで挙げたいという経済産業省のもくろみは,反面で再生可能エネルギーの導入・活用を絶対的に阻止しようとするものだとまで非難されて,なにもおかしくはない。

 また,トリチウムの有害性などなにもないかのように主張する政府側の見解も完全に間違えている。虚偽である。まだその有害性は解明されていないどころか,トリチウムの人体に与える毒性はすでに研究者たちによって説明されている。ただ,その事実を原子力村は必死になって耳を塞いでいたに過ぎない。

【参考動画】-トリチウムの有害性は無視できない-

 

 ※-3 核燃料サイクルの工場が実際に稼働してきたイギリスのセラフィールドで起きた出来事については,たとえば秋元健治『核燃料サイクルの闇-イギリス・セラフィールドからの報告-』現代書館,2006年があり,つぎのように読まれてもいた

 日本の「六ヶ所村の未来をイギリス・セラフィールドにみる」という書き出しから始まる感想文があった。関連する2文を紹介しておく。

 20世紀後半,日本から核燃料再処理を1 / 4ほども受け入れてきたセラフィールド。1957年に起きたウィンズケール・ファイアーという世界初の原子炉重大事故,これは軍事機密も含むということで,時の政権に “政府機密30年法” で長らく公開されなかった。そしていまなお,高線量は解体作業をむずかしくしている。日本の今後にいろいろ参考になりそうなお話しです。

 この1冊でセラフィールドの歴史が分かる。軍事用原発のなりたちから,使用済み核燃料再処理工場にまつわる住民と政府,企業とのいさかい,ウィンズケールファイアーと呼ばれる軍事用プルトニウム炉の火災事故時の住民への情報隠し,放射性廃液の海洋リーク,時間が経つにつれて徐々に発症する白血病,癌,放射能被曝の因果関係を証明できないゆえに苦しむ住民,それでも事故以降,世界中から使用済み核燃料を受け入れる…….。

 この本を読んでの率直な感想。イギリス政府がこれほどまでに情報隠しをしているとは思わなかった。

ということであり,日本の核燃料サイクル施設はいまだに稼働すらできないままに置かれている。しかし,つぎのよう分類されるシナリオのなかでも,まだまだその稼働が実現していない方針(シナリオ1のこと)を維持しようとしてきた。

 シナリオ1「全量再処理(現行路線)」
  使用済み核燃料は六ヶ所再処理施設で再処理をおこない,この処理能力を超えた分は中間貯蔵を経たうえで同じように再処理をおこなう。

 シナリオ2「部分再処理」
  使用済み核燃料は六ヶ所再処理施設で再処理をおこなう。処理能力を超えた分は中間貯蔵を経たうえでそのまま埋設して直接処分する。

 シナリオ3「全量直接処分(ワンススルー)」
  使用済み核燃料はすべて中間貯蔵を経たうえでそのまま埋設して直接処分する。アメリカ,ドイツ等で採用。

 シナリオ4「当面貯蔵」
  使用済み核燃料はすべて当面の間中間貯蔵する。

核燃料サイクルを失敗してきた日本

 だが,シナリオ1「全量再処理」を「現行路線」としてきた日本は,いまだに核燃料サイクル施設を現実に稼働させえていない。おそらく,これからも不可能でありつづける。それでもこだわっているとなれば,この国の原発路線はどうにかしているか,そうでなければなにかほかの底意があってのそのこだわりである。

 ここでは「一緒に考えよう 日本の核燃料サイクル」『原子力資料情報室』2023年改訂,https://cnic.jp/rep/ が,より客観的に概説しており,参考になる。

 原発のことを「トイレのないマンション」の併置を要求する電源だとはよくいわれてきた。だが,まさにそのネコババ方式でしか,使用済み核燃料を始末して(本当は一時的に隠して)おく方途しか採れないのであれば,この事実だけでも,原発がいかに有害無益な電力生産方式であるかは明々白々であった。

 ましてや,原発を再稼働させつづけることはすでに,再生可能エネルギーの導入・活用を大々的に妨害する基本要因になっていた。原発が単に有害だといわざるをえないのは,処理水(処理された汚染水)の問題だけにかかわるような,単純明快な事象ではなかった。

 ここまで議論をしてきたとなれば,東電福島第1原発事故現場から排出されつづけていく汚染水のことを,マヤカシ的に処理水だといいかえたところで,以上のごとき問題とは直接にはなんら関係のない暗い話題であった。

 次段のアマゾン通販の形式になるが,以上の議論に参考となる本を紹介しておきたい。

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