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ビジネスマンのためのさくっと分かるコーポレートガバナンス ー 「同意なき買収」とは何?何故最近増えているの?


同意なき買収

先日の日経新聞で次の記事がありました。

「同意なき買収」という言葉は最近、ニュースや新聞で目にすることが多いと思います。本日は、この同意なき買収とは何であるか?何故増えているのか?について簡単にお話をしたいと思います。まずこの「同意なき買収」の言葉の定義ですが、どういう意味でしょうか?

同意なき買収とは、買収対象会社(=買収のターゲットとなっている会社)の経営陣の賛同を得ないままなされる買収のことをいいます。数年前までは敵対的買収と言われていました。

誰にとって敵対的なのかですが、これは対象会社の経営陣にとって敵対的という意味です。株主やステークホルダーにとってはプラスの買収であっても、経営陣が買収に賛同しない限り敵対的となるのです。分かりやすく言うと、買収されると通常は経営陣はクビになるので、自分をクビにする人々にとっては敵対的ということです。

これまでは何故同意なき買収は少なかったのか?どうして最近増えているの?

過去にも同意なき買収は勿論ありましたが、件数は少なかったです。理由は、経営陣の同意を得ない買収に対する世の中の風当たりが強く、買収者のアドバイザーを引き受ける証券会社等が少なかったからと言われています。

証券会社は多くの上場企業と取引をしています。そのような中にあって、同意を得ない買収者のアドバイザーになると「とんでもない証券会社だ」ということで悪い噂が立ちます。レピュテーションリスクを嫌い引受け手が少なかったと言われています。買収は対象会社の経営陣の同意を得た上で行うものという意識が強かったのでしょう。買収による株主の利益よりも、対象会社の経営陣営の論理が優先された時代が長らく続いたということです。

けど、最近は増えています。その要因の1つには機関投資家の意識の変化があります。2014年にスチュワードシップ・コードが制定され、機関投資家は投資先企業の企業価値向上を目指し、アセットオーナーの儲けを真剣に考えよとされました。また、議決権行使結果の個別開示も始まりました。これにより、機関投資家は投資先企業をより客観的に評価することが求められるようになったのです。

そして、もう1つの大きな要因は、冒頭の日経新聞の記事にもあるように経済産業省の策定した買収方針です。この方針についてはnoteでも何度か話をしたこともあり詳細な説明は割愛いたしますが、この方針により、企業は同意なき買収が提示された時にそれが真摯な提案である限り、取締役会でしっかりと検討して対応せよとなったわけです。

同意なき買収提案であってもその内容が企業価値向上に資するものであれば、経営陣はしっかりと検討してその結果を株主に説明し、会社の対応を決めよと国が言うのです。これが買収者の背中を押すことになります。

コーポレートガバナンス改革と同意なき買収の関係は?

そもそも日本のコーポレートガバナンス改革の始まりは、2014年の日本再考戦略でも言われたことですが、日本企業の生産性が低く、利益率が低い中、この利益率を高めるには、経営者のマインドを変革して、M&Aをはじめ事業ポートフォリオの変化を進めよというのが始まりです。そして、この改革を進めるに当たり、社長を頂点とするサマリーマンのピラミッド構造に組み込まれている社内取締役では無理なので、社外取締役を活用しようと言うことです。

会社のお給料を生活の糧にしている社内取締役が社長に意見を言うのはまず無理です。社長に嫌われるとクビになるからです。勿論、サラリーマン社長には任期があるので、任期が残り1年で、次の社長候補らに自分が気に入られている社内取締役であれば、現在の社長に何の遠慮もなく自分の意見を強く言えますが、まあこれは例外です。

そこで社外取の出番です。社外取は宇宙人のような感覚で社長にずけずけと物が言えるはずで、社外取にはそれが期待されているのです。社外取は不採算事業の売却、事業ポートフォリオの見直しを提言せよということです。同意なき買収は企業の事業ポートフォリオ改革の1つの手段です。

同意なき提案があった場合には、社外取は経営陣の意思を慮ることなく真摯に企業価値が向上するか否かを検討することが求められているのです。つまり、同意なき買収はコーポレートガバナンス改革と方向性があっているということです。今後、益々増えますね。