正常運転資金って何? ~新入行員・若手行員の方へ~

3月です。春です。
我々金融機関の人間は期末に向けて追い込みをかけている時期でありますが、大学生等にとっては4月から新たな環境へ飛び込む為の、準備の時期、転換の時期であります。

例に漏れず我々金融業界にも4月から新入社員・新入行員が入ってきます。

そんな転換の時期である3月に、これから金融機関の職員(特に地方金融機関)として融資を行う方々向けに融資の基本となる正常運転資金に対する個人的な見解を書いてみたいと思います。


① 正常運転資金とは何なのか?


まず計算式としては、
「正常運転資金 = 売掛債権 + 棚卸資産 - 買掛債務」で計算できます。

いきなり計算式から入って、「うっ・・・」と思うかもしれませんが大丈夫です。足し算と引き算しか使いません。

この数字の意味としては企業が事業を継続する為に必要な立替資金です。
 ●売掛債権=売上が現金化するまでの立替
  →受取手形、売掛金、完成工事未収入金等
 ●棚卸資産=仕入れた材料や作った商品が売れるまでの立替
  →商品、原材料、仕掛品、半製品、製品等
 ●買掛債務=仕入れた材料や商品の支払いの立替
  →支払手形、買掛金等
買掛債務だけは自分が支払いを待ってもらう立場だから計算上はマイナスになりますね。

考え方はシンプルで、事業でも私生活でも立替すれば手元の資金は減りますし、立替してもらえれば手元の資金は増えるということです。

そしてその立替金が一体いくらなのか?を数字で表したものが、上の計算式であらわされる正常運転資金です。

金融機関が融資をする時に見る指標の一つでもあり、
「事業の為の立替なら仕方ないよね。」
「立替したらお金が減るからその分お金が要るのは当然だよね。」
等と考えて、状況によっては赤字決算の先でも「正常運転資金の範囲までなら…」という判断で融資します。

性質的に月商2か月分ぐらいの金額になることが多いですので、若手行員の方は「運転資金は月商2か月分」と思っているかもしれませんが、実際は業態によって多種多様で一律ではありません。
計算についても先ほども書きましたが、足し算と引き算しか使いませんので、この際に理屈と一緒に覚えておけば、理解が深まると思います。


②正常運転資金のトリック


上で書いた通り正常運転資金の理解は融資をするうえで大事な要素であります。ただ、それが全てではありません。

大きな理由は二つあります。一つは正常運転資金はあくまで一時点の貸借対照表から拾った数字であること。もう一つは人件費等正常運転資金の計算式上には現れてこない支払いも多々あることです。

特に一つ目については、決算書や試算表をよく見る金融機関の人間ほど勘違いしがちな考え方です。

シンプルな一例として挙げてみます。

上の会社について仮に1月末が決算期とすれば、決算期時点の正常運転資金は0千円で決算書上は運転資金の不要な会社と判断されますが、実際は月末時点ではたまたま立替が発生していないだけで月中では立替が発生しています。

企業の支払い条件なんて100社あれば100通りですので、全てのパターンを覚えるなんてことは出来ませんが、「正常運転資金が運転資金の全てではない」という事はしっかり頭に入れておきましょう。

これが理解できていなければ、運転資金を申込する事業者さんの資金ニーズを上席や本部にうまく説明できません。


③正常運転資金は多い方がいいのか少ない方がいいのか?


ここまで書いて正常運転資金は多い方がいいのか?少ない方がいいのか?
取引先との関係や業態などもあり、コントロールできない部分も多いのですが、事業者から見ると間違いなく正常運転資金は少ない方が良いです。
「在庫を持たない現金商売」がまさに正常運転資金の少ない企業です。

ただ、銀行員の中には「正常運転資金が多い企業を好む」という真逆の考えが一定数あります。

どういうことなのか?

①でも書きましたが、金融機関の融資判断の一つに正常運転資金があり、正常運転資金が多い企業の方が運転資金を貸しやすいという側面があります。

当然貸しやすいという事は融資残高を伸ばしやすいという事です。業績ノルマの厳しい業界ですので、その考え方も理解できるのですが、「融資ありき」な考え方で、事業者の考え方とは真逆です。

事業者の考え方を理解することは金融機関にとって大切な事です。そこからずれた考えの銀行員は必ず顧客からそっぽを向かれます。

新入社員・新入行員の方々、もし配属された支店で先輩がこういうことを言っていたら「あ、ふ~ん・・・」と思っていてください。


④最後に

色々と窮屈な業界ではありますが、今回話題にした融資業務については身に着けておいて損はない能力です。
いいことばかりではないですが、やりがいもある業界ですので、一緒に頑張りましょう。



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