国際生物学オリンピックまでの道 ~第3回 代表選抜試験対策~

※今回の記事は、高3の夏に書いた内容を多く含みます。
 また、この記事に書かれた勉強法等はあくまでも個人の意見です。この資料に基づいた学習の結果に関して、筆者は一切の責任を負いかねます(n回目)。

はじめに

ここまで来た皆様、まずは本選参加お疲れ様でした。
この記事では代表を目指した、というより代表以降を見据えた対策を述べますが、実は私はこの段階でもう一つの大きな問いと向き合うべきだと思っています。
その内容に関しては、こちらのノート(未公開)にひっそりと置いておきます。


代表候補のアウトライン

自分がやったことは以下の4点です。

①キャンベル生物学を読む
②高校生物を地固めする
③別の勉強をする
④IBO理論試験の対策をする

自分は大まかに①②(1~2か月)→③→①②(2か月)→④(2週間)の順で行いました。③を挟んだのは自分が飽き性だからというのもキャンベルが重いからというのもありますが、キャンベルと高校生物だけでは研究者のお気持ちに迫れない/周囲と差がつけられないため、というのも重要な理由です。
③での学習は自分が周囲と差をつけられるポイントの獲得に繋がります。興味分野の軸が作れることは、進路を決める上でも役に立つと思います(高校生の本分は進路の検討と勉強です!)。

キャンベル生物学を読む

なんといってもこの本がIBOの出題スタンダード、そして世界の高校生物の標準書籍です。
この段階におけるキャンベル生物学の利用には賛否両論ありますが、以下に自分が考えるメリットとデメリットを述べます。

メリット:
◎生物学を体系的に理解できる
◎「科学スキル演習」や章末問題は良い問題集になる
◎読まないと知識問題(少数)で差をつけられる
◎読まないと出題範囲との過不足が生じやすい

デメリット:
△分量が多い
△演習不足を招きがち
△漫然と読んでも考察問題(多数)の実力はそこまで伸びない
△翻訳が冗長で読みにくい
△△持ち運べない

目次に目を通すのは大前提ですが、忙しい人は高校レベルの資料集で内容の学習を代用しましょう。

ただし、キャンベル生物学を読む人も読まない人も、生物学を高校生物より一歩踏み込んで理解すべきことに変わりはありません。 こうした 参考書 、過去問、一般書などを積極的に活用することは必要です。

『エッセンシャル・キャンベル生物学』は対策書としてお勧めしません。『スクエア最新図説生物』の方が余程キャンベル準拠で良著です(主観)。
確かに、持ち運べる本を併用する必要性は代表候補期間を通して切実ですが、折角併用するなら語り口の違う本にすることを強くお勧めします(過学習を防ぐことができるため)。

自分の読み方

①通読(代表候補1年目~2年目序盤)
②1週間に1部読み、概略を勉強会で発表する(合計8週間)
③過去問を解いてみて、知識不足を補う
(特に直前期はキャンベル内に掲載された実験の具体例を確認したり、本文中に軽く触れられた内容を他分野の文脈で深化させたりしていました)

②では1週間その分野のことをひたすら考え続けました。
典型題、高校範囲での補足、雑学の導入、主な手法と対象の確認、分野固有のお気持ち表現の探索…。すっかり様々な分野と友達になったと思います。
自分の場合は、この時に扱った題材がIBOの実験試験にまるまる1つ出題されるという幸運もありました。丁寧に考察した題材が多ければ多いほど当たりくじを引ける確率も上がるので、完全理解している題材はどんどん増やしましょう。

高校生物を地固めする


代表候補になったからすごい?世代の上位12人?
いいえ、そんなことはありません(人にもよりますが)。
うぬぼれている方は試しに、秋の東大模試でも京大模試でも受けてみてください。期待したような結果は残せるでしょうか?(残せる人もいます)

口を酸っぱくして言いますが、何をするにせよ代表を目指す上では高校生物のトピックを完全に理解することが大切です(少なくとも苦手を潰しましょう)。

どれぐらい完璧にすればいいかというと…

3ドメインの全てが言える?自然選択説を説明できる?ハーディ・ワインベルグ平衡の式と意味、成立条件は言える?分子系統樹は書ける?膜でできた細胞小器官には何がある?どんな細胞骨格が細胞内のどこに局在する?エネルギー代謝が本質的に酸化還元反応だということを理解している?様々な呼吸と光合成の様式を知っている?代謝の進化を系統と絡めて説明できる?遺伝様式を何種類挙げられる?遺伝計算はできる?転写と翻訳と複製はごっちゃになってない?各々の分子機構や速度感は想像できる?細胞周期と細胞の状態とDNA量の関係は分かる?体細胞分裂と減数分裂は説明できる?遺伝子発現の調節機構は描ける?オペロン説は説明できる?生オリ予選の遺伝パズルは正解できる?生理学のグラフは読める?ホルモンは知っている?各ホルモンについてフィードバックループが書ける?組織系と器官系は一通り書ける?胚葉と組織は対応している?ロジスティック成長モデルの式の各項が説明できる?k-戦略とr-戦略の違いが説明できる?種間相互作用の種類は?ロトカ・ヴォルデラモデルのグラフは読める?ボトムアップ制御とは?生態系内の物質流と、さまざまな生態系の特徴が説明できる?

