俳句を読む 24 岡本眸 温めるも冷ますも息や日々の冬

温めるも冷ますも息や日々の冬      岡本 眸


俳句に限らず、日々の、なにげない所作の意味を新しい視点でとらえなおすことは、創作の喜びのひとつです。作者自身が、「そうか、そんな見方があったのか」と、書いて後に気づくこともあります。掲句を読んで最初に感じたのは、なるほど「息を吐く」ことは、ものを温めもし冷ましもするのだったという発見でした。そしてこういった句を読むたびに、どうしてそんなあたりまえのことに今まで気づかなかったのかと、自分の鈍感さを思い知らされるのです。「温める」は、冬の寒さの中で頬を膨らませて、自分の体の中の温かみを掌に吹きあてる動作を言っているのでしょう。一方「冷ます」は、たとえばテーブルに載ったコーヒーカップの水面へ、横から冷たい息を送ることでしょうか。でも、いったんは冷ましたコーヒーも、結局は体の中に流れ込んで、人を温めることに結びついてゆきます。全体が、人の動作のやさしさを感じさせてくれる、てのひらで包み込むような句になっています。ところで、「冬の日々」ではなく、なぜ「日々の冬」という言い方をしているのでしょうか。理由はともかく、小さく日々に区切られた冬が想像されて、わたしはこの方が好きです。『角川俳句大歳時記 冬』(2006・角川書店)所載。(松下育男)

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