俳句を読む 35 松浦敬親 聖菓切るためにサンタをつまみ出す

聖菓切るためにサンタをつまみ出す 松浦敬親

クリスマスイブです。わたしの勤めていた会社は外資系企業なので、オフィスの中にもクリスマスツリーがいくつも飾られていました。この季節になると、一ヶ月くらい前からさまざまな場所のさまざまなものに、光の服が着せられます。ついでながら、サンタクロースに赤い服を初めて着せたのは、コカ・コーラのコマーシャルだという説があります。それがそのままサンタの服として定着してしまったのでしょうか。掲句、クリスマスケーキをテーブルに置いて、イブの夜、家族の顔がその上に並んでいるのでしょう。わたしもこの日は、横浜ダイヤモンド地下街をうろうろします。毎年、イチゴのショートケーキにするか、チョコレートケーキにするか、家族の反応をしばし想像し、楽しく迷います。この句の家には小さな子どもがいるようです。「サンタをつまみ出す」という言い方が、なんともぞんざいな響きで、かわいらしい。「さあケーキを切りますよ」というお母さんの声に、ずっと目をつけていたサンタに手を伸ばしたのは、たぶん末っ子です。どのデコレーションをだれがとるかで、子どもたちの間でひと悶着あるのかもしれません。「つまみ出す」という言葉が、これほどにやさしい響きをもつことができるのも、この日だからなのでしょう。では、素敵なイブの日になりますように。メリークリスマス。『角川俳句大歳時記 冬』(角川書店・2006)所載。(松下育男)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?