俳句を読む 45 上田日差子 春一番今日は昨日の種明かし

春一番今日は昨日の種明かし 上田日差子

季語はもちろん「春一番」。立春を過ぎてから初めて吹く強い南寄の風のこと、と手元の歳時記にはあります。「一番」という言い方が自信に満ちていて、明るい方向へ向かう意思が感じられます。春になり、日に日に暖かくなってゆくこの季節に、種明かしされるものとは、命の源であるのでしょうか。「種明かし」という語が本来持っている意味よりも、「種」と「明かす」という語に分ければ、未来へ伸びやかに広がり続けるイメージがわいてきます。昨日蒔かれた種の理由が、今日あきらかにされます。次々と花ひらく今日という日を、わたしたちは毎年この季節に、驚きをもって迎えいれます。「風」も「時」も、こころなしかその歩みをはやめてゆくようです。その歩みに負けじと歩き出すと、顔に心地よく「春一番」がぶつかってきます。余韻をもった句や、潜められた意味を持った句も魅力的ではありますが、この句のように隅々まで明るく、意味の明快な句は、それはそれで堂々としていて、わたしは好きです。よけいなことながら、作者の名、上田日差子(うえだひざし)からも、あたたかな日が差し込んでくるようです。『現代歳時記』(1998・成星出版)所載。(松下育男)


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