国際生物学オリンピックの理論試験ってどんなもの?

※この記事には筆者の偏見と主観が多分に含まれます。
国際生物学オリンピックの概要に関しては後日更新します。
実験試験の概要に関しては こちら から


国際生物学オリンピックの試験について

国際生物学オリンピック(IBO)とは、中高生への生物学教育の金字塔です。
参加者の実力を正確に結果へと反映するため、試験形式にはいくつかの工夫があります。

①客観式試験
 言語の差を排するため、記述なしで評価できる試験を行います。
②T/F・数値記入が主
 択一式(「1つ選べ」)の問題は消去法で解けるので不適当です。
 数値を選択肢から選ぶ問題も、概算で解けるのでやや不適当といえます。
③知識問題は避ける
 単純な知識は本質的ではなく、各国の文化によっても差が出ます。
④引っかけを減らす
 例えば「不適切なものを選べ」問題は、実力よりも注意力が問われるため不適当です。(いやIBO理論は引っかけ多いだろ)
⑤文章量を減らす
 翻訳負担を軽減するため、データの図表化などが適宜推奨されます。
⑥問題数を調整する
 問題数が多いと分散が小さくなる一方、多すぎると実力よりも処理能力が問われるため、試験には最適な問題量が存在します。
 理論試験において、実力の反映には50問×2セットが十分とのことです。

ただし、感染症流行や急な開催地変更など、特殊な内情がある場合は上の条件が十分に守られない大会もあります(特に③~⑥)。
大会によっては告知の上で形式をぶらす場合があるため、各HPには十分注意を払った上、本番に何が登場しても面喰らわないようにしましょう。私の参加した年は無告知で試験時間を伸ばされました。

理論試験の形式

標準的な年は、3時間で50問に回答する試験を2回行います。
1問につき正誤を問う小問が4つあり、正答数によって大問の得点が決定します。

<理論試験の配点>
正答数 → 得点
  0 → 0
  1 → 0
  2 → 0.2
  3 → 0.6
  4 → 1

※上のような傾斜配点は近年変更される傾向にありますが、上の条件より厳しくなることは滅多にないため、以降は上の条件を前提として戦略を説明します。

試験問題は、生物学研究における仮説検証と対応しています。
文中には論文が引用され、多くは以下のような課題をこなします。
・妥当な仮説/実験手法の構築
・結果を表現する図表の読み取り
・考察の構築、妥当性の評価
この他に、論文を引用しない知識問題や分野の概要を問う問題などが一定数与えられます。

分野について

公式ガイドラインに記載の分野基準は以下の通りです。

-細胞分子生物学 Cell and Molecular Biology(20%)
-植物解剖学・生理学 Plant anatomy and physiology(15%)
-動物解剖学・生理学 Animal anatomy and physiology(25%)
-行動学 Ethology(5%)
-遺伝学・進化生物学 Genetics and Evolution(20%)
-生態学 Ecology(10%)
-生物体系学 Biosystematics(5%)

出典:IBO Operational Guidelines v.4(筆者和訳)

そもそも、(競技)生物学における分野とはなんでしょうか。

一般に、学問の分野は「対象」と「手法」の2軸で決まります。
生物学の特徴は対象が幅広い階層に跨ることであり、分野は調べたい階層によって分類することが一般的です。
階層の違いに伴って最適な手法も変化するので、これだけで2軸に沿った分野の分類が(大まかには)成立します。

生物学の階層は、以下のように見ることが多いです。

無細胞階層ー亜細胞階層ー細胞階層ー多細胞階層ー生態階層

出典:Wikipedia(ちゃんとしたリソースは後日追加します)

ただし、動物と植物はいずれも「多細胞階層」に属しますが、使用する手法が歴史的に異なっているため分野を分割します。

また、以上に述べたのは生物の空間的な階層性ですが、生物の現在を解明する上ではその歴史的な負荷を理解する必要があります。また、生物の時間的な変遷にも短期的なものと長期的なものがあり、用いる手法は時間スケールによっても異なってきます。
つまり、時間の階層性を導入する必要がある、ということです。
「遺伝学・進化学」「生物体系学」はこうした分野にあたります。

以上で、理論試験の分野は概ね理解できるはずです。
ちなみに「行動学」は階層を跨ぐため独立ジャンルとなっている節がありますが、手法面では生態学×進化生物学みたいな面があります(私は行動学・生態学・生物体系学をまとめて「マクロ」と呼んでいます)。

※学習時は(競技生物が「問題を解決するスキル」を問う性質である限り)手法に注目した方が伸びやすいと思います。
例えば、動物生理学・植物生理学分野にも細胞スケールの手法や遺伝学的な手法が登場します。また、細胞分子生物学は生化学的な分野と遺伝学的な分野に分けて考えることもできます。

得点率別:点数が伸びないときは?