例えばこれが全て明快に即答できるなら、弱くはないと思います。
ただ闇雲に学習すると高校生物を過学習しがちなので、IBO理論試験対策等と併せて必要な方向性を明確にしながら学習を進めることをお勧めします。

自分は先述の通り、代表候補2年目後期に「キャンベル生物学を1週間で1部読む」ということをしました。
このタイミングで高校範囲の資料集についても対応する単元を深堀りし、知識の抜けを補っていきました(生態学では「どうせ分かってる」と思ってサボったら本番で生態学に泣かされました)。

別の勉強をする

代表候補時代ほど広く浅い生物学への全振りを許される時間は、人生の中でもそう多くありません。しかし、あまりにも期間が長くて息切れを起こしやすいのも事実ですし、忙しい高校生が半年間も1つの活動に専念できるわけがありません。

そこで、特に年内は「他の本を読むこと」「興味分野を見つけること」の2点をお勧めします。
自分が生オリのために読んだ本は以下のようなラインナップです。
・高1
ー人体の一般書
ーアレルギーの一般書
ー認知科学の一般書
ー「ぜんぶ分かる 人体解剖図」
ー「13歳からの研究倫理入門」
ー科学コミュニケーション論の一般書
ー「普遍生物学」(読めてはいない)
・高2
ー「The Molecular Biology Of The Cell」(少しだけ)
ー「バイオインフォマティクス入門」
ー「生態学入門」
ー「記号論理学入門」
ーモノー「可能世界と現実世界」
ー内田樹「寝ながら学べる構造主義」
ここまで読んでようやく飽きが来なかったな、という感触です。
また、選んだ本の組み合わせから自分の興味が「定性的な論理に基づく抽象化」であることが見えてきました。これは推薦入試などにそのまま役立っています。

代表候補は合法的に受験勉強を一時停止して(あまり停止しすぎると数学や化学が生オリの律速になるので最低限はやるべきですが)、「生物」と名のつくものに全振りできるのですから、生物を広義に捉えて自分の教養を広げるなり興味分野に特化するなり自分の楽しいように時間を使いましょう。
キャンベルを脳死で読むだけがIBO対策ではありません。

IBO理論試験の対策をする

詳細は こちらの記事 を参照

代表選抜試験では、IBO理論試験の未公開過去問を解くことが多いです。そこで、代表候補ではIBO理論試験の対策が求められます。代表選抜試験が終われば、国際大会までは残り3~4ヶ月しかありません。本選から代表選抜試験までの期間の約半分です。
そこで、私は代表選抜試験の前に国際大会本番レベルまで理論を完成させることが望ましいと考えています。代表になったら実験に集中しましょう。

※2024/7/20追記 実験試験対策に関しても以下提示内容を確認し、うち2~3個は代表候補期間(10~12月)に深堀りしておくのも良いと思います(代表になってからだと全部は間に合わないため)。
尤も、本来以下の内容は本選受験時に出会っている筈ですが…。
<実験試験対策 やること>
・スケッチの練習
・マイクロピペットの練習
・統計学の基礎学習、関数電卓の確認
・バイオインフォマティクスの一般書通読
・生化学の一般書通読
・解剖学の一般書通読
・生態学の一般書通読

野暮な話をすると、金メダルは例年6~8割、銀メダルは例年5~7割です。日本勢は実験よりも理論が得意な傾向にあるため、代表選抜試験の理論試験では得意分野8割、総合6割を目指しましょう。
IBO金ラインが取れれば流石に代表選抜試験も通るはずです。知らんけど。

大学で役立つ代表候補経験

「別に代表を目指してはいない」という方のために、生物学が一番の興味ならこれをやっておくと大学に入ってから便利、というものを挙げておきます(勿論、他分野の学習を優先しているなら話は別ですが)。

キャンベル生物学の通読

メリット:
◎研究者がどのような生命現象をなぜ重視するのか分かる
 →任意の論文の重要さがなんとなく分かる
◎自分なりの生物学の描像を作れる
◎興味分野を定められる
◎受験をオーバーキルできる
デメリット:
△タイムパフォーマンスが悪い
△特定分野に興味がある人の興味をそそりにくい

IBO理論試験を英語で解く

メリット:
◎論文の図表を読む能力が身に着く
◎英語の専門用語が一通り頭に入る
デメリット:
△そもそも問題が解けないと英語も何も分からない

総括すると、「IBO理論対策を真面目にやると論文が読めるようになる」ということです。ぜひ論文を念頭にIBOの勉強をしてみましょう。得点?時間配分?それは代表を目指すなら頑張ればいいことです。

代表候補としての経験は、きっと皆様の役に立つことと思います。
皆様、よき生物学ライフを!

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