解き終わらない

典型題把握と演習でなんとでもなります。
演習題材が足りない時はJBO予選を使いつつ、過去問で色々な時短戦略を試しながら正答率との折り合いをつけていきましょう。1問3~4分が目安解答時間ですが、時間は余れば余るほど戦略の幅が広がります(代表選抜試験では時間制限が厳しめ(1問2分程度)に設定されることが多いです)。私は「3時間で100問解く」を目標に練習しました(3時間半+実装重い問題、が限界でした)。

また、理論試験には30秒で解ける問題と30分かかる問題が入り混じっているので、全問を解ききる実力がない場合は取捨選択が非常に有効です。特に中~後半に秒殺知識問題が連発する印象 ←多分バイアス

誤答(0~2/4)が多い

分野にもよりますが、おおかた高校生物のやり込み不足です。
誤答は分野ごとに分類していますか?どの分野の理解をどの知識で補えるか分かりますか?できていない分野に関して、高校生物を基礎からやり込みましょう。

完答(4/4)が少ない

平均点が4~5割あるなら、高校生物の基礎はできています。各分野の考察の癖を学習しつつ、典型題に慣れましょう。
典型題を理解すると、完答できる問題が少しずつ増えます。一度「典型題の勉強→確信のある完答」のプロセスが分かれば、後はやり込むだけです(JBOの問題や『チャレンジ!生物学オリンピック』が役に立ちそう、などと勝手に思っています)。

誤答(0~2/4)が無くせない

平均点が5割を超えても誤答が目立つ場合は、よりspecificな分野の理解不足、用語の誤解、論理の袋小路、ミスなどが考えられます。
まずは基本に戻って該当分野の教科書/スクエアを細部までやり込みましょう。高校生物の問題も馬鹿になりません。いつも失点するタイプの問題はありませんか?
調子によって2/4だったり4/4だったりする時は、自分の調子を把握・管理しましょう。自分のミスのパターン理解も大事です。

完答(4/4)が少ない

平均点が6割を超えない時は、応用的な知識・分野への理解が不足しています。マニアックな知識の穴をキャンベルなどで埋めましょう。
典型題の確認はこの段階でも大いに役立ちます。JBOの過去問から典型パターンを分析するのも良いでしょう。

IBO理論試験は年によって大きく傾向が異なるので、特定年度の内容から過学習しないように心掛けましょう。
例えば2018(イラン)は難易度がべらぼうに高いですが、2017(イギリス)は簡単です。難易度の大まかな目安はResults欄の日本代表成績から確認できます(日本代表の成績は高校生物との重複程度に比例するはず)。
個人的なおすすめ過去問は2013スイス(ミクロの典型題が多め)、2016ベトナム(動物生理の知識問題が多め←それよくないだろ)です。

情報源まとめ

・国際生物学オリンピックWebサイト(過去問)
 →Past IBOs (ibo-info.org)
「Results」欄から各国代表の成績と得点が確認可能
「Papers」欄から過去問(英語)が確認可能

・国際生物学オリンピックWebサイト(大会規定)
 →IBO rules & guidelines (ibo-info.org)
「IBO Operational Guidelines v.4」から大会規定が確認可能
(P.10…理論試験規定 P.16~18…実験試験規定)
「Designing a reliable IBO Theory」はIBO理論の裏事情研究に有効
(ただし諸々の資料は発行年度に注意)

・過去問翻訳に有用なWebサイト
 →Google 翻訳DeepL翻訳:高精度な翻訳ツール
DeepLも良いが、PDF翻訳は無料アカウントだと制限あり
Google翻訳は無制限でPDF→PDF変換が可能らしい

※JBOウェブサイト上の記述式問題は、現在の形式では出題なし


(参考)国内大会では

残念ながら、いきなり国際大会の問題を出して太刀打ちできる人は多くありません。しかし、国際大会の問題は生物教育試験の最高峰であり、これに触れれば生物学の本質的な考え方に出会えます。
そこで、国内大会では国際大会レベルの問題をぶち込みつつ、盤外戦的な誘導をつけて解答者の正答率を上げます。要は上に挙げた①②の逆ですね。

何がなんでも国内大会に通過したいなら、これを逆手に取りましょう。
理論試験(特に予選)では選択肢の誘導に乗り、「不適切なものを選べ」に引っかからないように細心の注意を払い、問題文を読みましょう。
やや本質を逸した戦法とは思えるかもしれませんが、読解力は大切です。

逆に、予選の問題で真面目に勉強したいなら、問題文がどんな生物学的課題に根ざして構築されたのかを暴き、典型題に帰着させる演習を積みましょう。このやり方だと一定数の悪問で失点する場合がありますが、少なくとも予選落ちはしません(by高2の時1点差で予選通過した人)。

また、「予選本選を好成績で通過しながら代表になれない」という状況が起こる原因もここにあると考えています(経験談)。
残念ながら(?)、上記の仕様がある以上ChatGPT的な読解力だけで本選を制することは可能です。別の国の話ですが、ChatGPT3.0が生物学オリンピックの国内大会で上位1%以内の成績を叩き出した、というデータもあります。
代表に残ることを考えるなら、思い切ってここで学び方を変えましょう。

何はともあれ、千里の道も一歩から。大局観を持ちつつ、まずはスタートラインへの切符をめざして予選に立ち向かいましょう!(締め方が分からなくなった挙句偉そうなことを言ってごめんなさい)



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